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AIが生命40億年の謎に迫る―イスラエル研究チームが描く「タンパク質の世界地図」

by ISRAERU 編集部 |2026年10月06日

生命はどのように進化し、現在の多様な姿へとつながってきたのでしょうか。イスラエルの研究チームは、AIを活用して膨大なタンパク質の関係性を一枚の「世界地図」として可視化する新たな手法を開発しました。生命40億年の歴史をたどる手がかりとなる可能性を秘めた研究として注目を集めています。


タンパク質研究とバイオインフォマティクスの概念図

生命を支える「分子の機械」

タンパク質は、細胞の中でほぼすべての生命活動を担う重要な存在です。栄養の代謝、情報伝達、免疫反応など、私たちが生きるために必要な働きの多くを支えています。


しかし、現在知られている数千ものタンパク質ファミリーが、進化の過程でどのようにつながっているのかは、まだ十分に解明されていません。


こうした課題に挑んだのが、ハイファ大学とテルアビブ大学を中心とする国際研究チームです。研究者たちは、AIを使って「タンパク質の宇宙」とも呼べる膨大な情報を整理し、関係性を視覚化する新たなモデルを開発しました。


AIモデルCLSSが可視化したタンパク質の関係性マップ
ハイファ大学とテルアビブ大学を中心とする研究チームは、タンパク質のアミノ酸配列と立体構造を同じ「地図」の上で解析できるAIモデルを開発しました。研究者たちは、この技術によって異なるタンパク質ファミリーのつながりを探り、生命進化の歴史をたどる手がかりを得たいと考えています。

タンパク質には二つの“顔”がある

タンパク質はアミノ酸が連なった「配列」として記録されています。しかし、実際に機能するためには、その配列が折りたたまれて立体的な形状を作らなければなりません。


興味深いことに、配列が大きく異なるタンパク質でも似た立体構造を持つことがあり、逆に似た配列でも異なる構造になる場合があります。そのため、配列だけ、あるいは構造だけを見ていては、タンパク質同士の本当の関係を見落としてしまう可能性がありました。


そこで研究チームは、配列情報と立体構造情報の両方を同時に扱うAIモデル「CLSS(Contrastive Learning Sequence–Structure)」を開発しました。


AIが描く「タンパク質の世界地図」

CLSSの特徴は、「コントラスト学習」と呼ばれる手法を用いていることです。

AIは同じタンパク質の配列と立体構造を近くに配置し、無関係なもの同士は遠ざけるよう学習します。その結果、タンパク質を数学的な空間の中に配置した「地図」を作り出すことができます。


研究チームは約100万件のタンパク質データを使ってモデルを訓練しました。その中には実験で解析された構造だけでなく、AIシステム「AlphaFold」が予測した構造も含まれています。


完成したモデルを既存のタンパク質分類システムと比較したところ、数十年にわたり研究者たちが積み上げてきた分類結果を高い精度で再現できることが確認されました。しかも、その分類情報を事前に教え込まれていない状態で達成した成果だといいます。


タンパク質の立体構造を表現した3Dイメージ

進化の痕跡をたどる手がかりに

今回の研究で特に注目されているのは、タンパク質全体だけでなく、その一部分である短い配列断片まで解析できる点です。


生命の歴史の中では、タンパク質の一部がコピーされたり組み合わされたりしながら新しい機能を獲得してきました。そのため、短い断片には太古の生命が残した“進化の記憶”が刻まれている可能性があります。

CLSSはこうした断片同士の関連性も見つけ出せるため、現代のタンパク質がどのような祖先から生まれたのかを探る新しい手段として期待されています。


研究者たちは、AIが作成した地図上で似た特徴を持つタンパク質が自然と集まり、金属や有機分子など特定の物質と結び付くタンパク質ごとに特徴的なパターンが現れることも確認しました。


遺伝情報を担うDNAを表現したコンセプト画像

AlphaFoldの次を目指す研究

近年、タンパク質研究ではAlphaFoldが大きな話題となりました。AlphaFoldはアミノ酸配列から立体構造を予測する技術ですが、CLSSは少し異なる役割を担います。

CLSSの目的は、タンパク質同士の「近さ」や「関係性」を明らかにすることです。どのタンパク質が似た起源を持つ可能性があるのか、どのような進化の道筋をたどったのかを探るための新しい地図を提供します。


さらに、このモデルは約3,600万個のパラメータしか持たず、近年の巨大AIモデルと比べると比較的コンパクトです。そのため、大規模なタンパク質データベースの検索や比較にも活用しやすいと考えられています。


もちろん、この技術だけで40億年に及ぶ生命進化の歴史を直接再現できるわけではありません。しかし、これまで見えなかったタンパク質同士のつながりを発見し、新たな仮説を生み出す強力なツールになる可能性があります。


イスラエルの研究者たちが描き始めた「タンパク質の世界地図」は、生命の起源や進化の謎を解き明かす次世代の羅針盤となるかもしれません。


*本記事はイスラエルメディアHayadanの報道をもとに構成しています。