小さな折り鶴のピアスや着物の生地で作られたハンドバッグなど、和風の創作小物を販売するイスラエル在住の日本人作家がいます。イベントでポップアップの店舗を出したり、コロナの頃はECサイトで美しい着物生地から作られたマスクが販売され、人気を博しました。そんな彼女がECサイトから対面販売の店舗へと事業を移動すると聞き、新しく開いたお店、Do-Moへ取材に行ってきました。

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和風小物作家、エドリー麻衣子さん
お店があるのは、テルアビブから北へ約60キロ程離れた小さな町パルデス・ハナにある「芸術家たちの馬小屋」です。この「芸術家たちの馬小屋に」ついては以前、こちらの記事でも少しご紹介しましたが、「自由で独創的な生き方を模索する人々が集まる町」とイスラエルでも噂の高いこの小さな町の住民たちの憩いの場所。元は馬場だった場所を改造して作られた、地域色豊かで個性的、地域に根付いた複合型商業施設です。

「お店を開いたばかりでまだ完全な状態ではないですけど…」とそれでも快く取材を受け入れてくださったのは、作家のエドリー・麻衣子さん。
彼女はイスラエル人の旦那さんと二人のお子さんを持つお母さん。日本では服飾学校でデザインや裁縫を専門に学び、旦那さんと共に10年前にイスラエルに引っ越してきたそうです。
お店の中には着物生地を使ったハンドバッグや扇子や帽子といった小物、日本のサブカルチャーや現代風アートの切り絵、つまみ細工のアクセサリーなど、様々なものが並んでいます。扉を開けて一歩お店に入ると、東京の隠れ家的な独特な雰囲気のある世界に入り込んだようです。

麻衣子さんとイスラエルの出会い
麻衣子さんが最初にイスラエル人と知り合ったのはワーキングホリデーを利用してオーストラリアにいた頃だそうです。
「彼らにとってもオーストラリアは外国なはずなのに、自動車旅行でもなんでも軽々と自由に行動するイスラエル人を見てすごいなあ!と思ったことを覚えています。開放的で自立していて、それでいてコミュニティーとのつながりもしっかりしている、そんな印象でした。
そこから私はすぐにイスラエルへと向かったわけではないのですが、それでも初めてイスラエル人に対して抱いた印象はイスラエルで暮らす今も間違っていなかったと思っています。
コミュニティにおけるイスラエルの助け合い精神はすごいものがあるし、イスラエル人は日本人の私には信じられないほど自由を重んじるし、自然体ですね。」

麻衣子さん自身も型にはまらない芸術家のような雰囲気があったので、それを含めて冗談交じりに「麻衣子さんもかなり自由人ぽい印象ですけれど?」と問いかけると、
「いやもう、イスラエル人の自由さはすごいから。」と大笑いしながら初めてイスラエルに来た日のことを話してくださいました。
「結婚する前に夫の家族に、挨拶というか顔合わせみたいな感じで初めてイスラエルに来ました。」
麻衣子さんの旦那さんは、国費留学生として日本で勉強した後、日本のリクルート系の会社で働いていらっしゃったとのこと。その頃知り合ったのだそうです。
「私の夫はエルサレム出身のモロッコ系ユダヤ人です。モロッコ系はイスラエルに暮らすユダヤ人の中でも熱い血というか(笑)、結束した家族愛で有名ですね。でも、初めのころはそんな予備知識もなかったですよ。」

「イスラエルに初めて到着した次の日、夫の家族が婚約サプライズパーティーを開いてくれたんです。大人数の家族が一堂に集まって、夜遅くまで庭で大バーベキュー大会です。
私は始めてのイスラエルで右も左もわからないし、時差も相まってくらくらしているところに、もう、バーベキューの煙がモクモクで前も見えないような中、どこからともなく現れた派手な衣装のベリーダンスの踊り子たちが腰を振りながら私と旦那を取り囲むわけですよ。周りもやんややんやの大喝采。皆、飲めや歌えやですっかり賑やか。
まさか個人宅のパーティーでプロの踊り子(それもベリーダンス!)が何人も準備されているなんて思ったこともなかったし、一般的な住宅街でこんな大音響で、さらにすべてがサプライズだったので、本当に一体何事か!と驚きました。
もう、お酒でも飲まないとやっていられない、という感じで、これから家族となる予定の初対面の人々と一緒にショットをがんがん飲みまくり、一緒になって騒ぎました。今となっては本当に良い思い出ですが、あの時は度肝を抜かれましたよ。イスラエル、すごいところだなあ~と思ったものです。」

