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ART

ナチスの迫害を逃れて陶芸を追求したルーシー・リー アール・デコの館で唯一無二の作品と出合う

by Keiko |2026年08月14日

ウィーンの裕福なユダヤ系家庭で生まれ、陶芸と出会ったルーシー・リーは、やがてナチスの迫害を逃れるため英国へ亡命。ロンドンで自らの陶芸を追求し、凛とした美しさの作品を生み出しました。そしていま、東京のアール・デコの館を舞台に、珠玉の作品の数々が公開されています。


庭園美術館に展示されているルーシー・リーの鉢

アートが身近にあったウィーンでの創作活動

東京・白金台にある東京都庭園美術館は、かつて朝香宮家が暮らしていた自邸で、アール・デコ様式の意匠の数々が施され、それ自体がアートのような館。2026年夏、その洗練された空間に、このうえなく優美なうつわの数々が展示されています。
独特の形と繊細な色彩が見る人を魅了するうつわの作者は、ルーシー・リー。ウィーンで生まれて英国で活躍し、日本とも縁の深いユダヤ人女性の陶芸作家です。


ルーシー・リー《青釉鉢》
ルーシー・リー《青釉鉢》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁
庭園美術館に展示されているルーシー・リーの花入
アール・デコの意匠と作品が響き合う展示空間も見どころ

1902年、オーストリア・ウィーン。ルーシー・リー(旧姓ゴンぺルツ)は、裕福なユダヤ系家庭に生まれました。絵画や彫刻にとどまらず、「総合芸術」として、インテリアや生活雑貨も手がける「ウィーン工房」の作家たちが活躍していた20世紀初頭のウィーン。そんな芸術が身近にある都で、ヨーゼフ・ホフマンをはじめとした作家の影響を受けたリーは、ウィーン工芸美術学校に入学し、ミヒャエル・ポヴォルニーに陶芸を学びました。


まだ素朴さの残るウィーン時代の初期作品にも、後の彼女の作品に通じる優美なフォルム、繊細な色彩の萌芽が見られます。


ルーシー・リー《鉢》
ルーシー・リー《鉢》1926年頃 個人蔵 撮影:野村知也

ナチスの迫害を逃れるためロンドンへ

1938年、ナチスがオーストリアを併合し、ルーシー・リーは迫害を逃れるためロンドンへと渡り、新たな環境での生活を始めました。イギリス陶芸界の中心的な役割を担っていたバーナード・リーチとの出会いもその頃。今回の展示では、バーナード・リーチの作品も展示されていましたが、筆者個人の感想として、「用の美」を追求するリーチの影響は、リーにとってプラスになったとは思えませんでした。第二次世界大戦という戦火、ウィーンからロンドンへの環境の変化のなか、創作の方向性に悩む日々が続いたのではないでしょうか。


ルーシー・リー《白釉鎬文花瓶》
ルーシー・リー《白釉鎬文花瓶》1976年頃 国立工芸館蔵 撮影:品野 塁

そんな暗黒の時代、生計を立てるためにリーが取り組んだのは陶器のボタン制作でした。ジュエリーを身に着けることが不謹慎だった時代に、ボタンというパーツを通じて、「どんな環境にあっても美しいものを創造したい」という彼女の願いが込められているかのような珠玉のボタンの数々。展覧会でも多くの人が足を止め、ゆっくり鑑賞していました。


ルーシー・リー《ボタン》
ルーシー・リー《ボタン》(一部) 1940-50年代 公益財団法人岡田文化財団パラミタミュージアム蔵

その“小さな芸術品”のようなボタン制作を手伝いながら陶芸を学ぶために、リーの工房を訪れた青年がハンス・コパー。リーの作品を愛するコパーは、彼女本来の繊細な陶芸作品の制作を大きく後押ししたといいます。その後、お互いを助け合うパートナーとして、リーの制作活動を支え続けました。


ルーシー・リー《コーヒー・セット》
ハンス・コパーとともに創作。ルーシー・リー《コーヒー・セット》 1960年頃 国立工芸館蔵 撮影:エス・アンド・ティ フォト

自らのスタイルを確立した凛とした美しさのうつわ

ルーシー・リーの作品というと、小さな高台から大輪の花のように広がる優雅なフォルム、糸のように細い紋様、やわらかなピンクと鮮やかなターコイズブルーが思い浮かびます。

そんな独特の作風が確立されたのは、彼女が60代後半を迎えて以降。マンガン釉や「掻き落とし」を用いた文様など、独特な技法を駆使した作品の数々が制作され、彼女の名を不動のものとしました。


ルーシー・リー《マンガン釉線文鉢》
ルーシー・リー《マンガン釉線文鉢》1970年頃井内コレクション(国立工芸館寄託)撮影:品野 塁

博物館で出会った古代の壺に描かれた、骨を使用した引っ掻き模様。その模様からインスピレーションを得たリーは、針を使ってマンガン釉を削り取り、そこに違う色を埋め込む「象嵌」によるうつわを生み出しました。リー特有の優美なフォルムとプリミティブな模様が調和して、独特の魅力を醸し出しています。


ルーシー・リー《ピンク象嵌小鉢》
ルーシー・リー《ピンク象嵌小鉢》1975-79年頃 国立工芸館蔵 撮影:アローアートワークス

「民芸運動」の濱田庄司や柳宗悦との交流、三宅一生とのコラボレーションなど、日本とも縁の深かったリー。世界的なファッションデザイナー、三宅一生はリーのボタンを使ったコレクションを発表し、日本で初めての個展を開催するなど、日本においてルーシー・リーが注目を集めるきっかけをつくりました。


ルーシー・リー《白釉ピンク線文鉢》
ルーシー・リー《白釉ピンク線文鉢》1984年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託) 撮影:野村知也

ナチスによって愛する祖国を追われ、英国の地で自らの陶芸と向き合い、1995年に93歳で亡くなるまで、このうえなく優美なうつわを創り続けたルーシー・リー。


庭園美術館に展示されているルーシー・リーの花瓶
最晩年まで作品を創作し続けたルーシー・リー

その全貌とともに、東西の関連作家も含めた作品が一堂に会する展覧会が、日本を代表するアール・デコの館で開催されています。今回の展覧会は、美しい空間と洗練されたうつわが響き合い、どんな感動をもたらすのかも見どころのひとつ。唯一無二のアート空間を、ぜひ体感してください。


ルーシー・リー《ブロンズ釉花器》
ルーシー・リー《ブロンズ釉花器》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託) 撮影:品野 塁
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詳しくは8月15日の記事で発表いたします。


夜の庭園美術館
8月の金曜日はナイトミュージアム開催で21:00まで開館

ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―

会期:9月13日(日)まで

時間:10:00-18:00(入館は閉館の30分前まで)

※日時指定予約制

※8月21日・28日(金)は夜間特別開館のため21:00まで開館(入館は閉館の30分前まで)フラットデー開催のため無料・割引対象者以外は要事前予約

休館日:毎週月曜日

会場:東京都庭園美術館 本館+新館

観覧料:一般1,400(1,120)円/大学生(専修・各種専門学校含む)1,120(890)円/高校生・65歳以上700(560)円
※( )内は団体料金  ※中学生以下は無料