「AI創薬」という言葉を聞いたことはありますか?人工知能を活用して新薬候補を発見し、開発期間を短縮する取り組みです。ところが、実際に薬として機能するためにはタンパク質の設計もスピードアップする必要があります。その分野で注目を集めているのが、イスラエルのスタートアップ「Scala Biodesign」です。

イスラエルのスタートアップが変える「創薬」のスピード
人工知能を活用して新薬候補を発見し、開発期間を短縮する「AI創薬」。その取り組みは世界中で進んでいますが、その一方で、実際に薬として機能するタンパク質を設計・改良するプロセスは依然として多くの時間とコストを必要としています。
そんな創薬の根幹ともいえる「タンパク質工学」の領域で注目を集めているのが、イスラエルのスタートアップ「Scala Biodesign」です。
同社はこのほど、Series Aラウンドで1,600万ドル(約25億円)の資金調達を完了。さらにイスラエル革新庁(Israel Innovation Authority)から約480万ドルの助成金も獲得しており、累計調達額は約2,150万ドルに達しています。今回のラウンドはGrove Venturesが主導し、TLV PartnersやDeep Insightなどイスラエルを代表するベンチャーキャピタルも参加しました。

創薬における「試行錯誤の海」にAIを投入
Scala Biodesignの最大の特徴は、AIと計算生物学を活用して、タンパク質の設計・最適化を大幅に効率化する独自プラットフォームにあります。
創薬やバイオ医薬品開発では、目的とする機能を持つタンパク質を設計しても、それが十分な安定性を持たなかったり、大量生産に適さなかったりするケースが少なくありません。そのため研究者たちは、無数の組み合わせを試しながら改良を重ねる必要があり、この工程だけで数年を要することも珍しくないのです。
Scalaの技術は、この「試行錯誤の海」にAIを投入することで状況を大きく変えようとしています。
同社のプラットフォームは、膨大な生物学的データと物理学的シミュレーションを組み合わせ、成功確率の高いタンパク質候補を事前に予測します。研究者は最も有望な候補から実験を開始できるため、従来必要だった数千、数万回規模の試験を大幅に削減できる可能性があるのです。
この技術の背景には、イスラエルを代表する研究機関であるワイツマン科学研究所で10年以上にわたって蓄積された研究成果があります。学術研究から生まれた技術を実用化し、世界市場へ展開するという、イスラエルらしいディープテック・スタートアップの成功モデルを体現する企業の一つと言えるでしょう。

世界の製薬企業9社がScala Biodesignの技術を採用
その実力はすでに世界の製薬業界から高く評価されています。
現在、世界の製薬企業ランキング上位20社のうち9社がScala Biodesignの技術を利用しているといいます。特にドイツの大手製薬企業Boehringer Ingelheimとの提携では、創薬ターゲットとなるタンパク質の安定化や製造効率の向上に成果を上げており、実際の研究開発プロジェクトの中で重要な役割を果たしています。
AI創薬の分野では、新たな薬剤候補の探索に注目が集まりがち。しかし、候補を見つけることと、それを実際に医薬品として製造できる形に仕上げることは別の課題です。

Scala Biodesignが取り組んでいるのは、まさにその「最後の壁」ともいえる領域。どれほど有望な治療法であっても、安定的に製造できなければ患者に届けることはできません。タンパク質の設計や改良を高速化することは、新薬開発全体のスピードを引き上げることにつながるのです。
高齢化の進展や難病治療への需要拡大により、バイオ医薬品市場は今後も成長が続くと予想されています。その中で、創薬の基盤技術そのものを進化させるScala Biodesignのような企業は、医療の未来を支える重要な存在となるでしょう。
スタートアップ大国イスラエルから生まれたAIと生命科学の融合は、研究室の効率化にとどまりません。より早く、より安全に、より多くの患者へ新しい治療法を届けるための新たなインフラとして、世界の製薬業界を変えようとしています。



