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MEDICAL

細胞が病気を見つけて「判断」する。イスラエル発、未来医療の新技術

by ISRAERU 編集部 |2026年07月15日

病気のサインを自ら見つけ、必要な時だけ治療を開始する。そんな未来の医療につながる研究が、イスラエルから発表されました。ヘブライ大学の研究チームは、人間の細胞に複数の生物学的シグナルを処理させ、その組み合わせに応じて異なる反応を選択する人工遺伝システムを開発しました。「細胞をプログラムする」という、これまでSFのようにも聞こえた発想が、現実の医療技術へと近づきつつあります。


RNAのイメージ

人間の細胞に「論理」を組み込む

私たちの体を構成する細胞は、周囲からさまざまなシグナルを受け取り、それに応じて働いています。

イスラエルのヘブライ大学の研究チームが今回開発したのは、この細胞の仕組みを利用し、あらかじめ設定された「プログラム」に従って情報を処理させる人工遺伝システムです。

研究を行ったのは、博士課程のKeren Roas氏とDr. Lior Nissim氏。研究成果は科学誌『Nature Communications』に発表されました。

もちろん、細胞そのものがコンピューターになったわけではありません。しかし研究チームは、人間の細胞の中に人工的な遺伝システムを構築し、複数の生物学的シグナルを受け取り、その組み合わせを判断して、特定の遺伝子を働かせることに成功しました。

その仕組みは、コンピューターのデジタル回路が行う「論理演算」に似ています。


人工遺伝子システムの図解
人工遺伝子システムにより、細胞は複数のシグナルを同時に処理し、その結果に応じて蛍光タンパク質を発現させることができます。写真・イラスト:ヘブライ大学

複数のサインから「どう反応するか」を決める

この研究が目指す未来を、病気の治療に置き換えて考えてみましょう。

たとえば、体内に「がんの可能性を示すサインA」があったとします。しかし、Aだけでは本当にがんなのか判断できないかもしれません。

そこで、サインA、B、Cという複数の条件を細胞が確認し、「すべての条件がそろった場合にだけ治療を開始する」というプログラムを組み込むのです。

つまり、細胞自身が周囲の状態を読み取り、条件を確認し、あらかじめ設定されたルールに従って反応するという考え方です。

合図が一つあれば反応するのではなく、複数の情報を組み合わせて判断する。より精密な治療を実現するうえで、この「判断する仕組み」が重要になります。


カギはRNAの「つなぎ替え」

今回の技術の中心にあるのが、「RNA trans-splicing(RNAトランススプライシング)」と呼ばれる仕組みです。

RNAは、DNAに記録された遺伝情報を細胞内で利用するために重要な役割を担っています。RNAトランススプライシングでは、別々のRNA分子の一部を細胞内で結合し、新しい遺伝情報のメッセージを作ります。

研究チームはこの仕組みに、自然由来および人工的に設計した制御要素を組み合わせました。

これまでの人工遺伝回路では、複雑な判断をさせようとすると、処理の「層」を次々と追加する必要がありました。しかし層が増えるほどシグナルが弱まり、反応に時間がかかり、エラーも起こりやすくなります。

新しい方法では、比較的少ない遺伝部品と処理ステップで、より複雑なプログラムを実行できる可能性があります。


RNAのイメージ

細胞の中に「計算回路」をつくる

研究チームは技術を実証するため、コンピューターの基本的な回路に相当する仕組みを細胞内に構築しました。

その一つが「full adder(全加算器)」です。これはコンピューター内部で二進数の足し算を行う基本的な論理回路です。

さらに、複数の入力から一つのシグナルを選択する「multiplexer(マルチプレクサ)」に似たシステムも構築しました。

研究では異なる色の蛍光タンパク質を使い、人工的に設計された細胞がどのシグナルを処理し、どのような結果を出したのかを観察しました。

また、遺伝システムが想定外の状態になった場合に警告シグナルを出す仕組みも組み込まれています。


「必要な場所で、必要な時だけ」治療する未来へ

この技術が将来、特に期待されているのが細胞治療への応用です。

研究チームは実験の一環として、細胞に免疫関連タンパク質「インターロイキン15(IL-15)」を生成させるシステムも構築しました。

将来的には、体内の複数の疾患マーカーを細胞自身が確認し、特定の条件がそろった場合にだけ治療物質を放出する「スマートな治療細胞」の開発につながる可能性があります。

たとえば、がん細胞の周辺だけで治療を開始し、健康な組織への影響をできるだけ抑える。そんな、より精密で標的を絞った医療への応用が考えられます。


細胞を見る研究者

現段階では研究室での実証であり、実際の患者への治療に利用するためには、さらなる研究と安全性の検証が必要です。

それでも、「薬を投与する」という従来の医療から、「細胞そのものに判断のルールを組み込む」という新しい発想は、未来の治療を大きく変える可能性を秘めています。

ソフトウェアにコードを書くように、細胞に生物学的なプログラムを組み込む。

イスラエルの研究チームが示したのは、細胞が病気のサインを読み取り、自ら判断し、必要な時に必要な反応を起こすという、新しい医療の可能性です。


*本記事はイスラエルメディアHayadanの報道を元に構成しています。