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Art

五感を刺激するフードアートを創り出す「Studio Mela」

by Sara Hamada |2020年07月30日

ミハルとカルメル
Photo by Dor Kedmi

公私ともにパートナーであるミハルカルメルは、イベント研究所「Studio Mela」を創立。動き、デザイン、味を組み合わせた、サイトスペシフィックおよびオーディエンススペシフィックイベントを開催し、人々の五感を刺激しています。彼女たちが食べ物から創り出す作品の真髄は人生そのもの。


彼女たちの作品コンセプトを理解するには、まず私たち人間の身体の仕組みを知る必要があるでしょう。あらゆる瞬間も、私たちの身体は五感全てから信号を受け取っています。柑橘類の花の香り、焦げたような不快な感触、レモンの酸味、バスのクラクション・・・。これらの全ての感覚は信号として脳に伝達されます。その後、信号は経験として内面化し、洗練され、そして解釈されることとなります。


Studio Melaの作品は、この脳に伝達される信号を生み出すべく、栄養価、色、食感の面で優れている生の食べ物を作品の材料とし、人々の五感を刺激することを目指しています。

オーディエンスが作品である食べ物を体内に取り入れ、それを肉体的にも感情的にも消化するというプロセスが求められるため、彼女たちの作品はオーディエンスの合意なしには成り立ちません。


私たちの身体、社会そして資源に対する感性を「食べる」という行為で反映する、Studio Melaの作品をいくつか紹介します。


日本でもお披露目された「Salt Repast」

Photo by Yaara Bar
Photo by Noa Penn
Photo by Noa Penn

エルサレム・デザイン・ウィーク2018で初めて披露され、2019年には東京で開催されたデザイナート東京にて、「エデンの園」の作品の一部として登場した作品「Salt Repast」は、年間ベストエキシビジョン賞を受賞しました。


エデンの園
Photo by Brian Scott Peterson
Photo by Brian Scott Peterson

プロジェクトには9名のパフォーマーが参加し、3日間かけて設営。100㎡の敷地には9トンの塩が使用され、30kgの魚が埋められた塩の壁が12個建てられました。イベントでは塩の壁から魚を掘り出し、古代のレシピと味が復元。オーディエンスはそれを体内に入れ、肉体的にも感情的にも消化します。


Photo by Noa Penn

イスラエルの歴史を解釈することで誕生

イスラエルには多くの伝統料理がありますが、「イスラエル料理とは何か」を定義するのは非常に困難です。世界中のユダヤ人が団結したイスラエル社会を構築すべく、伝統的な地元の食材はるつぼの中に溶け込んだのです。

ミハルとカルメルは、イスラエルの料理の歴史を研究し、第二神殿(紀元前516年から紀元後70年までの間、エルサレムに建っていた神殿)時代のものから現代までの、数千ものレシピを発見しました。そして約2000年前、イスラエルでは塩漬けが最も一般的な食品保存方法の一つであったことが判明。冷蔵庫が発明される前、魚を移動する際には塩漬けした魚を運んでいたのです。この歴史を掘り下げ翻訳することで、「Salt Repast」は誕生しました。


Photo by Noa Penn



生命と栄養の源である土を讃える「Soil Food」

Photo by Uri Magnus

「土」は生命と栄養の源であるという信条の下、「Soil Food」は地元で生産された季節の作物を使って、「土」を讃えるプロジェクトです。


このプロジェクトでは、イスラエル各地をワゴンで周り、現地の土を使って食器を制作。その制作過程はとてもユニークで、成形された粘土を乾燥させた後、蜂蜜やナツメヤシなどと一緒に厚いガラス容器で密封し、焼き上げます。


Photo by Uri Magnus

現地で生産された農産物で作られた料理がその食器に盛られ、地元の人たちとパーティーを楽しみます。そして最後に、食器を地面に投げつけ、割れた食器は土に溶解されるのです。


Photo by Uri Magnus
Photo by Michal Evyatar


味の記憶を呼び起こす「Vanish」

Photo by Dor Kedmi

イスラエルにあるレヴィンスキーマーケットにおける、代々受け継がれるビジネスへのオマージュとして制作された「Vanish」。Studio Melaでは時間や記憶とテーマとしてプロジェクトを多く創出していますが、Vanishでは、時間と場所の感覚を翻訳し、それを味わうということがテーマになっています。


舞台はレヴィンスキーマーケットに位置する、ハバシュシュ家が営むスパイスショップ。元来、専門店や家族経営の店が建ち並ぶ、伝統的な市場であったレヴィンスキーマーケットですが、現在は超高層ビルが並ぶおしゃれなエリアへと変貌を遂げています。以前このスパイスショップは、食通のメッカとして広く知られ、料理人がイスラエル中から集まる場所でした。そこでStudio Melaは、ハバシュシュ家の物語と思い出をスパイスからの抽出物を通して語ることにしたのです。



使用したのは4種類のスパイス。それぞれのスパイスが各世代を象徴しています。これらスパイスからの抽出物と砂糖を混ぜ、綿菓子マシーンに投入。完成したスパイスの効いた食べられる雲(綿あめ)は通行人に配られました。


Photo by Guy Aon

人々が綿あめを口の中に入れると、それは一瞬で消え去り、残るのは味の記憶のみ。そこからは、その場所の歴史を想像することができ、そして「現在」がすぐに過ぎ去るように、すぐに消えていくでしょう。


アートを通して社会に疑問を投げかける

カルメルとミハルは、芸術的な意味でイベントを定義することにより、様々な疑問を投げかけています。


イベントの定義とは何か。アート作品の定義とは何か。またその二つを組み合わせる要素は何か。私たちが目にする芸術作品のほとんどが、視覚または聴覚によってのみ経験されるのはなぜか。どのようにして嗅覚そして味覚による経験を創り出せるのか―――。



食べ物もアートと同じく、地元文化のアイデンティティの基礎となる重要な要素です。多くの場合、その土地の気候や資源により、地元料理が無意識に生み出されます。一方アートは、意識的に生み出されるものであり、社会に疑問を投げかけることが役割であると、二人は語ります。


ウェブサイト

https://www.melafood.com/

Instagram

https://www.instagram.com/melafoodart/