様々なツールから世界中のドラマや映画を好きな時間に視聴できる昨今、1日中モニターの前に座っていても視聴しきれないほどたくさんのドラマや映画があふれています。
そんな中から、皆さんはどうやって見たい作品を選んでいますか?心を揺さぶる物語を選ぶなら、この作品がその答えになるかもしれません。

今回は、46ヵ国でNetflixグローバルTOP10にランクインしたイスラエルのドラマ、『Bad Boy』をご紹介します。
目次
イスラエルドラマ『Bad Boy』誕生秘話
イスラエルのドラマシリーズ『Bad Boy』は、8話完結の実話を基にしたドラマ。実は、この物語には20年近い年月を超えてつながった、運命ともいえる制作秘話があります。この物語についてはドラマの中では全く触れられていないのですが、それはこの物語の主人公であるディーン・シャイマン/ダニエル・ヘンと制作者ロン・レシェムとの出会いです。
ディーンとロン、時を超えて再び交錯する2人の人生
このドラマは、まだ14歳という年齢で少年刑務所に収監された主人公、ディーン・シャイマンの人生が描かれています。彼がなぜ収監されることになったのか、詳しくはドラマぜひご覧いただきたいのですが、実はこの時、この刑務所に泊まり込みで取材をしていたあるジャーナリストがいました。
それが、『Bad Boy』の制作者であるロン・レシェムです。
元ジャーナリストのロンは、「刑務所に収容されている母親から生まれた子供はその95%以上が18歳になる前に刑務所に入る」、さらに「少年刑務所に収容された少年はその96%までがまた刑務所に戻る」と言われる、イスラエルの少年犯罪の厳しい現実を取材するため、少年刑務所で2週間を過ごし内情を取材していたのです。
ロンはここで様々な子供達に出会いました。そしてこの時の取材をもとに、ドラッグ中毒と不安障害を抱える高校生を描いた「ユーフォリア」というドラマを2007年に制作。ドラマは高評価を得て、後にアメリカでラッパーのドレイクが製作総指揮をとり、ゼンデイヤ主演のテレビドラマ化され大ヒットを記録しました。それでも製作者のロンは、このテーマを扱ったドラマとしてはこれで十分だとは感じていなかったそうです。
ダニエルとロン、運命の再会
その後、ロンもディーンもそれぞれの人生を歩んでいきますが、ある時ロンはダニエル・ヘンという名のスタンドアップ・コメディアンに出会います。実はこのコメディアンが、あの時少年刑務所で出会った子供達の一人、ディーン・シャイマンだったのです。
少年刑務所を出たディーン・シャイマンは、ダニエル・ヘンとして有名なコメディアンとなり、「少年刑務所に収容された少年はその96%がまた刑務所に戻る」と言われる現実の中、稀有な残りの4%の中に入る人生を築いていたのです。
『Bad Boy』が製作されるまで、ダニエル・ヘンは自身の過去をステージで語るようなことは一切ありませんでした。それでも彼は真実を語らなければ本当に次の段階に進むことはできない、いつか語らなければならないと考えていたといいます。
こうして、まるで運命のように二人が再会し、この作品は生まれたのです。

ドラマと役者について
正直なところこのドラマの中で描かれる少年刑務所の中の出来事には残酷で暴力的な場面もあり、アクション映画や戦争映画などを見慣れていない私にとってはショッキングで直視できないこともありました。
しかもそれが実話であり、さらに14歳の子供が経験したことなのだと思うと、同じような年頃の子供を持つ母親としては恐怖と言っても良いほどでした。それでもこのドラマから私は逃げることができませんでした。
実際にこんな体験をした子供が今は大人となり、コメディアンとして聴衆を爆笑の渦に巻き込んでいる。その本人がこのドラマにも出演している。どうしてそんなことが可能なのか、それは本当の事なのだろうか、そんな気持ちが沸き上がるのをとめることができず、恐ろしくとも見るのを途中でやめることができなかったのです。特にディーン役の少年の演技に魅了され、全話を一気に見てしまいました。これがディーン本人でなければ誰なのだろうと思うほどの演技力です。これについては、実際にドラマを見ていただくのが一番でしょう。

そしてもう一つ、少年犯罪についても深く考えさせられました。
この物語の主人公であるダニエル・ヘンは最終的には刑務所に戻らずにすんだ4%に入るのですが、物語に登場したたくさんの子供達は今頃大人になってどこで何をしているのだろう…。物語に登場した全員が4%に入るなどという事は、統計学的に不可能なのです。
少年の側に立ってみればつらく苦しい物語でも、彼らには理由(=犯した罪)があって刑務所にいるのです。
日本とイスラエルでは少年犯罪における現実に多少の違いはあるかもしれません。それでも未成年の犯罪とそこから人生を築き上げるという点では普遍的な部分も多くあると思います。
Bad Boy制作会社スィプール社(Sipur)について
最後に、イスラエルのドラマや映画にご興味のある皆さんのために、このドラマシリーズの制作会社であるイスラエルのスィプール社(Sipur)についてお伝えしたいと思います。
Sipurとはヘブライ語で「物語」という意味です。Sipur社はエミリオ・シェンカー氏が設立した映像制作会社で、イスラエル発の様々な優れた作品を世界に送り出すことを目的としています。

エミリオは子供のころから映像の世界が大好きで、なんと13歳の時に初めてウルパネイ・ヘルツェリアというイスラエルのテレビ局にアポなしで向かい、さらには警備の目をくぐり抜けて潜入して初仕事を得たという強者。映像に関係することならスタッフ達に飲料水を配る仕事から制作までほとんどすべての職種を体験したと言います。
現代のドラマや映画にはすでに国境はないと話す彼は、イスラエルドラマを国内だけでなく世界をターゲットとして発信しています。
それでも最も大切にしているのは、イスラエル的であるかとか、世界が興味を持つかという事でなく、物語(Sipur)が心を揺さぶるかどうか。日本の皆さんにも、ぜひSipurが制作した映画やドラマをお届けしたいとのことです。
興味をお持ちになった方はぜひNetflixで『Bad Boy』をご覧ください。魂に触れる物語が、あなたの中に何かを残すはずです。
