イスラエル南部アシュドッドの海岸で、約2,500年前にキプロスで鋳造された希少な硬貨が発見されました。イスラエル考古学庁の調査によると、この種類の硬貨がイスラエル国内で確認されたのは初めてです。偶然見つかった小さな一枚が、古代の地中海を結んだ交易と人々の往来を解き明かす、新たな手がかりになると期待されています。

落とし物を探していた職員が偶然発見
硬貨を発見したのは、アシュドッド市の海岸管理部門で副責任者を務めるアヴィ・チェペラク氏です。チェペラク氏は普段から、住民や観光客が海岸でなくしたアクセサリーや鍵などを探す手助けをしています。
約1カ月前、落とし物を探すため海岸を調査していた際、砂の中に見慣れない物体があることに気づきました。それが今回の古代硬貨でした。
チェペラク氏は法律に従って、発見した硬貨をイスラエル考古学庁へ引き渡しました。そして、専門家が詳しく調べた結果、極めて希少な考古学的発見であることが判明しました。

古代都市サラミスで鋳造された「シグロス」
硬貨は、現在のキプロスにあった古代都市サラミスで、紀元前5世紀半ばごろに鋳造されたとみられています。ペルシャ統治時代に流通した「シグロス」と呼ばれる硬貨で、重さは約11グラムです。
イスラエル考古学庁で硬貨部門の研究者兼学芸員を務めるヤニヴ・ダヴィド=レヴィ氏によると、一見すると銀貨のように見えますが、詳細な調査から、銀そのものではなく、別の金属に銀をかぶせたものである可能性が高いといいます。当時のキプロスでは銀が不足しており、こうした製造方法は同時代の硬貨に見られる特徴の一つです。
硬貨の片面には、左を向いて横たわる雄羊が描かれています。反対側には左向きの雄羊の頭部があり、その周囲には鋳造方法を示す、くぼんだ四角形の枠が確認できます。その隣には縦向きの月桂樹の枝、その下には古代キプロスの音節文字とみられる3つの記号が刻まれています。

完全な状態で残ったことの重要性
ダヴィド=レヴィ氏は、「ペルシャ統治時代の硬貨の中でも、今回のような大きさと価値を持つものは、考古学的な発掘現場で見つかる例が少ない」と説明します。
当時、大型の硬貨は小さく切り分けられ、銀の断片として地域の取引に使われることがありました。そのため、完全な形のまま残っている硬貨は珍しく、特に内陸部ではなく海岸で発見された点に大きな意味があるといいます。
ギリシャ国立研究財団歴史研究所で古代キプロスの硬貨を研究するエヴァンジェリン・マルコ氏によれば、「紀元前5世紀のサラミスの硬貨は、東地中海の広い地域に流通していました。しかし、正確な発見場所が記録され、確認された例は重要です。ペルシャ統治時代にキプロスと現在のイスラエル地域の間で行われていた交易や、人々の移動を考えるうえで、貴重な情報をもたらす可能性があります」。
ダヴィド=レヴィ氏も、「発見時の状況が正確に報告されたことで、硬貨そのものを特定するだけでなく、約2,500年前にこの地域を結んでいた海上交通や経済関係を知る資料として活用できる」としています。
「すべての人の遺産」として引き渡す
硬貨を国の収蔵品として引き渡したチェペラク氏には、その責任ある行動をたたえる表彰状が贈られました。
「歴史的価値のある発見に関われたことをうれしく思います。この硬貨が私たち全員の遺産であることは明らかだったので、すぐに考古学庁へ引き渡しました。今回の行動が、この地の歴史と研究に小さな一片でも貢献できたのであれば、とても光栄です」とチェペラク氏は語っています。

アシュドッドの海岸で偶然発見された一枚の硬貨。それは単なる古代の通貨ではなく、地中海を越えて結ばれていたキプロスとイスラエル地域の交流を、現代に伝える貴重な証しとなりました。
*本記事はイスラエルメディアynetの報道をもとに構成しています。


