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Art

独学で築いた世界観で人間の感情を表現するアーティスト、Tomer Peretz(トマー・ペレツさん)インタビュー<後編>

by Shiori Ichikawa |2020年08月05日

Tomer - Studio shot

エルサレムで生まれ育ち、イスラエル国防軍での兵役を終えたあと、アメリカ・ロサンゼルスへ移住し本格的にアーティストとして活動を始めたトマー・ペレツさんですが、インタビュー後編では、トマーさんの画法工程や作品の背景、そして彼の哲学について語ってくれました。


<前編はこちらをクリック>

描く過程で人の本質と向き合う – 【Incomplete】コレクション

――― Tomerさんの作品のうち、鉛筆などの下書きで描いた線が残っている作品がいくつかありますが、このコレクションについて詳しくお話いただけますか?


Tomer : 2013年に完成させた”Incomplete(訳: 不完全)”というコレクションです。”Incomplete”は、部分的にペイントとスケッチで描かれた人物画の作品シリーズです。絵が不完全のままの理由は、描くプロセスを見せたかったからです。完成されたポートレートは、どのように描かれたのか過程を見ることができませんが、これらの作品は意図的に不完全のまま残されています。

JHOP - Incomplete
JHOP – Incomplete, Oil Painting on canvas, 79in. x 56in. x 2in.

スピリチュアルな解説をすると、私たちはみんな不完全であり、完璧ではないということを表しています。神が人間を創造した時、私たちが自分以外のものの美しさを見出せるように、意図的に不完全の形にしたと信じています。もし私たちが完全な形であった場合、他人の美しさを見つけることはできません。このコレクションの根本的なアイディアとして、不完全なポートレートを描くことにより、技術的な面では描く過程を露出し、哲学的なアイディアを伴うスピリチュアルな面では、私たち人間が不完全であることを認識し、またそうあるべきだと訴えています。


例えば15 Minutesプロジェクトのような他のタイプの人物画では、全く違うテクニックを使っていて、(下書きを残さず)キャンバスの隅々までペイントしています。15 Minutesの過程は、まず描く人物の写真を何枚か入手し、選んだ写真を見本にライブペイントの数日前にキャンバスに下書きし、絵の全体像を学びます。10フィートのキャンバスの上に、たった15分間で絵を完成させるのは不可能に近いので、事前に対象人物の顔の細かい部分まで学ぶ必要があります。10フィートは約3Mですので、かなり巨大です。

Tomer working on 15 Minutes painting

実際にキャンバス上に絵を描いている時は集中していて、どこに何を書けばいいのかなど考えている余裕はないので、絵を学んでおくことにより心のままそして素早く描くことができます。15分間のライブペインティングでは思うように描ききれないので、コラボしている人に数分延長していいか確認し、大体3-5分ほど続けて絵を完成させます。なので、実際ライブペインティングは15分では終わらず絵を完成させるのにも15分以上かかりますが、15 Minutesプロジェクトはショーであって、「15分間のライブペイント」というコンセプトが何より大切です。

イスラエルでの幼少時代、軍隊での経験を語る【Unbreakable】コレクション

―――Tomerさんの代表作品として、Play Time at the Gulf War(訳: 湾岸戦争中の遊び時間) が挙げられると思いますが、この作品の背景とイスラエル軍で過ごした年月がTomerさんのアートに与えた影響について教えてください。


Tomer:10年前にUnbreakable(訳: 壊れないもの)という展示会を出展しましたが、このコレクションは、軍隊で過ごした日々やそこでの経験、そしてイスラエル軍に入隊したいと思ったきっかけを語っています。“Play Time at the Gulf War”は、幼い頃に兄と一緒に防空壕の中で積み木やおもちゃの車で遊んでいた思い出を描きました。子供の頃は家の中でガスマスクをして過ごすこともあったのですが..ただのガスマスクで大したことはないと思っていたのですが、大人になって外国へ移住し他の人とその話をすると、普通ではなかったのだと気付かされます。普通の人が経験することではないですよね。湾岸戦争中の印象的な思い出のひとつです。

Play Time - Unbreakable
Play Time – Unbreakable, Oil Painting on canvas, 84in. x 53in. x 2in. 

―――インタビューの前半で、先生から絵を習ったわけではなくプロになるための勉強をしたわけではないとおっしゃっていましたが、インスピレーションを受けたり、多くを学んだメンターやアーティストはいますか?


