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Art

独学で築いた世界観で人間の感情を表現するアーティスト、Tomer Peretz(トマー・ペレツ)さんインタビュー<前編>

by Shiori Ichikawa |2020年07月17日

Photo by Gabriel Ervin

エルサレムで生まれ育ち、イスラエル国防軍での兵役を終えたあと、アメリカ・ロサンゼルスへ移住し本格的にアーティストとして活動を始めたトマー・ペレツさん。インタビュー<前編>では、トマーさんの様々な活動と自粛中に立ち上げた新しいプロジェクトについてお話を伺いました。

感受性を培った故郷イスラエルと、刺激を受けたロサンゼルス。それぞれの魅力とアートへの影響

―――トマーさんはイスラエルのエルサレムで生まれ育ちましたが、どのような少年時代を過ごされましたか?またトマーさんのアートにどのように影響していますか?

Tomer : 日頃から、自分がイスラエルで生まれ育ったことが本当に(自分のアートに)影響しているのか、どう答えるべきか悩むところです。もちろん変えられない事実ですが、意識的には考えていないので、たぶん無意識に影響されていると思います。

人を描いた作品だと、その影響ははっきりと目には見えません。エルサレムの南東で育ちましたが、自分の少年時代がとても好きです。道端でサッカーをしたり、時には対立していた隣のアラブ系の村と闘争したり、そんな毎日を過ごしました。周りのアラブ系の村と争うことはもちろん好ましくありませんでしたが、それ以外はとても良い少年時代だったと思います。

―――トマーさんが好きなイスラエルのことについて、教えてください。

Tomer : (イスラエルの)活気が好きです。イスラエルがなぜ素晴らしい国なのか、その理由はお互いを助け合うイスラエルの人々にあります。


私は現在ロサンゼルスに住んでいて、これまでたくさんの国を旅行しましたが、イスラエルの人々は深い思いやりを持っていると思います。実際にイスラエルで生活しているとなかなかそれを見て感じることはできませんが、外から見るとイスラエルの人々はお互いのことを想い、とても温かい心を持っていることがわかります。


イスラエルは、是非観光客として訪れたい国ですね。私は日本へは行ったことがありませんが、今までたくさんの国を訪れました。イスラエルへは毎年行っていて、いつも最高なバケーションを過ごします。イスラエルの人々は、世界各国の人とは違い、とてもユニークだと思います。個人的には、居住するより観光で訪れる方が楽しいと思います。国外へ出て、渡米してからもっとイスラエルのことが好きになりました。 

Alejandro II / Incomplete, Oil Painting on canvas,
72in. x 60in. x 2in.

―――いつそしてなぜ、ロサンゼルスに移住されましたか?

Tomer : 移住したのは兵役を終えてからすぐ。4年半ほどイスラエルの国防軍に従事し、そのあと南アメリカを旅行し、そのままイスラエルへ帰国せずにロサンゼルスへ移住しました。イスラエルへはたまに旅行するくらいですが、イスラエル人にとってはよくあることですね…元々移住するつもりはなかったのですが、なるようになった…という感じです。

―――ロサンゼルスに留まりたかった理由はありますか?

Tomer : 当初の予定は、2-3ヶ月だけ滞在していくらかお金を貯めてからインドへ行き、アジア圏を周遊する予定でしたが、ロサンゼルスで働き始めて、この街に恋をしました。ロサンゼルスに来てからすぐに絵を描き始めました。ここに留まり、今自分が関わっている仕事をする、というのは考えてもいなかったことで、計画したことではなく、いろいろなことが偶然重なり合い、結果として今がある、と言えます。

―――移住はトマーさんのアートにどのような影響を与えましたか?

