イスラエルでアーモンドの花が咲く4月頃、イスラエルに短い春がやってきます。そして春のユダヤ教行事として欠かせないのが「過越祭(過ぎ越しの祭り)」です。
過越祭とは、聖書に記載がある、モーセがエジプトで奴隷として苦しんでいたユダヤの民を引き連れてエジプトを脱出したことを記念する、ユダヤ教の行事のこと。過越祭は英語では「Passover(パスオーバー)」、ヘブライ語では「Pesach(ペサハ)」と呼ばれています。
過越祭の日程はユダヤ暦ニサン月14日の夜から1週間とされており、毎年日程が変わります。2023年は、4月5日から4月13日までが過越祭にあたります。
目次
過越祭(過ぎ越しの祭り、ペサハ)の由来
過越祭の由来は、旧約聖書の出エジプト記に記載があります。
聖書によると、エジプトで奴隷になってしまったユダヤの民は神様に祈り、預言者のモーセを派遣してもらいました。モーセはユダヤの民を解放するよう訴えましたが、エジプトの王であるファラオはユダヤの民を解放するのを断ります。
そこで神様は、エジプトの王であるファラオがユダヤの民を解放するまで、十(とお)の災いをもたらします。
十の災い(とおのわざわい)
- ナイル川の水を地に変える
- カエルを放つ
- ブヨを放つ
- アブを放つ
- 家畜に疫病に流行らせる
- 腫れ物を生じさせる
- 雹(ひょう)を降らせる
- バッタを放つ
- エジプトを暗闇で覆う
- 最初の子どもを皆殺しにする
最後の災いの前に、神様はモーゼに扉に印がない家にその災いをもたらすと伝え、モーゼはユダヤの民に扉に赤の印をつけるように指示しました。こうしてユダヤの民は、扉に赤の印をつけたことでその災いを受けずに済んだ、つまり「過ぎ越した」ということが「過越祭(ペサハ)」の名前の由来です。
この災いにより長男を失ったエジプトの王ファラオは、ついにユダヤの民を解放。しかし解放からわずか3日後、気が変わったファラオは軍隊を率いてモーセたちを追い詰めます。そしてモーセたちが紅海に追い詰められたとき、モーセは杖を上げて海を割り、ユダヤの民のための道を作りました。これが彼の有名なモーセの海割りです。
ユダヤの民が無事に道を通過した後、モーセは海を元に戻し、追いかけてきたエジプト人を海に沈めます。その後、ユダヤの民は40年間砂漠で彷徨ったあと、ついに約束の地に辿り着くのです。
過越祭(ペサハ)の準備
過越祭(ペサハ)の一週間は、発酵食品を食することや見ることが禁止されています。これは、神話によると、エジプトから脱出する間、ユダヤの民はパンを発酵する時間がなかったことに由来しています。
イスラエルで発酵食品は「ハメツ」と呼ばれ、過越祭(ペサハ)の準備ではこのハメツを捨てたり、燃やしたりします。また特別な穀物フリーの環境で作られていない食べ物についても、ハメツと接触した可能性があるため、過越祭の前に処分されます。
過越祭(ペサハ)の時期は、ハメツの販売が禁止されているため、スーパーのハメツコーナーはカバーで覆われます。またスーパーの出入り口には寄付のコーナーが設置され、買い物客はわざと多めに買い物をし、貧困に苦しむ家庭を援助するため寄付を行います。
過越祭(ペサハ)を祝う晩餐「セーデル」
過越祭(ペサハ)は「セーデル」と呼ばれる、過越祭の最初の夜に行われる特別な晩餐から始まります。セーデルには親戚や友人が集まり「ハガダー」と呼ばれる、「出エジプト」にまつわる書物にのっとり晩餐を進めます。
ハガダーは様々な出版社から出版されており、過越祭の式次第、出エジプトの物語、過越祭の解釈、歌の歌詞、お祈りの言葉などが記載されています。
セーデルでは4杯のワインを飲む
セーデルでは、ユダヤ教で神の「4つの約束」を表すため、ワインを4杯(子供はぶどうジュース)を飲む習わしがあります。グラスを左に傾け、ワインを4杯注ぎ、5杯目はメシアの到来を告げる預言者エリヤの分とされ、ワインは注ぎません。
そしてセーデルのある時点で、上座に座る人はアフィコマンと呼ばれるマッツァ(クラッカーの様なパン)を布で覆ったものをどこかに隠し、食事後に子供たちは誰が一番最初に見つけられるか競争します。最初に見つけた人はプレゼントをもらうことができるのです。
過越祭(ペサハ)の食事
セーデル・プレート
過越祭(ペサハ)を祝うセーデルでは、セーデル専用のプレートに盛られた特別な食事をとります。
セーデルプレートにのったそれぞれの食べ物がそれぞれの意味を持っています。
- マロール(苦みのある野菜、西洋わさび、ホースラディッシュなど):エジプトで奴隷となったユダヤ人の苦難を象徴
- ゼローア(子羊の骨付きロースト):犠牲の子羊を象徴
- ハロセット(りんご、くるみ、赤ワインなどで作ったペースト):エジプトで奴隷として働いていた時に課せられた日干し煉瓦作りの土、泥を象徴
- カルパス(苦みのある野菜、パセリ):エジプトで奴隷となったユダヤ人の苦難を象徴
- ハゼレット(苦みのある野菜、レタスなど):エジプトで奴隷となったユダヤ人の苦難を象徴
- ベイツァー(ゆで卵):エルサレム神殿に捧げられたお供え物を象徴
無酵母パン、マッツァ
先述の通り、過越祭(ペサハ)の期間は酵母を含む食べ物が禁止されているため、マッツァと呼ばれるクラッカーのような無酵母パンを食べる習慣があります。マッツァは厳格な監視の下で作られ、生地が膨れることのないようこね続け、18分以内に作り終えなければなりません。
他の食べ物についても、同様のルールに従う必要があり、過越祭(ペサハ)に適しているという証明を得なければなりません。マッツァを細かく砕いたものを小麦粉の代わりとして使った料理を作る人もおり、この時期には多くのグルテンフリー食品がお店に並びます。
また過越祭(ペサハ)は春の行事のため、多くの人はピクニックなどをして過越祭(ペサハ)を過ごします。食事については過越祭ならではの制限がありますが、自由をお祝いするとても陽気な祝日です。
過越祭(ペサハ)に歌われる曲はこちら↓