ISRAERUウェブマガジン読者の皆さんは、イスラエル通の方もとっても多いと思いますので「イスラエルではワインも良いものが作られている」といっても驚かれる方は少ないかもしれません。イスラエルの国土は日本の四国ほどしかないのですが、なんとイスラエルには大小さまざま、300近いワイナリーがあると言われているのです。
最近は日本でもイスラエルのワインを販売しているお店もあり、知名度も少しずつ上がってきていますね。
今回はそんなイスラエルの中でも、良質なワイナリーが多くあると言われているユダ地方の、ワイン・フェスティバルの様子をご案内いたします!
目次
ワインフェスティバルの会場
ユダ地方のワインフェスティバルは、今年で24回目。すっかり夏を感じるイスラエルの6月、ちょうど日が沈んだ夜8時から、フェスティバルは開始となりました。
ユダ地方は、イスラエル中部、テルアビブから東南の地域、エルサレムまでの一帯を指します。ワインフェスティバルのオープニングはエルサレムにほど近い、ナベー・イランという村のヤッド・シュモナ・ホテルの庭で行われました。農業と観光業が主な収入源である小さな村にあるこのホテルには、旧約聖書の時代の植物の様子を復元した「聖書植物園」があり、石畳の歩道と石作りの建物が幻想的。フェスティバルに来るたくさんのお客さんが車で乗り入れるほどの場所がないので、村の外の駐車場に車を止めて、シャトルバスで会場に向かうのです。
ワインフェスティバルのポスターには「暖かい服装を準備するように」との注意書きが。日中は30度近くになるイスラエルですが、日が沈むといきなり冷えます。実は、この気温差が、ワインに適したブドウづくりに重要な条件の一つなのです。
フェスティバルに来るお客さんで会場は大賑わい。皆、ウキウキととても楽しそうです。
たくさんのワイナリーが並ぶ、フェスティバルの様子
ワインフェスティバルには約40のワイナリーがブースを構えていて、ホテルのレストランが食事も提供しています。お客さん達は会場入り口で受け取るワイングラスを手に、星空の下に設営されたブースからブースへと移動しつつ、好きなだけワインをテイスティングすることができます。
気に入ったワインがあれば、ボトルをその場で購入できます。
好きなワイナリーの様々な種類のワインをテイスティングして、お気に入りの年代、銘柄を極めるもよし、ワイナリーごとのフラッグ・ワインをテイスティングして、贔屓にしたいワイナリーを発見するのもよし。
酔いが回ってさらに気分が高揚し、参加しているお客さんたちは、全くの他人同士でも仲良くワインに対する意見を交わし合い、まるで友達ででもあるかのように、おすすめ情報を交換しあっています。
40近いワイナリーの全てのワインを、少量ずつとはいえ全部テイスティングすることはさすがにできず・・・。最後の方は、香りを楽しみ、ほんの数滴を舌にのせるだけという感じになってしまいました。(正直、最後はあまり味の違いもわからなくなっていた・・・。)
帰りの車の運転がありますので、最も重要な点は、下戸のお友達を誘ってこのフェスティバルに参加することです。
イスラエルのアペレーション(原産地統制呼称)が承認された「ユダのワイン」
実はこの「第24回目、ユダ地方ワイン・フェスティバル」に参加しているワイナリーには、イスラエルの他のワイナリーとは異なる特徴があります。
それは、これらのワイナリーは全て「ユダのワイン」を製造しているワイナリーであるということ。
この「ユダのワイン」は、今年に入って、初めてイスラエルのAppellation of Origin(原産地統制呼称)に認められたものです。
「原産地統制呼称」というとちょっと難しく聞こえますが、日本の農作物に置き換えるとわかりやすいかもしれません。例えば「新潟産こしひかり」と表示されたお米は、「新潟で作られたコシヒカリ」以外のお米ではないですよね。それが、ただその場所でその品種のものを作ればよいというだけでなく、国によって定められた厳しい条件をもしっかり満たしているということなのです。
このアペレーションはフランスのワインが有名です。「シャンペン」と呼べるのは、決められた品種、製造方法を守って、シャンペーニュ地方で作られたスパークリング・ワインのみ。同じ品種のブドウを使って同じ製造方法で作っても、別の場所で作られたらそれは「シャンペン」ではないのです。
ユダのワインも同じです。ユダ地方で栽培収穫されたブドウを使い、厳格に決められた製造法を守って作られたワインだけを「ユダのワイン」と呼ぶことができるのです。イスラエルでこのアペレーションが認められているものに「Jaffaの柑橘類」がありますが、ワインではこの「ユダのワイン」が初めてなのです。