Tomer : 来たばかりの頃は、初心者同様のアーティストでしたよ。アーティストになるために学校へ行ったわけではないので、どうしていいのかもわからず、使いたい素材の名前も、自分の作品を売り込む方法も知りませんでした。


あの頃はフェイスブックなどもなかったので・・・アートギャラリーへどう売り込んだらいいのかわからず、最初は全部ゲリラ的なやり方で、もちろん間違っている方法だったと思いますが、それでもとにかく前に進み続けました。当時ロサンゼルスには家族もいないですし、独りだったので、絵画を売るにしても、何か新しいことを学ぶにしても、すべて自分一人で挑戦し戦っていました。


私のアートはすべて独学です。自分のキャリアにおいて、先生たちから学ぶのではなく、すべて自分で経験から学び成し遂げなければなりませんでした。でもそれはロサンゼルスでは当たり前のこと。この街は成功することに貪欲で、自分のゴールを達成できなければいる意味がない、と感じさせられます。私自身も失敗を恐れ、何かを成し遂げるために最大の努力を尽くしました。違う国へ移住した人のほとんどが、何年か経ってから振り返り、自分が成し遂げたことがとてつもなく劇的なことだったんだと気付きますよね。

Mark / Incomplete, Oil Painting on canvas, 72in. x 60in. x 2in.

多角的に開拓した幅広いキャリア

―――トマーさんは様々な面でアートに携わられていますが、どのような活動をしているのか詳しくお聞かせください。

Tomer : 様々な分野に関わっています。ビジネスを広げるために自分のアートを介していろいろなことをしています。


まず一つは、もちろん画家としての活動です。自分の作品を、代表するアートギャラリーに送ります。ロサンゼルスのギャラリーの他に、メキシコのアカプルコ、そしてイタリア、ミラノにあるギャラリーと契約しています。各ギャラリーが世界中のアートフェアや展示会に出展し、彼らのクライアントに私の作品を紹介しています。私自身も顧客を持っていて、ロサンゼルスにいるマネージャーが直接注文や購入の管理をしています。


画家としての活動の他に、コンサルタントとして、違う観点を持ったフリーランスのアーティストからの意見を必要とする企業や、広告代理店などと仕事をしています。Netflix、グッゲンハイム家やApple、そして土地開発業者や不動産などの大きな企業と仕事をしているプロダクションカンパニーに起用され、コンセプトやビジョンなどのアートディレクションを提供しています。アートコンサルタントとしての仕事は、ただコンセプトを考えて話をするだけで、自分の手を直接動かさないのであまり好きではありません。


もう一つの活動は、壁画制作です。企業に依頼され、会社のオフィス内の壁や、ビルの壁などに巨大な絵を描いています。壁画を描くことは一番好きな活動の一つです。絵を描くことを伴う活動は特に気に入っていて、そうでないものはまあまあといったところでしょうか。


他には、15 minutesなど自分のアートプロジェクトを立ち上げています。

コロナ禍で原動力となった友人の言葉と新たな挑戦「15 Minutes」プロジェクト

―――15 Minutesについて詳しく教えてください。どのようにこのプロジェクトは始まったのでしょうか?

Tomer : 15 Minutesはこのコロナ禍で誕生しました。たった15分間で人の肖像画を描くプロジェクトで、今も続いていますが、すでに多くの人が予約をしてくれています。

このパンデミックが始まった頃、50時間以上絵を描き続けて心身ともに疲れ果て、描き始めた絵に行き詰まりイライラしていました。通常一つの作品を仕上げるのに約1ヶ月から2ヶ月かかりますが、出来上がるまで人を待たせてしまうのであまりいい気がしません。コロナの感染が広がる前に、メキシコのギャラリーから、マイアミで作品をいくつか売約したのでもっと作品を送って欲しいと連絡がありましたが、すぐに出品できるものがなく、描き始めることはできますが、最低でも1ヶ月はかかってしまいます。そんな時、私は自分を限界まで追い込みたいタイプの人間なので、何か違う方法を考えなくてはならないと思い、今でと違うテクニックを試そうと考えました。

おそらく何か精神的な変化を経験していたんだと思います。私のメンターの一人で写真家である自分の親友が言ったある言葉で、自分の心に深く突き刺さった言葉があります – 「感心させるより、素直でありたい。

SNSに何かを投稿するたびに、「これは本当の自分か?本当に今言ったように自分は生きているのか?」と自分に問いかけました。インスタグラムやフェイスブック、たくさんの記事やマガジンなどをなんとなくスクロールして見ているうちに、自分の作品の創り方や人との接し方を変えるべきだ、と思うようになりました。すべてはその友人の言葉が反映されています。


