私たちは日常生活の中で、アンケートに答える機会が数多くあります。特に心理学や精神医学の研究では、「最近不安を感じますか?」「気分が落ち込むことがありますか?」といった質問を通じて、人々の心の状態を調査しています。ところが、そのアンケート結果が必ずしも「本当の心の状態」を反映しているとは限らないかもしれません。

イスラエルのテルアビブ大学と英国オックスフォード大学の研究チームは、精神健康に関するアンケート調査の信頼性について検証を行い、その結果を科学誌『PNAS』に発表しました。
研究者たちが注目したのは、人によって異なる「回答のクセ」です。
たとえば、同じ質問を受けても、物事を慎重に考える人は低めの評価をつける傾向があります。一方で、自分の感情を率直に表現する人は高めの評価を選ぶことがあります。
研究チームによると、多くの精神医学研究では、このような回答スタイルの違いが十分に考慮されていない可能性があるといいます。

心理テストに潜む見えないバイアス
これまでの研究では、不安症状とうつ症状、あるいは強迫傾向などが相互に関連していることが数多く報告されてきました。
しかし今回の研究では、その関連性の一部が実際の症状によるものではなく、「どのように回答するか」という個人の傾向によって強められている可能性が示されました。
つまり、「不安が強い人はうつ傾向も高い」といった結論の一部は、症状そのものではなく、回答パターンの影響を受けているかもしれないのです。
もちろん、不安やうつが存在しないという意味ではありません。研究者たちが指摘しているのは、アンケートという手法には思った以上に複雑な要素が含まれているということです。

AI時代だからこそ求められるデータの見方
近年、医療や心理学の分野ではAIやビッグデータ解析が急速に活用されています。しかし、どれほど高度な分析技術を使っても、入力されるデータに偏りがあれば、結果も偏ってしまいます。
今回の研究は、「データを集める方法」そのものを見直す必要性を示したとも言えるでしょう。
研究チームは今後、回答者ごとの傾向を考慮した新たな分析手法を取り入れることで、より正確な精神健康評価が可能になると期待しています。

私たちは普段、アンケートに答えるとき、自分の気持ちだけを表現していると思いがちです。しかし実際には、その答え方の裏にある性格や思考パターンまで反映されているのかもしれません。
心の健康を理解するための研究は日々進歩しています。そして今回の発見は、「数字やデータをそのまま信じるのではなく、その背景まで考えることの大切さ」を私たちに教えてくれています。
*本記事はイスラエルメディアynetの報道をもとに構成しています。