「結婚してから3年ほど日本で暮らした後、夫の希望もありイスラエルに移住しました。
イスラエルもいいことばかりではありませんし、言葉も知らなかった外国で暮らすわけですから楽なことだけではありませんでしたけど、でもイスラエル人は心が広いので受け入れてもらっているという感じがあります。日本に戻ろうと家族で計画した時期もありました。いろいろな理由から結局は取りやめになりましたけど今は落ち着いています。ここで暮らすのが私にあってる、そう思っています。」
麻衣子さんの楽しい話に引き込まれ、大笑いしながら話を聞いていました。実は麻衣子さん、ニュージーランドに住んでいたころはその話術でお客を魅了し、店長に認められて就労ビザを手に入れたという強者。インタビューでは、ここに紹介しきれないほどのたくさんの楽しいお話を伺いました。
Do-Mo に並ぶ日本の小物たち
お店に目を戻すと、ひときわ目を引くのが色とりどりの浴衣や着物。たくさんおかれているのでこれも売り物なのか、イスラエル人がどんな機会にこれを着るのか、どんなふうに着こなすのか、ちょっと興味がわいて「これ、売ってるんですか?」とつい聞いてしまいました。

「もちろんですよ!以前は襟を細工したりポケットを付けたり、「着付けなくても普段使いができる羽織りもの」というコンセプトで着物を加工していたのですが、いろいろと手を加えなくともイスラエル人は着物を自由に着こなせるということがわかりました。」と麻衣子さん。
「着物って、思いの他どんな服装にもマッチするんですよ。親戚の結婚式用に、ちょっとおしゃれなパーティー用に…とお買い求めの皆さん、自由に着物を活用してくれています。」
なるほど、日本人の私などは着物はきちんと着付けるもの、という先入観があって身近なものとは言い難いのですが、そんな先入観から解放されたイスラエル人は気軽に着物を利用するそうなのです。
朱地に金をあしらった華麗な花柄から、深みのある藍にクラシックな扇模様など、和の服を気軽に着こなして、どんな服装にもあうこの一枚でおしゃれ度をワンラックアップさせています。

私はクリーム色の地に優しい色の花をあしらった豪華な一着がとても気に入ってしまいましたが、残念なことにすでに予約済みとのことでした。
「このお店は私のスタジオでもあるので、ちょっとしたお直しならその場でできます。ほら、ここのミシンで。」
お店の片隅には作業台とミシンがあり、麻衣子さんはここで小物をつくったり着物のちょっとしたお直しなどもやっているのだそうです。

Rebirthで生まれ変わる着物達
スタジオ兼お店のこの場所で、麻衣子さんが作っている作品について聞いてみました。
「帯や一部難ありの着物の布を再利用して作った小物は、私のブランドRebirth(リ・バース)の商品なんですけれど、RebirthはDo-Moの店舗でも中心となる商品として扱っています。」と麻衣子さん。
どんなきっかけでこのブランドを立ち上げたのかを尋ねる私に麻衣子さんが答えてくださいました。
「Rebirthというブランドは、もちろん日本の着物を加工することでそれが別の服や他の小物などに生まれ変わるという意味もあるし、古着も加工するのでエコロジカルな側面の意味もあるんですけれど、実は、私自身が生まれ変わる、本当はそんな意味があるんです。」

麻衣子さんは続けます。
「人生すべて順風満帆…そんな人は少ないと思います。時には記憶を封印してしまいたくなるようなひどい出来事も、世の中にはあるものです。私にも以前、そんなことがあったのです。
その出来事を直視してそれを乗り越えることができるのか、本当にそうするべきなのか…。その問題や人にもよると思うのですが、それが重すぎて日常生活を普通に営むこともままならなくなるという場合もあるでしょう。
私にもそんな時期があり、そうなると母親として子供に与える影響を心配してはさらに落ち込んでいくというような悪循環にも陥りました。長く苦しい時期でしたし、またそんな時期がめぐって、いつ私を襲ってくるかもしれないという不安もあります。でも、それを大きなきっかけにして、私はこのブランドを立ち上げました。

私自身が生まれ変わりたい。息を吸って新しく生まれたい。万が一またくじけるようなことがあってももう一度生まれ変わって立ち上がりたい。そんな意味があるんです。」
麻衣子さんの話してくれた内容には衝撃的なこともありました。それでも私は麻衣子さんの作品からは苦しさやつらさ、悲壮な感じを受け取ることはありませんでした。イスラエルにあるのに、ちょっと日本の都会にいるような、それもアンダーグラウンドテイストのある凛とした大人の雰囲気…そんなセンスあふれた空間。かっこいいな、と思うのです。
地元の人々がお店に入ってくれば、お店はあっという間ににぎやかになります。ああでもない、こうでもないと、商品を手にとっては大きな声でおしゃべりをしていくお客さんたち。日本とイスラエルが融合する瞬間のようです。
日本とイスラエルの間に立つのは麻衣子さん。お客さんたちは皆とても楽しそうな笑顔で、好奇心に満ちた目は輝やいています。

