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CULTURE

テクノロジーとデザインで社会課題に挑む、イスラエル出身シラ・ソニゴの新たな一歩

by ISRAERU 編集部 |2026年08月06日

ソフトウェアエンジニアからデザインの世界へ転身した、イスラエル出身のShira Sinigo(シラ・ソニゴ)さん。英国で取り組んだ2つの卒業制作では、持続可能な畜産を支えるセンサーと、視覚障害のある女性が自立して使える搾乳器を開発しました。

搾乳器「CuLa」

ハイテク業界からデザインの世界へ

シラ・ソニゴさんは29歳。イスラエル国防軍でプログラマー、後に将校として勤務しながら、経営大学でコンピューターサイエンスの学士号を取得しました。除隊後は、ハイテク企業でソフトウェアエンジニアとして数年間働きました。


現在は、英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)とインペリアル・カレッジ・ロンドンによる修士課程「Innovation Design Engineering」を修了するところです。2年間の課程を終えると、MAとMScという2つの学位が授与されます。

同課程には、工学やデザイン、コンピューターサイエンス、医学など、多様な分野から学生が集まります。ソニゴさんの学年には、約30カ国から60人が参加。利用者調査からアイデアの構築、試作品の開発まで、製品開発の全工程を多国籍・多分野のチームで学びます。


子どもの頃から創造的なことが好きだったというソニゴさんは、社会人になってから、その要素が生活に欠けていると感じていました。デザインや芸術の学位がなくてもRCAに応募できることを知り、ポートフォリオを制作して挑戦することを決意します。


しかし、ソフトウェア工学からデザインへの転身は、決して容易ではありませんでした。ストーリーテリングや利用者調査、立体デザイン、電子工学、機械工学、試作品の製作などを一から学び直したからです。それでも、異なる専門性や文化的背景を持つ仲間との協働を通して、技術だけでなく、柔軟なデザイン思考を身につけていきました。

シラ・ソニゴ
シラ・ソニゴさん(Photo:ガオナン・リャオ)

放牧を支えるセンサー「GrazeIQ」

グループで取り組んだ卒業制作では、食料安全保障をテーマに選びました。イスラエルをはじめ複数の国で牛乳不足が報じられていたことをきっかけに、英国の酪農家が直面する経済的な課題について調査を始めます。


牧場や酪農施設を訪問し、農家や専門家への聞き取りを重ねる中で注目したのが、「リジェネラティブ・グレージング(環境再生型放牧)」です。牛に一定の区画で数日間草を食べさせ、その後、別の区画へ移動させることで、牧草の自然な再生を促します。土壌の健全性を高め、より持続可能な農業につなげる方法です。


そこで開発したのが「GrazeIQ」です。牛の脚に取り付けるセンサーによって、牧草の量と状態を計測し、機械学習を活用して、群れを次の放牧地へ移す最適なタイミングを農家に提案します。環境への負荷を抑えながら、牧場の収益性向上にも貢献することが狙いです。

GrazeIQ
GrazeIQ
牛の脚に取り付けるセンサーによって、牧草地の移動のタイミングを提案する「GrazeIQ」

ケント州の牧場と共同で試験を行い、高い評価を得たGrazeIQは、インペリアル・カレッジのプレシード支援プログラムにも採択されました。今後、さらなる技術開発が進められる予定です。


視覚に頼らず使える搾乳器「CuLa」

個人の卒業制作として開発したのは、目の見えない女性や弱視の女性のための搾乳器「CuLa」です。

きっかけは、搾乳器などを手がけるHegen社の製品開発ワークショップに参加したことでした。同社の創業者から「視覚障害のある女性は、どのように搾乳器を使っているのか」という問いを聞き、障害のある人の子育てについて、社会でほとんど語られていないことに気づいたといいます。


ソニゴさんは、視覚障害のある母親たちのコミュニティとつながり、数十人に聞き取りを実施しました。その結果、一般的な搾乳器は性能や静音性、外観には配慮されている一方、アクセシビリティがほとんど考慮されていないことが分かりました。自力で正しく使えず、けがやストレス、早期の授乳断念につながるケースもあったのです。


英国の視覚障害のある母親たちを設計・開発のパートナーとして迎え、完成したCuLaは、視覚に頼らず一人で操作できます。触覚だけで乳首を正しい位置に合わせられる構造、母乳が流れ始めたことを伝える仕組み、画面や音声案内に頼らず操作できるシンプルな触覚式コントローラーが特徴です。

搾乳器「CuLa」
搾乳器「CuLa」
触覚だけで牛の乳首を正しい位置に合わせられる搾乳器「CuLa」

卒業展では、来場者が目で見ずに製品へ触れ、音声ガイドに従って操作する体験型展示も行われました。利用者が直面する課題を、身体的な体験を通じて伝える試みです。


今後もロンドンに滞在し、エンジニアとデザイナー双方の視点を生かして成長したいと語るソニゴさん。異なる領域を横断して得た知識と経験を生かし、人と社会に寄り添う技術の開発を目指します。


*本記事はイスラエルメディアPortfolioの報道をもとに構成しています。