農業経験ゼロだったご夫妻が、日本でブルーベリー農園を始めることを決意。そのきっかけは、オーストラリアで目の当たりにした”データで育てる農業”でした。約100ヘクタールの広大な農園で、50万本ものブルーベリーが驚くほど均一に育つ光景。その裏側には、イスラエル発の精密灌水技術がありました。経験や勘ではなく、データを武器に挑む新しい農業。その挑戦の始まりについてお聞きしました。

「農業未経験」のふたりが就農を決意した理由
九十九里浜の蓮沼海岸近く、千葉県山武市でブルーベリー農園「Bluemate Farm」を営み、2026年の初夏に初収穫を迎えた喜納寛子さんと矢作卓也さんご夫妻。日本での農業経験はなく、ワーキングホリデーで滞在したオーストラリアで出会った農業に衝撃を受けたことがきっかけでした。
「私たちはふたりとも、日本では農業をやったことがありませんでした。本当にゼロからのスタートです」
転機となったのはオーストラリア。現地で農業に携わるなかで初めて触れたのが、センサーやデータを活用して作物を管理するスマート農業だったと言います。
「これなら自分たちにもできるかもしれない」
その確信が、日本へ帰国し、就農する決断につながりました。

50万本が同じように育つ理由
オーストラリアの農業経験のなかでも、最も衝撃を受けたのは巨大なブルーベリー農園でした。約100ヘクタールという広大な農地に、およそ50万本ものブルーベリーが植えられていて、それにもかかわらず、一本一本の生育がほぼ揃っていたのです。
「どうしてこんなことができるのだろう」
その答えが、精密灌水システムでした。
水と肥料を一体化した養液を必要な量だけ正確に供給し、木ごとの生育状況に合わせて細かく制御する仕組みです。
「このシステムなら、農業経験のない自分たちでも品質を安定させられる」
そう考え、日本でも導入することを決めました。

なぜブルーベリーだったのか
数ある作物の中からブルーベリーを選んだ理由も明確でした。
まず、樹形を自分たちで設計できること。剪定によって収穫しやすい形へ育てられるため、腰をかがめる必要もなく、将来的に作業効率を高められます。
さらに物流面でも、ブルーベリーには大きなメリットがあります。小粒で果実が軽いので輸送コストを抑えやすく、冷凍保存も可能なため、収穫後すぐに出荷しなければならないという制約も少ないからです。
そして近年、健康志向の高まりによって、アントシアニンを大量に含むブルーベリーへの世界的な需要が伸び続けていることも、大きな後押しになりました。
「管理のしやすさと将来性、その両方を考えると、数ある作物のなかでも、ブルーベリーが最も魅力的でした」

現在、Bluemate Farmで栽培されているブルーベリーは、「OPI」「Twilight」「Titan」「Eureka」「Krewer」の5種類。取材した日に収穫した「Twilight」は大粒でみずみずしく、ほどよい酸味があり、とても美味しくいただきました。

初収穫で実感した2年間の努力
スマート農業といっても、日本に戻ってから、すぐに収穫できたわけではありません。まずどこで農業を始めるかの土地選定や施設づくり、防鳥ネットの設置に約1年。さらに苗木を育てるために約1年。
そして、2026年の初夏、ようやく初収穫を迎えました。
「初収穫は、本当にうれしかったですね」
卸売業者からは「粒が大きく、とてもおいしい」と高い評価を受け、実際に購入した消費者からも好評だったとお聞きしました。
「オーストラリアで学んできたことが、日本でも通用すると証明できたことが一番うれしかったです」と、おふたりは声を弾ませながら語りました。

次回予告
第3回は、喜納寛子さんと矢作卓也さんご夫妻のインタビューのつづきから、収穫後の作業、出荷までをレポート。精密灌水を活用したブルーベリー農家の実情に迫ります。