「この、Re-Birthの服は、イベントなどがあるとお客さんに自由に試着してもらって、写真を撮ってもらっています。」と麻衣子さん。
日本ファンの若者たちが大喜びで次々と試着をしては写真をSNSで拡散してくれるので、宣伝効果もあるのだそうです。
「試着があまりに人気なので、コスプレ風にして貸衣装のようにお金を取れば?とアドバイスしてくださる方もいらっしゃいますけど、今のところそれは視野に入れていません。あくまでも試着です。興味を持った方には手にとって試していただいて、そこで出会いがあればお買い求めください、というスタンスです。」
このRe-Birthの服や小物が面白いのは、人を選ばないところ。若者や年配の方、落ち着いた雰囲気や華やかな雰囲気の人…誰にでもぴったりとフィットする感覚があります。着物の生地や柄のなせる業なのでしょうか?
日本では逆に箪笥の奥に眠りがちな和の服が、形を変えて遠くイスラエルで普段着として愛用されている…。まさに生まれ変わりを目の当たりにする思いです。

”バイト・ヤパニ”、日本ハウス、Do-Moの誕生
麻衣子さんにこの店舗、DO-MOを立ち上げたきっかけについて伺いました。
「以前からちょこちょこと自分でデザインした服や小物を作ってはそれを売っていました。先にも話したようにオーストラリアやニュージーランドでも数年暮らした経験がありますが、そこでアパレル関連の売り子をしていたこともあります。
ここイスラエルでもイベントなどでポップアップを出したりECサイトでいろいろと売ってきましたけれど、私はここをバイト・ヤパニ、日本ハウスにしたいと思っているんです」と麻衣子さん。

「イスラエルでは、多くの方が親日で「日本大好き!」って言ってくれるじゃないですか。若い子たちもそうですけれど、年配の方々とかも皆、日本というと目をキラキラ輝かせてくれますよね。いろいろな社会層の老若男女を問わず、多くの方が日本を愛してくれるのが、イスラエルだと思います。
だから、誰でもここに来れば日本に出会える、そんな場所を作りたいと思ったのです。
単にモノを売るだけでなく、旅行に行きたい人行った人、ちょっと日本のことを話したい人聞きたい人、そんな風に、日本とつながりを感じたい方皆に、ここに来て頂きたいという気持ちがあります。気軽に日本を手に取って見て、感じてほしいです。
もちろんモノが売れなくては商売がたちいかなくなりますからそれは重要ですけれど、それと同じかそれ以上に、来てくれる人が日本を楽しめる空間を作りたい、そう思っています。
遠くに住んでいらっしゃる方にも、ここに来ればそれだけの価値がある、そんなふうに思っていただける空間を作ることを目指しています。」

「それから、ここイスラエルには在留邦人も結構いらっしゃって、中には自分の専門や得意分野を活かして商品を販売して生計を立てている方もいるんです。
このつまみ細工の小物は日本人とイスラエル人のミックスルーツの女性が作った作品です。ナチュラルなアロマエッセンスをふんだんに使ったキャンドルもイスラエルに住む日本人女性の作品なんですよ。ISRAERUマガジンで記事にもなっていましたが、イスラエルで学んだ陶芸を活かして商品化したSibubuのカップもおかせてもらっています。
日本文化と一言で言っても、いろいろな側面がありますよね。伝統的なものやビンテージ、漫画やアニメに、サブカルチャー…そういったカテゴリーにこだわらず、日本の芸術を愛する私の直感が美しいな、ステキだな、好きだな…と感じたものがあればお店に取り入れてイスラエルに紹介していきたい、そう思っています。
さらに、イスラエルで生活する日本人の連携を強めることができるような、イスラエル人も日本人も共に手を差し伸べあえる場となるような、そんなお店にしていきたいと思います。」

開店第一歩を踏み出したバイト・ヤパニ(日本ハウス)Do-Mo。
「6月にやっとオープンにこぎつけることができました。でも、一度開けたらそこからが始まりですから。
芸術家たちが集まる「馬小屋」、私にとっては本当に居心地が良い場所です。そんな一角に私のセレクトショップを開く。それは私にとっては自然なことなのですけれど、今、ついにその時が来たんだ、そんな風に思っています。」
持ち前の自由な発想と柔軟性、そして芯の強さで、バイト・ヤパニを開店した麻衣子さん。イスラエル在住の日本人として、筆者もDo-Moが末永く愛されるお店になってほしい、そう思いました。
皆さんも、イスラエルの新しいバイト・ヤパニ、Do-Moにぜひ足を運んでみてください。興味深い話や商品と一緒に、日本のこと、イスラエルのこと…きっと新しい発見が得られると思います。

ジャパンハウス Do-mo :https://www.instagram.com/do_moarigato/
Rebirth Instagram:https://www.instagram.com/rebirthbymaiko/
Rebirth Facebook:https://www.facebook.com/rebirthbymaiko