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【連載】グラフィック・ノベルで綴るイスラエルVol.12|泳ぎきってみれば

by バヴア |2023年01月17日

グラフィックノベルを制作しているバヴアが、イスラエルのささやかな日常の物語を綴っていく連載「グラフィック・ノベルで綴るイスラエル」。


12回目の今回は、海の近くに住むという願いを持っていた筆者の戸澤さんのお話をベースにした物語です。


【連載】グラフィック・ノベルで綴るイスラエル Vol.11|聖なる沐浴
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バヴア / 2022年12月17日



解説


ある日、テルアビブの海で泳ぎながら、かつて自分が長い間、「海の近くに住みたい」と思っていたことを思い出しました。ずーっと忘れていたことを突然思いだす。それはとても不思議な感じでした。それまで、毎朝テルアビブの海で泳いでいたにもかかわらず、過去にそのように考えていたことさえ忘れていたからです。


「海の近くに住みたい」と熱望していた頃、私は日本でそこそこの責任を持つ仕事に携わり、いつも時間に追われていました。早朝から家のことをし、通勤時間ですらミーティングの資料を作り、帰宅が深夜というのが当たり前の生活でした。そんな日々の中、自分が唯一ほっとできる時間が、「湘南スタイル」という雑誌を読みながらの半身浴の時間でした。雑誌に掲載されている湘南の海の写真を眺めては、「海の近くに住みたい」と何年も、何年も願っていたのですが、いつしかそんな夢を見ていたことさえも、忙しさに忘れてしまっていました。身体と心に限界を感じ、仕事を辞めたものの、「海の近くに住みたい」という思いがもう戻ってくることはありませんでした。それから15年、自分の活動の場はイスラエルでの移民研究とマンガ制作に替わりました。そしてあの日の朝、突然に「海の近くに住みたい」という気持ちを思い出したのです。


テルアビブのビーチは、人々が出会う場所であり、社交の場でもあります。ビーチサッカーやビーチバレー、マトコットというバトミントンと日本の羽根突きの中間のような遊びをしている人もいれば、ビーチでバックギャモンや読書、昼寝を楽しんでいるローカルな人々や旅行者など、それぞれの人々が思い思いでテルアビブの海を楽しんでいます。海の近くに住んでみて、私の生活は一変しました。朝は、水泳やら身体を動かしに海岸に出かけ、夕方には夕焼けを見に行きます。その道すがら、片言のヘブライ語で挨拶を交わす駐車場のグッディ、海での泳ぎ方を教えてくれるシュロミ、毎朝水泳を欠かさない70代のヌリットなど海を通して、研究や漫画制作では出会うことのなかった人々との出会いがありました。今回の作品の最後のコマは、テルアビブのヤフォを描きました。海から見えるヤフォは、とてもテルアビブらしい景色です。この景色を見ていられることに感謝をしつつ、イスラエルとパレスチナの人々を描く作品を作り続けていきたいと思います。


バヴアの作品を一年間、読んでいただきありがとうございました。これからバヴアは、イスラエル人アーティスト ルトゥ・モダンの「トンネル」の翻訳出版にむけ、クラウドファンディングの活動をしていきます。引き続き、バヴアの活動を応援していただけると嬉しいです。Israeruウェブマガジンで、また皆様に作品を読んでいただける日を楽しみにしております。


テルアビブにて。


バヴア 井川アティアス翔 & 戸澤典子


ドール・コーヘンは、SIRAと呼ばれるアーティストたちのコラボレーションスタジオで働きながら、ハイファを拠点に活動するイラストレーター兼プリントメーカーです。ベッツァレール・アート・デザイン・アカデミーでビジュアル・コミュニケーションを学び、イラストを専門にしてきました。彼は、色鉛筆や水彩鉛筆、インクなど伝統的な手法にデジタル手法を融合した作品作りをしています。2021年には、ドールの初作品で、イスラエル人としてのアイデンティティを描いた「ハイファから40分(Forty Minutes From Haifa)」が出版されました。現在は、本の制作や他のプレス関係の仕事など幅広く活動をしています。
ウェブサイト:https://dorcohenjpg.com/
Instagram:@dorcohen.jgp