シンガポールのランドマーク「マリーナベイ・サンズ」や、世界的に評価される住宅建築「ハビタット67」。これらを設計したのは、イスラエル生まれの建築家モシェ・サフディです。彼は半世紀以上にわたり、「人が豊かに暮らせる都市とは何か」を問い続けてきました。建築を通じて世界の都市のあり方に影響を与えた、その歩みをたどります。

15歳でイスラエルからカナダへ
モシェ・サフディは1938年、イスラエル北部の港町ハイファで生まれました。15歳のときに家族とともにカナダへ移住し、モントリオールのマギル大学で建築を学びます。
学生時代のサフディは、都市部で増え続ける画一的な高層住宅に疑問を抱いていました。人口増加に対応しながらも、一戸建て住宅のような快適さやプライバシー、自然とのつながりを実現できないか――。そんな発想が、後の代表作につながっていきます。
世界を驚かせた「ハビタット67」
サフディの名を世界に知らしめたのが、1967年のモントリオール万博で発表された集合住宅「ハビタット67」です。
コンクリートの箱を積み木のように組み合わせた独創的な構造は、それまでの集合住宅の常識を覆しました。各住戸にはテラスや庭が設けられ、住民が自然を身近に感じられるよう設計されています。

当時わずか29歳だったサフディは、このプロジェクトによって一躍世界的な建築家となりました。「ハビタット67」は、現在も20世紀を代表する住宅建築の一つとして高く評価されています。
建築を通じて歴史と未来をつなぐ
その後、サフディは世界各地でさまざまなプロジェクトを手がけました。
イスラエルでは、ホロコーストの記憶を伝える「ヤド・ヴァシェム」の再整備に携わり、歴史と向き合う空間づくりに挑戦しました。また、カナダ国立美術館や図書館、大学施設など、多くの公共建築も設計しています。

彼の作品には共通して、人々が集い、交流し、考えるための公共空間が重視されています。建築を単なる「箱」ではなく、人と社会をつなぐ存在として捉えているのです。
マリーナベイ・サンズの成功
近年の代表作として最も有名なのが、シンガポールの「マリーナベイ・サンズ」でしょう。

3棟の高層ビルの上に巨大な空中庭園を載せた大胆なデザインは、完成直後から世界中の注目を集めました。さらに、シンガポールのジュエル・チャンギ空港では、巨大な屋内滝と熱帯植物を融合させた空間を実現しています。

これらのプロジェクトに共通するのは、「人々が過ごしたくなる場所」をつくるという考え方です。サフディは、都市の中に自然やコミュニティの要素を取り戻そうとしてきました。
「人間らしい都市」を目指して
テクノロジーの進化とともに都市はますます巨大化しています。しかしサフディは、どれほど都市が発展しても、人間らしさを失ってはならないと考えています。
自然光、緑、人との交流、そして心地よい居場所。彼の建築は常にそうした要素を大切にしてきました。
イスラエルはしばしば「スタートアップ国家」として紹介されますが、モシェ・サフディは建築という分野から世界に大きな影響を与えた存在です。彼の作品は単なるランドマークではなく、未来の都市への提案でもあります。人間中心の発想で世界を変える――その姿勢は、イスラエルが生み出したもう一つのイノベーションと言えるでしょう。


