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#イスラエルに寄り添います

ボランティアで巻き寿司をつくる日本人女性「SUSHIエンジェルズ」

〜 イスラエルに住む私達を守ってくれるIDFの兵隊さんたちへ 〜

by 中島 直美 |2024年02月26日

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前回の記事でお知らせした、前線にいる兵士たちに家庭の味を届けたいという小さな活動からはじまったボランティア、Soldiers Kitchen(ソルジャー・キッチン)。その中でも日本人ボランティアの作る巻き寿司が兵士達に大人気という話を聞き、取材に訪れました。


絶望と恐怖心に打ち勝つために始めたボランティア活動

Soldiers Kitchenに毎週お寿司を届けてくれているのはズィフロン・ヤアコブというテルアビブから約60キロ程北に離れた町に住む日本人女性、ナオミさんです。彼女にはイスラエル人の旦那さんと2人のお子さんがいらっしゃいます。イスラエル南部の砂漠の中の田舎町ミツペ・ラモンに20年住んだ後、1年ほど前にこのズィフロン・ヤアコブに引っ越してきたそうです。


SUSHI エンジェルズのメンバー。右から3番目がナオミさんです。

もともとイスラエルにも宗教にも何の興味も知識もなかったとおっしゃるナオミさんですが、旦那さんと出会ってからは魂に響くものがあったそうで、最終的には反対する旦那さんを説得して、厳しく長い道のりであると言われる正統派の改宗プロセスを乗り越えユダヤ教へと改宗されました。


ナオミさんはこういいます。「10月7日の後の一週間は恐怖におののき、自分達にもあのような恐ろしい出来事が起こるのではないかと、不安で夜も眠れない日々でした。


日本政府が避難用の自衛隊機を出すと聞いてますます不安になり、子供たちの安全を考えると日本へ避難すべきではないかと考えるようになったのです。日本の両親も毎日のように何故帰って来ないのだと急かしてきます。私の気持ちは日本に帰るという方に傾き、決心が固まりかけました。


10月7日の朝にハマスの襲撃を受けた、Novaフェスティバル会場の駐車場。多くの参加者の車が焼き払われている。


けれど、日本政府が準備してくれるという自衛隊機の日程を確認したところ、それが安息日をはさんでいることがわかりました。私はユダヤ教の戒律を守った生活をしています。この日程では飛行機には乗れません。「これはきっと何かのサインだ、このままイスラエルに残ろう」日本に帰るという方向に固まりかけた私の心は揺り返し、イスラエルに残るという決心をしたのでした」


それでもその後の日々も恐怖心が強く、何をやっても集中できず手につかない、そして悲しいニュースを聞いては心が打ち砕かれてばかりの日々だったと、ナオミさんは言います。「悲しんで怖がっているだけではどうにもならない、そう思っていた時に、地域のワッツアップ・グループでボランティアの存在を知りました。Soldiers Kitchenなら、自分が得意な料理の腕を活かすことができるかも!そう思って活動に参加し始めたのです」


新メニュー「巻き寿司」の追加

このようにして出会ったボランティア団体の活動に参加して「最初は料理リストに書かれたものを、支給された材料で、一人で作っていました」というナオミさん。


「私達をまもってくれてありがとう」「どうか無事に戻ってきてください」「平和を祈ります」メッセージが張り付けられたお寿司のパック。

「でも、私は若い青年達や家族を支えるお父さん達が日々命がけで戦う姿を見て、毎日心が苦しくてたまりませんでした。一瞬でもいい、何か兵士たちが少しでも喜んでくれるようなことができれば…と考えたとき、兵士たちにお寿司を提供するのはどうだろう、というアイディアが浮かんだのです。お寿司はイスラエルで人気のメニューですが、Soldiers Kitchenのメニューにお寿司はありませんでした。そのためお寿司の材料も支給されることはなかったのです。


そこで、主人の理解と協力を得て自分達で材料を調達してお寿司を作って提供することにしたのです。量は多くはなかったですが、それでもそのお寿司は兵士たちに大好評だったとのフィードバックがありました」この兵士たちの反応を見て、Soldiers Kitchenのメニューには巻き寿司が加わりました。そしてそのための材料も支給されるようになったのです。


ナオミさんと地域の日本人たちとの出会い。二升半の米を炊く「SUSHI エンジェルズ」の誕生

「Soldiers Kitchenがせっかく寿司をメニューに加えてくれたのだから、私ももっとたくさんのお寿司をつくって多くの兵士たちに喜んでもらいたい、そう思いました。でも、一人で作るには数に限りがあるし、私はこちらに引っ越してからまだ日も浅く、一緒に寿司を巻いてくれそうな知り合いも近所にいませんでした。


一人一人が作業を分担して、協力し合ってお寿司をつくっています。

そこで、戦争がはじまってから新しく開設された、イスラエルに住む日本人のワッツアップグループを使って、お手伝いしてくれる人がいないか呼びかけてみることにしたのです。反応は素晴らしいものでした。沢山の方からお手伝いの申し出と心温まる励ましのメッセージを頂きました。


