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Art

匿名で作品を発表。
日本を愛するイスラエル人アーティスト

独占インタビュー | オウム・クルツヴ(アーティスト、フォトグラファー)

名声が重要とされる現代において、匿名にこだわり素性を隠して活躍するアーティスト、オウム・クルツヴ。彼女は自分のアイデンティティを排除することで、自分の作品に完全に没頭することができ、カテゴリーの縛りがない独自の表現方法を目指しています。


このインタビューでは、彼女がなぜ匿名で作品を発表していくことを選んだのか、彼女の独特な芸術へのアプローチそして、人生を変えた日本の天理教のメンバーとの出会いについてお話を伺います。


オウム・クルツヴ

匿名でいることを選んだ理由

「私はイラク移民の両親のもとで生まれ、両親にとっては決して楽な生活ではありませんでした。祖母のもとで育ち、叔父や叔母と一緒に暮らしていました。3歳の時、叔母に初めてのカラーキットを買ってもらい、自分の好きなようにコントロールすることができ、魔法使いになったような気分でしたね。」


それ以来彼女は、様々なアートの形で常に何かを作りつづけ、芸術的可能性を探求してきました。


才能に溢れたオウムですが、名声のために作品を作ったことは一度もありません。ソーシャルメディアを利用せず、本名を使わないこだわりも持ち、アイデンティティを隠しています。


「私は自分のプライバシーにとても慎重で、道を歩いている時に声をかけられることも好きではありません。作品は世に出したいのですが、私自身が有名になることは目指していません。ただ、作品が作りたいだけです。アーティストみんなそれぞれ自分のスタイルを持っています。私はあるものを作ってから、また別のものを試す方法でアートを作っていきます。」


実験を通じて壁を破る

オウム・クルツヴにとって、芸術は壁を破いて新しいものを生み出していくことと語ります。


その結果、彼女は常に新しい材料とテクニックを使用しています。多くの場合は何千もの小さな素材を使用し、すべてが手作業で行われるため、作品が完成するまでに数週間、場合によっては数か月かかることも。



十分な愛とエネルギーを与えれば、どんな物も何かになることができ、投資したすべてのものはいつか報われると彼女は信じています。


「自分が対面している問題を解決する新たなテクニックを見つけ出すことにとても興味を持っています。ゴミや何もないところから何かを作り上げる方法とか。


Happy masks / Corona protection. My muse session number 3 – 2020. Oum Kultuv Production: Photography, Photoshop, Face makeup, jewelry design. Model: Kelly Kelly

彼女のお気に入りの作品の一つが「The Mask Project(ザ・マスク・プロジェクト)2013」です。異文化のマスクに興味をそそられ、彼女はアーティストのためにバーチャルマスクを作り始めました。アーティストにインタビューをした後、そのアーティストのイメージを自分のビジョンに落とし込み、テクスチャー、絵画、素材をスキャン、そしてアーティストのキャラクターを作り変えます。


マスクへの関心に話を戻すと、彼女はマスクの使用に焦点を当てて展示を行っています。この新しいプロジェクトは、イスラエルでパンデミックが発生する前に取り組み始めました。


Happy masks project – February 2020. One piece mask

「私がこのプロジェクトに取り組み始めたとき、ウイルスはまだ噂であり、誰もがまだマスクを着用するほどではありませんでした。モデルで友人であるケリーと私は、注射器を持った看護師とウイルスの仮装をしてテルアビブに行き、それからどういうわけかマスクにのシリーズに話が進んだのです。


オウムにとってケリーは、作品のミューズであると語ります。 「彼女の写真を撮り、顔を描き、テキスタイルとマスクを作り、スタイリングをしました。自然の中で美しい鳥を撮影しているような気分です。私は彼女の雰囲気をを何度も変えることができます。セッションごとに異なる雰囲気を創り出せるのです。」


Face mask painting- My muse session number 2 -2019. Model: Kelly Kelly

日本の影響:北斎そして天理教

オウムは、彼女のインスピレーションの1つとして、日本を挙げています。日本の職人技と再発明の精神に深く魅了されているとのことです。


「私が大好きなアーティストは北斎で、彼の波のイメージは有名です。彼には面白い話があるんですよ。彼は自分がより良くなり、よく学ぶことができるように何年も生きたいと思っていました、そして彼の家と作品が火事で焼かれた後、80歳で自分自身を再発明しました。話によると、彼と彼の娘は絵筆だけを手に持って逃げたとのこと。日本には、金細工、陶磁器、あらゆる種類の創造物など、多くの巨匠がいます。宝くじに当選していたら、日本の巨匠から学びに行ってたでしょうね。さまざまなテクニックを学ぶことは、私にとって非常に興味深いことですから。」


残念ながら宝くじには当選しませんでしたが、スタジオで作品や売れるもの全てを販売し作った資金で、2013年に日本へ旅行することができました。資金作りのために販売したもの中には、長年収集していたレコードのコレクションが含まれているとのことです。


「私は一年をかけて一人旅行に出ました。スマートフォンもなく、ラップトップだけを持ち、スターバックスでインターネットを検索して調べていましたよ。毎日外に出て写真を撮り、近所や周辺を探索しました。」


“Jump Project by oum kultuv” 2013

彼女が日本で出逢った最も意味のある経験の一つに、天理教のメンバーとの出会いがあると言います。彼らの寺院に恋をした後、天理教を知り、すぐに信者と一緒に暮らしはじめ、彼らの人生観を学び始めました。



「私は彼らの存在全体を見て、そして写真を撮りました、それはクレイジーでしたね。彼らの考えは、すべての負のエネルギーを排出し、それを良いエネルギーに置き換えることです。私の芸術は刺激と喜びを与える特定のエネルギーを与えると信じているので、とても繋がりがあると感じました。」


オウムは日本にいる間、様々なプロジェクトに取り組みました。その中の一つが「ジャンププロジェクト」。同じ格好をした人たちや面白い状況にいる人たちに声をかけ、ジャンプしているとことを写真に撮らせてもらうプロジェクトです。


“Jump Project by oum kultuv ” 2013

オウム・クルツヴが次に目指すこと

COVID-19の旅行規制が解除されたら、オウムは再び日本に戻る予定です。


「日本で展示会をやりたいです。ティムバートンの展示会に一度行ったことがあり、そこでは彼が高校の時に作った作品が展示されていて、そのような展示会を自分もやりたいと思いました。展示会の最後に彼がデザインしたカップやキーホルダーが売っているショップがあり、自分もファッションデザインなど、もっと様々な分野でデザインしていきたいと興味が湧きました。


毎日自分の作ったマスクで仕事に向かいますが、周りからも高評価です。自分の作品を実際に見せることで、人の反応を直接見たいと思っています。自分の作品を見てくれる人と直接話すのは好きですから。


人々と私や私のアートとの交流は、多くのことを教えてくれます。私が作ったものに対する彼らの反応は、より良いアーティストとなるべく、自分自身を知ることに繋がり、よりオープンになれるのです。」


The Mask Project

https://www.facebook.com/z.a.1.0.9/


オウム・クルツヴ