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ART

愛から描く ― ピルペレドのガン・エデン【後編】

by 中島 直美 |2026年09月10日

前編では、高校時代に初めて仕事として絵を描いたことをきっかけに、白と黒の独自のスタイルを確立していったピルペレドの歩みを紹介しました。世界各地で人と出会いながら作品を残してきた彼は、日本にも深い思い入れがあり、北海道・ニセコにも壁画を残しています。 https://israeru.jp/culture/art/pilpeled_1


自宅兼アトリエでインタビューに答えるピルペレド

本当に白と黒でいいのか・・・?

白と黒というスタイルに一番「繋がりを感じる」というピルペレド。過去には「もっと色を使った方がビジネスになる。そっちの方が賢いよ」とアドバイスしてくる人もいたといいます。


20年この作風を続けてきた今でも、「他の色を使って作品を作らないか」と話を持ちかけてくるクライアントがいるそう。それでも、自分の心にひびく方法を信じて、やり方を変えずに続けてきました。


自宅兼アトリエに飾られたピルペレドの作品
自宅兼アトリエに飾られたピルペレドの作品
多彩な魅力を感じさせる白と黒の世界。

そしてストリートアートを始めた頃、あることに気づきます。

イスラエルのストリートアートは色彩豊かで、色の組み合わせも多様です。だからこそ、白と黒だけを使った彼の作品は、街の中で逆に目立っていました。


やがて白と黒はピルペレドのシグネチャーとなり、今ではサインがなくても「ピルペレドの作品だ」と気づいてくれる人がいると言います。


ピルペレドのストリートアート
トルコの街角で。写真はピルペレドのサイトより。

20年描き続けた先に

周囲から色を使うことを勧められても、自分が一番つながりを感じる白と黒を選び、20年近く描き続けてきたピルペレド。

しかし40歳を迎えた今、今度は自分自身の中に、新しい問いが生まれていると言います。


コカコーラ・ゼロとピルペレドのコラボレーション
ネスプレッソとピルペレドのコラボレーション
世界の有名ブランドがこぞってピルペレドとのコラボレーションを望んでいます。

「もう20年、同じ絵の言語で描いています。何千枚もの作品があり、今でもそれらが好きです。でも、どうすればもう一度自分自身の心を動かせるのかを、いつも考えています」

それは、これまでの作品が好きではなくなったということではありません。彼が求めているのは、自分自身が成長していると感じられることです。


ピルペレドの巨大なインフレータブル作品
テルアビブのImperial Hotelに設置された、ピルペレドの巨大なインフレータブル作品。

「自分自身が感動できなければ、作品を作ることはできません」

ピルペレドは、新しい方向性をすでに10年近く探し続けていると言いますが、答えが見つからないこともまた、自分を前に進ませてくれるのだと話します。


白と黒という自分の「言語」を持ちながら、そこに留まるのではなく、次に自分の心を動かすものを探し続ける。それが、今のピルペレドなのかもしれません。


自宅兼アトリエでインタビューに答えるピルペレド
アトリエ兼自宅で、インタビューに応えてくれるピルペレド。

変わりゆく環境、変わらないピルペレドの「愛」 

自分自身が変わり続けようとする一方で、ピルペレドを取り巻く世界も大きく変わりました。 

「僕は純粋にアートが好きで、アートが人の心に触れることが好きなんだ。政治には興味がないし、人の心を傷つける作品は絶対に作りたくない」そう話すピルペレドですが、現実から完全に自由でいられるわけではありません。戦争もまた、アーティストとしての彼を取り巻く環境を変えました。 

「たった一日で、僕は『国際的なアーティスト』から『イスラエル人アーティスト』になってしまった。今まで国籍なんて気にしたことはなかった人たちも、僕を『イスラエル人』として見るようになった」


以前ほど招かれなくなった場所もあり、行くこと自体が難しくなった場所もあると言います。それでもピルペレドは、そんな現実の中で何に目を向けるかは、自分で選ぶことができると話します。

「悪いものばかりを見ることもできます。でも、良いものを探すこともできます。それは自分の選択だと思います」


写真はピルペレドのインスタグラムより。https://www.instagram.com/p/CyiQIqBtF20 インスタの投稿には「イスラエルと共に立つ」と書かれていました。

そして、その言葉の根底にあるのも、やはり「人」でした。

「僕はただ、人が好きなんです。すべてはそこから始まると思います。人は愛されたいと願うものです。けれど、それ以上に大切なのは、人を愛することができることだ」

それは、彼が作品を生み出すときにも変わりません。

「幸せな時、心が動いた時、誰かを愛している時に、創作したくなるんです。僕は愛からアートを生み出しています。怒りからではありません」


ピルペレドのガン・エデン(楽園)

自分をここまで連れてきたのは、特別な才能ではなく、情熱と、描き続けること、そして周囲の人々だったと語るピルペレド。

「世界には、イスラエルといえば砂漠、ラクダ、戦争……そんなイメージしか持っていない人がたくさんいます。でも僕は、自分がガン・エデン(楽園)に住んでいると思うんです。ここは海が近くて、人々が素晴らしい。気候もよく、食べ物もおいしい。自然があって、音楽があって、アートがある。それを伝えることは、いつも僕にとって大切なことでした」


インタビューを行ったピルペレドの自宅は、手入れの行き届いた庭に囲まれた美しい家です。けれど、この家が美しく、居心地よく感じられたのは、庭や家そのものだけが理由ではなかったのだと、今なら分かります。


インタビューが行われたピルペレドの自宅兼アトリエ。木陰も多く、とても居心地の良い庭でした。

人が好きで、人とのつながりを大切にし、喜びや愛から作品を生み出そうとするピルペレド。

そんな彼がいるからこそ、この場所は本当に「ガン・エデン」と呼べるのかもしれません。

ピルペレドのサイトやInstagramには、ここでは伝えきれなかったたくさんの魅力的な作品が紹介されています。皆さんもぜひ見てください。


ピルペレド公式サイト https://www.pilpeled.com/

ピルペレド公式Indtagram https://www.instagram.com/pilpeled/