イスラエルの日常は、紀元前3761年10月7日を創世紀元とする太陰太陽暦の一種であるユダヤ(ヘブライ)暦に沿って進んでいきます。ユダヤ暦では1年が353、354または355日であるため、19年に7回の頻度で閏月(第13月)が挿入されます。新年は秋分ごろの新月の日にあたり、2023年は9月15日の日没からユダヤ暦5784年がはじまります。今回は、日本の感覚とは全く異なる暦に沿って行われるユダヤ教の祝日を時系列で追うことで、イスラエルの一年を紹介します。
目次
ユダヤの一年が明ける、ロシュ・ハシャナ(9〜10月)

ロシュ・ハシャナ(ヘブライ語で年初の意)はユダヤ教の新年で、丸二日に渡って祝われます。神が人間を裁く日とされ、ショーファー(角笛)の音は、神の前に出る時がきたという呼びかけを意味しており、懺悔や反省をする日とされています。
家族で集まり甘い新年を祈って蜂蜜をつけたりんごや、子孫繁栄を願ってザクロなどを食べます。日本の新年とは対象的に、まだまだ暑さ厳しい中、家族が集ってバーベキューで祝うのが一般的。ここから、約3週間にわたるユダヤ暦の新年期間がはじまります。
ロシュ・ハシャナから10日後 – ヨム・キプール(9〜10月)

ロシュ・ハシャナの10日後、ユダヤ教最大の祝日の一つであるヨム・キプール(贖罪の日)がやってきます。この日は神が人々を許し、罪を赦すとされ、断食や祈りを通じて贖罪を求める日とされています。敬虔な宗教家のみならず、国民の半数以上が丸一日の断食を行うほか、この日は車の運転も避けるべきとされ、国際空港も閉鎖されます。
路上から車が消えるため、断食をしない子どもたちにとっては自転車遊びの天国のような日となり、高速道路を含む車道を自転車や徒歩で散歩するという非日常を楽しむ、家族連れやグループで賑わいます。
ヨム・キプールから5日後、8日間のスコットのはじまり(9〜10月)

ヨム・キプールの次はスコット(仮庵の祭り)、ユダヤの新年は重要な祝日が目白押しです。何百年もの間エジプトの奴隷であったユダヤ人が出エジプトを果たした後、荒野を40年間彷徨った故事を記念しています。この期間中は「スカー」と呼ばれる小屋を作り、特に宗教家たちはそこで一日の一部または大半を過ごします。世俗派の家庭では、子どもたちが期間限定の部屋ができたとばかりに大はしゃぎ!
ユダヤ教ではこの期間は懺悔と自己改革を促す時期(テシュバー)であるとされ、自分自身や周囲の人々を許し、和解を目指すことが推奨されています。
光の祭り、ハヌカ(11月〜12月)

ヘブライ語で奇跡を意味するハヌカ(光明の祭り)は、西暦の12月ころにあたります。シリアのセレウコス朝の支配下にあったユダヤ人たちがエルサレムの聖殿を奪還した故事にちなんだ祝日。奪還後、神殿を清める十分な量のオリーブ油を見つけることができませんでしたが、本来1日分の油が8日間も燃え続けたという奇跡が起こったと伝えられています。
期間中は、メノラーと呼ばれるキャンドルスタンドを使い、8日間にわたって蝋燭を灯す儀式が行われ、油を使った食べ物が多く供されます。写真は、この時期にだけ食べられるスフガニヤと呼ばれるジャムなどの入ったドーナツ。
樹木の新年を祝う、トゥ・ビ・シュバット(1〜2月)

ユダヤ暦でシュバット月(11番目の月)の15日目を意味するトゥ・ビ・シュバットは「樹木の新年」を祝う日です。西暦では毎年1月頃に当たり、イスラエルのこの時期は雨季。木々が芽吹き、花が咲き始め、新しい一年のサイクルが始まる時期でもあります。トゥ・ビ・シュバットは、この自然界における新生をお祝いする日で、ドライフルーツやナッツ類を食べる習慣があり、植樹などの活動も盛んに行われます。
ユダヤの祝日で一番ハッピーなお祭り!プリム(2〜3月)