何か違うことをして、新しいものを創り出し、自分を変えたいと強く思い、しかもそのプロセスを人に見てもらうために、ライブでやることにしました。失敗するときはする、そんなことは気にしない。だいぶクレイジーなアイディアだったので、イタリアにいる自分のマネージャーにこの話をした時に、最高にクールなものになるか、最悪なものになるかどちらかだね、と言われましたよ。それでも、スタジオで何度か試しに15分間で絵を描いてみて、とにかく挑戦してみました。そこからこの15 Minutesプロジェクトは始まりました

15分間だけで絵を完成させるのは容易ではなく、本当に難しいです。身体的に焦っているからだけではなく、人々が何かを期待しているからこそ難しい。あまり良くない結果になって、他のアーティストからネガティブなコメントがきたこともありますが、自分の中で何かが変わっていくのを感じました。


このパンデミックが始まってから、自分のキャリアとして踏むステップや日々の行動すべてにおいて、頭に残っている「感心させるより、素直でありたい」と言う友人の言葉を考えさせられます。誰かを感心させることはもう求めていません。SNSに投稿する時に自分がどんな顔をしているのか、写りが良いか悪いかなんてことは気にしなくなりました。自分が被っていたたくさんの仮面やレイヤーを取り除くことができ、とても清々しい気持ちです。

15 Minutesは、自分が初めて何も計略などを考えずに具現化したアイディアで、とても面白いプロジェクトだと思います。描いた絵の実物は、まだ誰の目にも触れずに自分のスタジオに並んでいます。今はただ自分が楽しむことだけに専念しています。すべての事はなるようになると思っています。人が言う事は気にせず、人を感心させるためではなく。太り過ぎに描いてしまったり、あまり上手に描けなかったり、それも15分間しかないのだから、仕方がないこと。出来上がったものをただ受け入れるのみ。

多くの人にとって仮面を脱ぐことは、簡単なプロセスではありません。特にアーティストにとってはなおさら。アーティストはたくさんの仮面を被っていて、自分の感情の真理を伝えることは絶対にしません。 

今回この15 Minutesを通じて、自分のアートを見つけてもらえたということは、何かしらこのプロジェクトから良い結果が出ているということなので、とても嬉しいです。

―――この15 Minutesで日本のアーティストの方とコラボレーションをしたら面白そうだなと思いますが、トマーさんが興味のある日本人アーティストの方はいますか?

Tomer : 素敵なアイディアだと思います!新しい文化に触れることがとても好きですし、特に日本はとても面白い国なので、是非色々知りたいと思います。


コラボレーションをする相手を選ぶには、その人と繋がりその人を感じることができるかどうか、その人のことを描きたいと思うことが大切です。ですので、何をしている人なのか、もちろんその人の顔の輪郭など、相手をことを知るために情報を得る必要があります。最も重要なのは、相手のことを理解し、しっかりと会話をし、その人と相性が合うかどうか…心が通じ合い、相性が合わないと一緒に何かを創り上げることはできません。男性、女性関係なく、このプロジェクトに興味があって、観客に伝えるストーリーや感情を持っている人がいれば、ぜひコラボレーションしたいです!

今私たちは、コラボレーションを必要とする世界そして時代に生きていると思います。一人でできることは限られていて、他の人と協力することでよりパワフルになりもっと生産性を高められると思うので、コラボレーションは大歓迎です!

―――<後編>では、トマーさんの代表作品やポートレートの世界観についてのインタビューをお届けします。お楽しみに!

Photo by Gabriel Ervin

<Tomer Peretz(トマー・ペレツ) プロフィール

ロサンゼルスを拠点とし、ペイントとミックスメディアを取り入れて創作するアーティスト。14歳の頃から独学で描き始め、油彩画、アクリル画、写真、コンセプチュアルアートなど、さまざまなプラットフォームを利用し、見る人の感情を呼び起こすような芸術表現で、独自の視点を伝えている。社会的地位に関係なく、対象の本質を捉えることに焦点を置き、主に自身の家族や友人、有名人などのポートレートを綿密でシュールな手法で描く。


公式ウェブサイト

http://www.tomerperetz.com

公式Instagram

https://www.instagram.com/tomerperetzart/