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BUSINESS

【後編】「障がい者雇用」とは?世界の意識を変える、株式会社スタートラインとシェクロ・トーブ・グループの取り組み

by 中島 直美 |2025年05月20日

障がい者雇用の常識を覆す革新的なモデルが、イスラエルとの協力により日本に導入されようとしています。前編に続き、この画期的なサービスがどのような影響を与えるのか、また導入に向けた具体的な取り組みについてご紹介します。


イスラエルのGood Coffeeで実地研修を行ったスタートラインのメンバーたち

苦労と失敗の連続だった、シェクロ・トーブ・グループの黎明期

現在はイスラエルに195件もの職業訓練ユニットを持つシェクロ・トーブ・グループですが、「今のように広く社会に受け入れられるようになるまで、ゆうに10年はかかりました」というのは、国際事業開発部長のオフィールさん。

例えばシェクロ・トーブ・グループは、工場で作ったチョコレートやろうそくなどをショッピングモールのポップアップで販売するTNXという事業も手掛けています。


「障がい者がショッピングモールで物品販売をする。その許可を得るのすら最初は一筋縄ではいきませんでした。いわく、”そういう人達”がショッピングモール内をうろつくのはちょっと…。他の客を怖がらせても迷惑なので…。言い訳はいくつでもあり、どのショッピングモールにも断られました」


今ではそんな話が信じられないほど、イスラエルではあちこちのショッピングモールでTNXのポップアップを見かけるようになりました。なぜ、そんなことが可能になったのでしょうか?


カフェで共に働き実地研修を受けるスタートラインのスタッフ

コーエンさんは言います。

「私たちのビジョンは、単に職業訓練や就労支援ネットワークを確立することではありません。障害のある人々を社会がどのように認識するかに対して、本質的な影響を与えることです。長年にわたり、障がい者達は支援を必要とする人々として見られてきました。しかし、私たちの事業は、彼らが働き、収入を得て、社会の重要な一員として貢献できることを示しています」


スタートライン×シェクロ・トーブ・グループの研修と今後

イスラエルに来て、シェクロ・トーブ・グループの研修を受けた、スタートライン社のスタッフの皆さん。その一環として、グッド・コーヒーで職業訓練サービスを受けている利用者達と共にカフェを運営するという実体験も行いました。

「日本にも、グッド・コーヒーが開店するの?」「開店したら、私を呼んで!力強い働き手になるわよ!」

元気で賑やか、和気あいあいとした様子のカフェでは、働いているうちの誰が「障がい者」で誰が「健常者」なのか、正直見分けがつかないこともあります。


それでも訓練として皆で楽しく一緒に働いていても、思いもかけない事件が起きたりもします。でも、現実の社会は訓練よりも厳しい世界です。一般社会に出て就職すれば「この人は障がい者だから」といって失敗を見逃してくれる上司や同僚やカスタマーにだけ囲まれて仕事をするわけにはいきません。思いもかけない出来事にも対応し、乗り越えていかなければなりません。訓練の場は楽しい雰囲気ながらも、その現実を体験できる場所でもあるのです。


イスラエルのシェクロ・トーブ・グループ本社にて歓迎を受けるスタートライン取締役の長谷川氏

「大切なのは、障害の名称や、どんな病気を持っているかではなくて、本人が何に困難を感じているか、どうすればそれを乗り越えられるかなのです」シェクロ・トーブ・グループのスタッフはそういいます。


スタートラインのスタッフたちの研修第一日目には「仕事上、自分がもっとも苦手とし、困難を感じることは何か」について話し合う機会が設けられました。


「それではその困難度がある日突然10倍に増えたとしたら、あなたの現在はどのようになっていると思いますか?」

「初めての人に会うのはとても緊張するし苦手に思う」、「仕事に優先順位をつけて時間管理をしながら進めることを難しく感じる」…仕事に対してそのような苦手意識を持つと言っていた参加者達は、自分が苦手とする困難を10倍に増やすことを想像して答えます。

「今やっているこの仕事には就いていなかったと思う」「同僚に迷惑をかけ続けることになって、もう、仕事に行くのが嫌になるかも」…

シェクロ・トーブ・グループに就職する人はかならずこういった研修を受け、さらに就職試験には必ず職業訓練サービス利用者による面接も行われるとのことでした。


イスラエルのシェクロ・トーブ・グループ本社にて障がい者就職支援モデルを学ぶスタートラインの担当者の皆さん

1週間にわたる研修を終え、日本に帰ったスタート・ライン社のスタッフの皆さんは、日本におけるグッド・コーヒーモデルのカフェ開店の準備をすでに始めています。


シェクロ・トーブ・グループと出会い、グッド・コーヒー日本導入の立役者となったスタートライン取締役長谷川新里さんはこう話します。

 「シェクロ・トーブ・グループの障がい者就職支援モデルは、社会的にもビジネス的にも有効な解決策を提示しています。このモデルは、障害を持つ人々を支援が必要な弱者としてではなく、適切なサポートがあれば十分に活躍できる能力を持った人々として捉えています。私たちは、この包括的なモデルを通じて、日本における障がい者の自立と社会参加を促進し、将来的にはこのモデルによる職業訓練所をさらに開設することを目指しています」


さいごに

日本におけるグッド・コーヒー・モデルの就職支援ユニット第一号は埼玉に開設される予定なのだそうです。

グッド・コーヒー日本版が開店される時には、私もぜひおいしいコーヒーを飲みに行くことができれば…そう願っています。






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