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SCIENCE

なぜ助けるアリと、助けないアリがいるのか?イスラエル研究が探る「救助行動」の謎

by ISRAERU 編集部 |2026年09月18日

同じ巣で暮らすアリでも、仲間が危機に陥ったときに助ける個体と、近づくだけで助けようとしない個体がいます。その違いは、体の大きさや体力ではなく、神経系における遺伝子の働きにある可能性が明らかになりました。


アリの救助行動の実験結果:動かない仲間を救おうとするアリ

仲間を助けるアリ、助けないアリ

仲間のアリが危険な状態にあるとき、すぐに救出を試みる個体がいる一方で、近づいても何もしない個体もいます。

この違いは何によって生まれるのでしょうか。


ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツとイスラエルのテルアビブ大学の研究チームは、アリの「救助行動」に注目して調べました。


研究では、Cataglyphis nigraというアリを使い、実験室内で仲間が動けない状況を再現。研究者は15分間、別のアリがどのような反応を示すかを観察しました。

動けなくなった仲間に近づき、引っ張ったり、周囲の砂を掘ったりして解放しようとした個体を「救助行動を示したアリ」と分類。一方、近づいても救出を試みなかった個体とは区別しました。


葉の表面で、触角を下げて活動するアリ

違いは「力」ではなく神経系に

研究チームが次に調べたのは、救助行動を示すアリと示さないアリの身体的・生物学的な違いです。

体の大きさや構造、脂肪などのエネルギー蓄積量を比較しましたが、行動の違いを説明できる明確な差は見つかりませんでした。


そこで研究者は、アリの触角や脳の一部を調べ、RNAシーケンスによって遺伝子の活動状態を比較しました。


すると、特に注目すべき違いが見つかったのが、昆虫の脳にある「キノコ体」と呼ばれる領域でした。キノコ体は、感覚情報の統合や学習、行動のコントロールなどに関わる重要な領域です。

救助行動を示したアリでは、この領域で15個の遺伝子の活動が高くなっていました。その中には、匂いの知覚、ホルモン調節、代謝、免疫機能などに関係する遺伝子が含まれていたのです。


赤褐色の大きなアリがカメラを向き、触角を広げている

「救助遺伝子」があるわけではない

興味深いのは、特定の1つの遺伝子が救助行動を決めているわけではないことです。


研究チームは、仲間から発せられる危機のシグナルを感覚器官で受け取り、それを神経系で処理する過程と、複数の分子経路が組み合わさることで、救助行動につながる可能性があると考えています。


また、免疫系に関係する遺伝子の活動が高かったことも注目されています。昆虫の免疫関連遺伝子は、病原体から身を守るだけでなく、活動性や睡眠、集団行動などとの関係も指摘されています。


今回の研究は、こうした遺伝子の働きが、社会的な行動にも関わっている可能性を示すものです。

ただし、今回確認された遺伝子活動が救助行動の「原因」なのか、それとも行動した結果として生じた変化なのかは、まだ明らかになっていません。


シナモンスティックに群がり、複雑な集団行動を見せるアリたちのクローズアップ

アリから探る「社会性」の仕組み

テルアビブ大学の研究者が参加した今回の研究は、同じコロニーで暮らす個体の間にも、社会的な行動に明確な個体差があることを示しています。


人間のように複雑な社会を形成する生物だけでなく、昆虫にも仲間を助ける行動が見られます。アリをモデルとして研究することで、**「なぜある個体は他者を助け、別の個体は助けないのか」**という社会行動の生物学的な基盤を解明できる可能性があります。


イスラエルのテルアビブ大学を含む研究チームは、今後さらに実験を重ね、神経系や遺伝子の働きがアリの社会的行動にどのように影響するのかを明らかにしようとしています。


*本記事はイスラエルメディアHayadanの報道をもとに構成しています。