旧約聖書の「エステル記」を祝うプリムは、ユダヤの人々が古代ペルシャ帝国において民族滅亡の危機から逃れた事を記念し、仮装して祝うお祭りです。
エステル記は「悩みが喜びに、嘆きが祭りに」変わった物語であり、このどんでんがえしを象徴するのが仮装というわけです。プリムを象徴するお菓子「ハマンタッシェン」は、けしの実のジャムをクッキー生地で三角形に包んで焼いたもので、「オズネイ・ハマン」とも呼ばれています。
ペサハ(3〜4月)

旧約聖書が起源のお祭りであるペサハ(過越祭、過ぎ越しの祭り)は、モーセがエジプトで奴隷として使役していたユダヤの民を引き連れてエジプトを脱出したことを記念します。
ペサハの一週間は、発酵食品を食することや見ることが禁止されており、クラッカーのようなマッツァと呼ばれる無発酵パンを食べます。これは、エジプトから脱出する間、パンを発酵する時間を惜しんだ故事にちなんでいます。
ヨム・ハショア(4〜5月)

ヨム・ハショア(ホロコースト記念日)は、ユダヤ史上最も悲惨な出来事である、ナチスによるユダヤ人の大虐殺を追悼するための日です。
この日は朝10時に2分間のサイレンが鳴り、その間は走っている車さえも路肩に停車し、車から降り黙祷を捧げます。普段は騒がしい街が静寂に包まれる中、全国民が一斉に黙祷する姿は感動的ですらあります。
ヨム・ハジカロン(4〜5月)

戦没者追悼記念日(ヨム・ハジカロン)は、戦争や紛争により亡くなった兵士や犠牲者、およびテロリスト攻撃によって亡くなった市民を追悼する日です。
この日はサイレンが鳴り、国家全体が1分間の黙祷を捧げます。また、公共の場所や建物、車両などに多くの国旗が掲げられる、国民の団結を象徴する日でもあります。
独立記念日(4〜5月)

1948年5月14日、イスラエルの独立宣言がテルアビブのメインストリートにある旧市庁舎において、初代首相ダヴィッド・ベン・グリオンによって行われました。この日が独立記念日(ヨム・ハツマウート)とされ、開放的で喜びに満ちたムードに包まれます。国民総出でバーベキューを楽しみ、全土で祭りが開かれ、花火やパレード、スポーツイベントや音楽フェスなどが開催されます。
ラグバオメル(4〜5月)

ペサハからシャブオットまでの7週間、オメル(麦の束)を1日ごとに数えていき、33日目にあたるのがこの日。ラグはヘブライ数字で33をあらわします。
宗教的な祝日ではありますが、世俗的なユダヤ人はラグバオメルを楽しい伝統行事として、焚き火をたいて祝う風習があります。子どもたちが焚き火にアルミホイルに包んだジャガイモをくべたり、マシュマロを炙ったりして楽しむこの日は、窓を閉め切っても煙の匂いがすることも…。
シャブオット(5〜6月)

シャブオットは、ペサハ(過ぎ越しの祭)から数えて7週目(50日目)にあたるため、七週の祭りとも呼ばれます。ヨム・キプールやペサハと並び、旧約聖書の出エジプト記に基づくユダヤ教三大祭のひとつとされています。シャブオットは初夏の陽光に感謝する祭りであると同時に、律法(十戒)が授けられたことを記念する祭りでもあります。
子どもたちはテネと呼ばれる花かごを作ったりして遊び、夕食では家族が集まり肉を食べずにピザやキッシュ、パスタやケーキなど乳製品を使った料理でお祝いします。
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