サイバー攻撃の高度化が進むなか、「将来、暗号鍵が漏洩したらどうなるのか」という課題が注目されています。イスラエルのバルイラン大学の研究チームは、たとえ後に鍵が流出しても情報を守れる可能性を持つ新たな暗号技術を発表しました。

「今集めて、後で解読する」攻撃への対策
近年、セキュリティ分野で懸念されているのが「Harvest Now, Decrypt Later(今収集し、後で解読する)」と呼ばれる攻撃です。
攻撃者は現在解読できない暗号化データを大量に保存し、将来、暗号鍵が漏洩したり計算能力が向上したりした際に内容を解読しようとします。
こうした脅威に対し、バルイラン大学コンピュータサイエンス・人工知能学部のエイロン・ヨゲブ教授と博士課程のシャニ・ベン=ダビッド氏は、「非圧縮暗号化(Incompressible Encryption)」という新しいアプローチを提案しました。
鍵だけでは解読できない仕組み
従来の暗号方式では、攻撃者が暗号文を保存していれば、将来鍵を入手した際に内容を復元できる可能性があります。
一方、新たな方式では、暗号文を十分な量保存していなければ、後から鍵を入手してもメッセージを復元できません。
攻撃者が保存容量を節約するために暗号文を圧縮したり、一部だけを保存したりすると、その過程で解読に必要な情報も失われるよう設計されています。

ストレージの限界を逆手に取る発想
研究チームの特徴的な点は、攻撃者の「保存能力」に着目したことです。
従来の暗号理論では、攻撃者はネットワーク上のデータを無制限に保存できると想定されることが一般的でした。しかし実際には、大量の通信データを長期間保存するには莫大なコストがかかります。
研究チームはこの現実的な制約をセキュリティモデルに取り込み、「十分な情報を保存していなければ将来も解読できない」ことを数学的に示しました。
量子コンピュータ時代にも注目
この研究は量子コンピュータ対策としても注目されていますが、研究者たちは「量子耐性暗号そのものではない」と説明しています。
本研究のポイントは、攻撃者が鍵の流出前に何を保存したかにあります。たとえ将来、非常に強力なコンピュータが登場したとしても、保存していない情報そのものを復元することはできません。

医療や政府機関のデータ保護にも期待
この技術は、長期間にわたって機密性を維持する必要がある情報との相性が良いと考えられています。
たとえば、医療記録、政府機関の通信、研究データ、企業の機密情報などは、何十年後も価値を持つ可能性があります。そうしたデータを将来のリスクから守る新たな選択肢として期待されています。
現時点では理論研究の段階ですが、「鍵を守る」だけではなく、「攻撃者に十分な情報を保存させない」という新しい発想は、サイバーセキュリティの未来に新たな可能性を示しています。
*本記事はイスラエルメディアHayadanの報道をもとに構成しています。


