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BUSINESS

水がない国が世界の農業を変えた。イスラエルが生んだ「精密潅水」という革命

by Keiko |2026年08月05日

年間降水量が少なく、国土の約6割が砂漠。農業には決して恵まれた環境とはいえないイスラエルが、いま世界150か国以上で使われる農業技術を生み出しました。その代表格が「精密潅水」です。水と肥料を植物が必要とする量だけ正確に届けるこの技術は、世界各地で水不足や気候変動への対応策として注目され、日本でも導入が進み始めています。その中心にいるのが、イスラエルを代表する企業「Netafim ネタフィム」です。

精密灌水で栽培するブルーベリー

「水がない」からこそ生まれたイノベーション

イスラエルは世界有数の乾燥地帯に位置しています。北部を除けば降雨量は少なく、南部のネゲブ砂漠では年間降水量が100ミリメートルにも満たない地域があります。しかも人口は増え続け、限られた水資源を農業・生活・産業で分け合わなければなりません。


つまり、「水を無駄にしないこと」が国の存続そのものに関わる課題だったのです。


そこでイスラエルでは、海水淡水化や下水再利用と並び、「植物に必要な水だけを届ける」という考え方が発展していきました。

その結果誕生したのが、現在では世界標準ともいえる精密潅水技術です。

ネタフィムの精密灌水の製品

点滴のように植物へ水を届ける

従来の農業では、畑全体に大量の水をまく方法が一般的でした。しかし、この方法では蒸発や地中への浸透によるロスが多く、植物が実際に利用できる水は限られていました。


精密潅水では、細いチューブと点滴ノズル(ドリッパー)を使い、根元へ少量ずつ水を供給します。人間の点滴治療のように、必要な量を必要なタイミングで届ける仕組みです。

さらに水だけでなく肥料も同時に供給できるため、「施肥潅水」と呼ばれる管理も可能になります。


現在では、土壌水分センサーや気象データ、クラウド管理、AI解析などと組み合わせることで、さらに高精度な栽培を実現しています。

豊かに実ったブルーベリー
ブルーベリー農園での精密灌水

世界を変えたネタフィム

この技術を世界へ広めたのが、1965年にイスラエルで設立されたネタフィムです。


ネタフィムは、キブツ・ハツェリムで開発された点滴潅水技術を事業化し、世界に普及させたパイオニアとして知られています。現在では100か国以上に拠点を持ち、そのシステムは世界150か国以上で活用されています。


対象となる作物は、ブドウ、柑橘類、ブルーベリー、トマト、イチゴ、綿花、サトウキビ、さらには大規模穀物まで幅広く利用され、乾燥地域だけでなく、水資源を効率的に活用したい先進農業でも採用が進んでいます。


日本でも果樹栽培や施設園芸を中心に導入事例が増え、いま注目を集めているスマート農業のひとつです。

一つ一つのポットに直接、水と肥料を届ける。

農家の「勘」から「データ」へ

近年の精密潅水は、単なる水を送る装置ではありません。
気温や日射量、土壌水分、EC(電気伝導度)、pHなどのデータをリアルタイムで取得し、それをもとに最適な潅水量や施肥量を判断する「データ農業」のプラットフォームへと進化しています。


経験豊富な農家の勘や経験をデータで再現し、誰もが安定した品質を目指せる仕組みづくりが進んでいるのが現状です。


AIとの連携も始まり、将来的には気象予測や生育状況を踏まえた自動制御がさらに普及すると期待されています。

スマート農業のモニターシステム

日本農業にも広がる可能性

日本でも農業従事者の高齢化や人手不足が深刻化する一方、気候変動による猛暑や豪雨への対応も求められています。


こうした課題に対し、水と肥料を効率よく管理できる精密潅水は、有力な解決策のひとつと言えるでしょう。


実際に、日本国内でもブルーベリーやトマト、イチゴなどの栽培で導入が進み、収量や品質の安定、作業負担の軽減といった成果が報告されています。

ブルーベリーを収穫する農家の女性
ネタフィムの精密灌水を利用して日本でブルーベリーを栽培

次回予告

オーストラリアでこの技術に出会い、「これなら農業を始められる」と感じたご夫妻がいます。帰国後、イスラエル発の精密潅水システムを導入し、未経験からブルーベリー栽培に挑戦。そして2026年、植え付けから約1年で初収穫を実現しました。

その挑戦の舞台裏と、データが変える日本の農業の最前線をご紹介します。