中には小さなお子さんを抱えて遠方から応援に駆けつけてくださった方もいらっしゃいました。また、ミサイル攻撃が激しく空襲警報の鳴り響く危険な地域からもお手伝いに来てくれました。必要とする以上の数の人々がボランティアを申し出て下さったのです」


日本人コミュニティの中でも空きが出るのを待つ人が出るほど大人気のボランティアとなったとのこと。それでも何度か繰り返すうちに自然と役割が分担され、近隣に住むお手伝いメンバーが定着するようになったのだそうです。


作業が終わったら皆で記念撮影。毎週作り上げたお寿司の量が増えていきます。

「お手伝いに来てくださった方たちは皆、この戦争で様々な苦しみを抱えていました。家族が兵役についている人、小さな子供を守らなければならないお母さん、やまない攻撃で夜も眠れない人、親戚や知り合いをこのテロで亡くした人、皆それぞれです。それでも皆で会って寿司づくりが始まれば、協力し合って作業は流れ、そのうちに冗談が飛び交い、笑い声がわき起こります。


兵士たちへの励ましと感謝、無事を祈るメッセージを書き、時間内に必要数を作ってパッキングして集積所まで届ける。共通の目標に向かって協力し合いながら作業していくうちに、私たち自身が癒されていくことを実感しました。


もともとグループを作る目的もなかったのですが、毎週会って一緒に作業しているうちに、それぞれの得意分野がうまい具合に発揮されるように役割も定着するようになりました。皆でお寿司を巻きながら交わしあう冗談の中で「SUSHIエンジェルズ」という言葉も生まれました。何か特別な組織でもなんでもないのです。皆の楽しい呼び声のようなものなのです」


Soldiers Kitchenの集積所で記念写真

さらに、兵士に提供する大量のお寿司を作るために日本人が集まっていることを知ったイスラエル人の友人たちが、お金を出し合って、特殊なアジア食材輸入店から大きな炊飯器を購入して寄付してくれたのです。それまでナオミさんは毎週5時に早起きして何回にも分けてご飯を炊いていたのが、この炊飯器のおかげで4倍ものご飯が炊けるようになったと言います。寿司を巻くスピードも具材を準備する作業も、流れるような協力体制が整えられ、新しい炊飯器で炊かれた2升半の米はSUSHIエンジェルたちの手によってあっという間に40パックの巻き寿司へと姿を変えるのでした。


ボランティアに参加した人たちの声

ここで、ボランティアに参加したSUSHIエンジェルズの声をご紹介したいと思います。


「金銭以外のボランティアだとどれも足手まといになるような気がしていたのですが、お寿司なら私達日本人の出番!そう思って参加しました。初めてイスラエルの役に立てたような気がしました」

「私の子供も今兵役についているということもあり、お寿司を巻く手に本当に愛情がこもりました」

「つらく苦しいニュースが多く、本当の答えが何かもわからない日々です。それでも家族と共にここで生きていくと決めた私にとって、日本人として同じようにイスラエルで生活している仲間に出会えて、大変心強かった。皆さん、本当に強くてたくましい。私自身が救われました」

「何かを与えることができればと思って始めたボランティアですが、私が受け取った物の方が多かったと思っています。感謝の気持ちでいっぱいです」

「様々な事情があって、イスラエルには日本人も住んでいます。兵士達は私達のことを知らないと思うけれど、私は彼らが命をかけて私達を守ってくれているということを知っています。その感謝の気持ちを伝えたかったし、私は彼らの無事を本当に心から祈っています」

「兵士たちから届くお礼の映像や写真を見て、彼らとの繋がりを感じたし、少しでも自分も何かの役に立っていると思えることがうれしかったです。外国で、こんな戦時下で、恐怖と葛藤と苦しみの日々ですが、社会に必要とされていることを実感することで自分自身が支えられたと思っています」

「生きている間に決して経験したくもなかった、戦争という悪夢のような現実の日々。それを共に乗り越え、暗闇の中からそれを上回る愛を作り出すことが、私達にもできるということを学びました。仲間たちに感謝です。イスラエルにいて人間として何をやるべきか、様々なことを学んだと思います」


笑顔が絶えないエンジェルズ

終わりの見えないこの苦しい戦争は続いています。


まだ解放されない136人の拉致被害者や、前線で命をかけて戦う兵士達、避難所での生活を余儀なくされている10万人以上の国内避難民達。まだまだつらいニュースは多いですが、そんなどん底の中でも、自分の持てる力を社会に貢献することで苦しさを跳ね返す。SUSHIエンジェルたちの笑顔が本当に心強かったです。


ナオミさんは言いました。「テロはその残虐な行為で殺戮を行うだけでなく、人々の心に恐怖を植え付け、希望を打ち砕くことで心を殺害するものです。人々の心を恐怖のどん底に突き落とすのはテロリストの強く望むところ。仲間と共に協力し合い、社会に貢献できているという事実が私を強くし、恐怖心に打ち勝つことができたと思います。私達はテロには決して屈しない。負けません」


一日も早い拉致被害者たちの解放と、戦争の終結を祈るばかりです。


キブツ・マアヤン・ツビで行われた謝恩会で感謝状が贈呈されました。Soldiers Kitchen創設者のタリアさんと一緒に。