PTSDや治療抵抗性うつ病、強迫症など、既存の治療では十分な改善が得られない精神疾患に、新たな選択肢を届けられるのか。医療用サイロシビンのGMP製造技術を開発するイスラエル発MSICS Pharmaが、360万ドルを調達。精神医療の新たな可能性を切り拓こうとしています。

マジックマッシュルームの成分を応用
PTSD(心的外傷後ストレス障害)や治療抵抗性うつ病、強迫症など、既存の治療では十分な改善が得られない精神疾患に対し、世界で新たな治療法の研究が進んでいます。そのひとつとして注目されているのが、「サイケデリック医療」です。
イスラエルのバイオテック企業MSICS Pharmaは、いわゆる「マジックマッシュルーム」に含まれる活性成分「サイロシビン」を医療・臨床研究向けに製造する技術を開発しています。
同社は、イスラエルおよびヨーロッパにおいて、保健当局からGMP(医薬品の製造管理・品質管理基準)に基づく製造許可を取得したサイロシビン関連企業として、医療用途での安定した供給体制の構築を目指しています。

難治性の精神疾患に挑む「MSX-06」
MSICS Pharmaが開発を進める主力製品が「MSX-06」です。
対象として研究が進められているのは、PTSD、治療抵抗性うつ病(TRD)、強迫症(OCD)など。いずれも長期的な治療を必要とし、既存の薬物療法や心理療法だけでは十分な効果が得られない患者がいることが、大きな医療課題となっています。
サイロシビンを用いた治療では、単に薬を服用するのではなく、医療専門家の管理下で心理的サポートや治療プロトコルと組み合わせる「サイケデリック支援療法」の研究が世界各地で進められています。
MSICS Pharmaは、こうした臨床研究に使用できる高品質な医療用サイロシビンを安定的に供給するため、製造技術と品質管理体制の確立に取り組んでいます。

医療大麻事業を成功させた兄弟起業家
MSICS Pharmaを創業したのは、Roei Zerahia CEOとOmer Zerahia CBOの兄弟です。
2人は以前、医療大麻企業Canndocを共同創業しました。同社はその後、上場企業の事業へと成長し、年間売上高2億5,000万NISを超える規模に拡大。規制の厳しい医療分野で事業を立ち上げ、製造から市場展開までを経験してきた連続起業家です。
その経験を生かし、次に取り組むのがサイケデリック医療。
MSICS Pharmaはこのほど、Seedラウンドで360万ドル(約5億円)を調達しました。ラウンドを主導したのはイスラエルのベンチャーキャピタルFusion VCで、GlenRock、Gooday Investments、起業家のEyal Gura氏らも参加しています。

イスラエルを「臨床研究のベータサイト」に
イスラエルは、医療技術や創薬分野において、病院とスタートアップ、研究機関の連携が進んでいる国のひとつです。
MSICS Pharmaはイスラエルを、新たな治療プロトコルを検証する「臨床研究のベータサイト」と位置づけています。現在、国内の主要4病院と連携し、PTSDを対象とした大規模な多施設臨床試験の開始を計画しています。
近年、米国をはじめ各国で精神疾患治療の研究開発を迅速化する動きが広がり、サイケデリック医療をめぐる環境も大きく変化しています。
ただし、サイロシビンを用いた治療は、専門家による管理や厳格な臨床プロトコルを前提とする医療研究の段階にあります。MSICS Pharmaが目指しているのも、娯楽目的のサイケデリック市場ではなく、医薬品としての品質と安全性を重視した医療インフラの構築です。
PTSDや難治性うつ病など、これまで十分な治療選択肢を得られなかった患者に、新しい可能性を届けられるのか。
イスラエル発MSICS Pharmaの挑戦は、精神医療の未来を変える可能性を秘めています。
*本記事はアトラクル ニュースレターの報道を元に構成しています。