Tomer:今まで、私は多くの人に出会い学んできました。まだつながっている人もいれば、連絡が途絶えてしまった人もいます。自分にとって大切なことを教えてくれて、キャリアのなかで成長させてくれた人たちは、もちろん今でも交流があります。メンターとして慕っている人もいます。そのうち数名の人には必ず真実を伝えてもらうようにしています。


アーティストは、真実を知ることはなかなかできません。「アーティストの気持ちを傷つけてはいけない」という概念があるので、アーティストに「この絵はどうかな?」「新しい曲はどう思う?」と聞かれたら、人は皆「素晴らしいね」と声を揃えて言います。アーティストは傷つきやすいと思われているので、誰もアーティストに真実を言おうとしません。なので、私がメンターとして選んだ人には自分のアイディアがいいのか悪いのか、関連性があるのか、隠さずに真実を言ってもらうようにお願いしています。今進めているプロジェクトについて私のメンターたちはほとんど知っていますし、一緒に参加してくれています。メンターの中にはアーティストの人もいれば、そうでない人もいます。


【Tomerさんのメンターや影響を与えたアーティスト】

  • International Street Artist JR
  • Photographer David LaChapelle
  • Photographer Lee Jeffries
  • Artist Salvador Dali

日本とつながるミニマリズムの思想

―――来日したことはないとおっしゃっていましたが、日本との個人的な繋がりやTomerさんが持つ日本のイメージを教えてください。


Tomer:今まで日本人との間で嫌な経験をしたことはないですね。LAにいるとたくさんの日本人と出会いますが、日本の方はみんな親切ですよね!日本の文化についてあまり知りませんが、今一番行きたい場所のひとつです。もし今まで自分と縁がなかった文化で、今後関わっていきたい文化は?と聞かれたら、すぐさま日本と答えると思います。日本人の人の発想やスタイル、服装などかっこいいなと感銘を受けています。LAに住んでいる日本人のファッションはスタイリッシュで、目を奪われます。それに日本人はみんな礼儀正しくて、イスラエル人のように叫び合ったり、話の途中で割り込んだりしないですし、他人に対して尊敬の念を持っていますよね。普段から単刀直入に何でも言ってしまう性格なのでお世辞は言わないのですが、日本人に対しては本心でポジティブなことしか浮かばないです。


―――それはよかったです。ありがとうございます。日本の文化にはミニマリズムの思想が深く根付いているのですが、この哲学についてどうお考えですか?


Tomer:ミニマリズム..とてもいいトピックですね。この言葉を聞くと、ミニマリズムのデザインがすぐ頭に浮かぶと思いますが、それは置いておいて、私にとってミニマリズムとはデザインだけではなく生き方の一つです。幸せになるために多くはいらないということ。私たちが幸せになるために家の中に多くのモノは必要ないですし、周りに多くの人が必要なわけでもなく、そう考えるといらないものが多いように思えます。

Alon - Incomplete
ALON – Incomplete, Oil Painting on canvas, 79in. x 56in. x 2in.

自分が家族と共に幸せになるために最低限必要なものを理解し、それを見つけて追求することさえできれば、おそらく世界で最も幸せな人になれるでしょう。しかしそれは、最も難しいことでもあります。素直になることも同様です。「素直になる」ことは素晴らしい心がけですが、人によってはとても難しいことでもあります。多くの人が素直に慣れていないと思います。私自身も100%素直ではないですし、100%素直な人は出会ったことがありません。


100%厳密にミニマリズムの思想に従って生活をしている人はあまりいないと思いますが、そのように振る舞っている人はたくさん知っています。その人たちの家に招かれてみると、ミニマリズムに感化されていることは見てとれますが、そんな人たちの頭の中を覗いてみると、ごちゃごちゃしていて全くミニマリズムでなかったりします。


ミニマリズムは生き方の一つですが、ただ閑散とした部屋に水とパンだけがあることがミニマリズムではありません。ミニマリズムとは、自分に必要ないものを選び自分の生活から取り除き、生きていくことができるようになることです。それが私にとってのミニマリズムの信念です。私はモノに執着しないので、長くとっておかずにすぐ捨ててしまいます。


―――日本に来れば、ミニマリズムを至る所で見ることができますよ。日本の国全体がミニマリズムを表現していると思います。是非、日本にいらしてくださいね!Tomerさんの来日をお待ちしています。


Tomer:素敵ですね。楽しみにしています!

Tomerさんのインタビュー<前編>はこちら!

Tomer - Profile BW

<Tomer Peretz(トマー・ペレツ) プロフィール

ロサンゼルスを拠点とし、ペイントとミックスメディアを取り入れて創作するアーティスト。14歳の頃から独学で描き始め、油彩画、アクリル画、写真、コンセプチュアルアートなど、さまざまなプラットフォームを利用し、見る人の感情を呼び起こすような芸術表現で、独自の視点を伝えている。社会的地位に関係なく、対象の本質を捉えることに焦点を置き、主に自身の家族や友人、有名人などのポートレートを綿密でシュールな手法で描く。

公式ウェブサイト

http://www.tomerperetz.com

公式Instagram

https://www.instagram.com/tomerperetzart/