「ユダのワイン」の特徴
ユダのワインが生産されるユダ地域は「山岳地帯」と「傾斜地帯」に分かれています。
ワインのためのブドウ栽培に適した気候は、一般的に、湿気や降水量が少なく、日照時間が長く、1日の寒暖差が大きいことなどがあげられますが、実はユダ地方の気候はこの条件にぴったりとあてはまっているのです。前述したとおり、昼間は太陽が照って夏を感じるほどの6月のイスラエルですが、標高約700メートルのエルサレムに隣接するユダ地域の夜は、軽く羽織れる長袖の服がないと、この時期でも冷えるのです。
そんなユダ地方、ワイン製造の歴史は古く、発掘される遺跡などから、5000年以上前、青銅器時代にはすでにワインづくりが行われていたとみられています。それでも、現代に入ってからイスラエルでワインが製造され始めたのは19世紀の中頃からだそうで、まだまだ若いワイナリーも多く、敷居が低く親しみやすいのは、イスラエルらしい特徴でもあり新鮮です。
気になるのはそれぞれのワインのお味。私はワインのテイスティングなどを勉強したこともないのでかなり主観的な感想ですが、全体的に、しっかりした味の、インパクトのあるワインが多かった様に感じました。
フルーティな香りが鼻腔をくすぐり、軽やかで若々しいようなイメージなのに、口に入れると芯の通った主張がある、信頼感のあるワイン。その意外性に驚かされつつも、のど越しは滑らか、飲み干した後はついもう一口と、忘れ難い独特な感覚を呼び起こし…。
などと、ちょっとワイン評論家風を気取ってみましたが、味や香り、飲み心地を言葉で表現するのは難しいですね。しかも、たくさんのワインをテイスティングさせていただいたので、それぞれのワインの印象に関する記憶が少し(かなり)混ざってしまっているかもしれません…。
それでも、美味しくて、楽しくて、幸せな気持ちでワインを飲み続けてしまったことは事実です。すっかり満足感に満たされました。
「神は水をつくったが、人はワインをつくった」フランスの作家、ビクトル・ユーゴーの言葉が頭に浮かびます。聖地イスラエルでこんなことを言ったら、神様にお叱りを受けるでしょうか?
皆さんにもぜひ、このユダのワインを体験していただきたい、そう思っています。
ワインフェスティバルの会場を後に
イスラエルのユダ地方は農業に力を入れているそうですが、農業ツーリズム、その中でも特にワイン・ツーリズムに力を入れているそうです。
会場となったヤッド・シュモナ・ホテルも一例ですが、ホテルが一体となったブティック・ワイナリーもあり、音楽イベントが開催されたり、ワイナリーをいくつか「はしご」したりと、いろいろな楽しみ方を準備してくれています。
「帰路を心配していたら、ワインは存分に楽しめないわ。私たちはここで好きなだけ飲んで、このホテルに宿泊するの。予約はずいぶん前に入れておいたわ」たまたま隣り合わせ、一緒にテイスティングを楽しみ、ワイン談議に花が咲いた初対面のイスラエル人女性は言いました。
「そして、明日のワイナリーツアーに参加するんだ。明日は、このユダ地方のワイナリーを3つ回るんだよ。これがこのフェスティバルの王道!」とお連れの方。
このワインフェスティバルは6月2日から25日までの約3週間開催され、1日で3~4軒のワイナリーを周ってそれぞれのワインを楽しむツアーが期間中に4回準備されているのです。また、ワイナリーごとに楽しそうなイベントも企画されています。
夏が本格的に始まる前の過ごしやすいひと時、コロナ規制もほとんど全廃となったイスラエルで、イスラエル全土から、そして外国からも、旅行者がやってきて「ユダのワイン」を楽しんでいるのでした。
私もすっかり良い気持ちになり、そのままこの美しいホテルに宿泊してしまいたい気分でしたが、意志を強く持って家路につきました。なにしろ、車の運転のために、ワインをほとんど飲まずにこのフェスティバルに付き合ってくれた同行者がいるのですから…。
皆さんもイスラエルを訪れることがありましたら、聖地巡りや遺跡巡り、イノベーションセンター巡りなどと共に、ぜひワイナリー巡りもその予定に組み込んでみてください。
イスラエルの旅が、きっと格段に素晴らしいものになるでしょう。
ユダ地方のワイナリーのパンフレット
https://uploads.binaa.co.il/myehuda/yekev/index.html
ユダ地方のワイナリーの説明動画
ワインフェスティバルのサイト
ユダ地方の地方自治体のホームページ