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CULTURE

バレーボールへの愛がとまらない!イスラエルリーグのバレーボールチームでプレーする日本人選手

独占インタビュー|野瀬 将平(バレーボール選手)

by 中島 直美 |2021年02月16日

イスラエルリーグ1位のバレーボールチーム、ハポエル・クファル・サバ


ここで、第一リベロとしてチームを引っ張る日本人が活躍していることを、皆さんはご存知ですか?2020年9月より、VリーグFC東京から移籍した日本人選手、野瀬将平選手を取材させていただきました。


イスラエルリーグ、ハポエル・クファル・サバの第1リベロとして活躍する野瀬選手。

野瀬選手の経歴

野瀬選手は福岡県大刀洗町出身。2人の姉を持つ末っ子長男として生まれた野瀬選手は、お姉さんの影響で7歳の頃からバレーボールを始めました。



中学はバレーボールが盛んな隣町、朝倉市にある公立学校へ越境入学。先を行く先輩の背中を追いつつ、高校でもバレーを続けました。


慶應義塾大学へ進学し上京した後もバレーボールで活躍し、大学卒業と同時にVリーグFC東京へ入団。

高校時代の春高出場、大学時代のU21世界大会の経験など、経歴だけを目で追えば、華々しいことこの上なく、バレーボール選手になるべくして生まれた申し子とも言えるような野瀬選手ですが、その道は決して平坦ではありませんでした。 



野瀬選手の苦悩

とにかくバレーボールが大好きなんで」とバレーボールを愛する気持ちが言葉にも表れている野瀬選手ですが、小学生の頃は、子供らしく練習がつらくてバレーボールをやめたくなる時もあったと言います。それでも家族に支えられてバレーボールを続け、その努力が実を結び、中学では「県選抜にも抜擢された優秀な選手」の名を手にしました。けれど本当に大変だったのはそれからだったと言います。


高校は、高校バレー最大の全国大会「春高」出場常連、バレーの名門、東福岡高校へ進学。「日本一練習量の多いバレーボール部」で朝から晩までバレーボール一色の高校生活を送りました。けれど子供の体から大人へ成長し、それまで順調一直線で上達していたバレーボールに伸び悩んだ時期でもあり、やめるべきかと思い悩んだこともあったそうです。結局バレーボールに対する情熱が勝り常にバレーボールとともにある生活を続け、それは大学に入学後も同じでした。


そして学生生活の終盤、就職活動が進むにつれて、今後についての問いが野瀬選手にのしかかりました。「バレーボールを続けるべきか否か。海外進出を決めた今回の決断よりも、ずっと深く悩みました。人生で一番悩んだと言ってもいいと思います。」と、野瀬選手は言います。


「バレーボールの日本一」にたどり着けるのかという疑問と、「大企業への就職が最良」という価値観の環境の中で受け取った一流と言われる企業からの就職内々定。


それでも物心ついたときからバレーボール中心の生活を送ってきて、1年で元旦を除いた364日間練習する生活をずーっとしていたので。それがなくなる生活というものが描けなかったし、怖かった。」と野瀬選手。


結局「選手をやめてから就職することはできるけれど、就職してしまえば選手に戻ることは不可能」であると思い、バレーボール選手になるを決意しました。


イスラエルへの道

このように、人生のたくさんの選択を乗り越えて入団したFC東京。4年間の活躍の後、野瀬選手は突然とも思えるイスラエル行きを発表しました。


僕はバレーボールが本当に楽しくて、練習も好きだから誰よりもたくさんしているという自負があるんですけれど、でも、試合と練習とでは違った学びがあります。実践を積むということは、練習を積むということとまた異なる力をつける機会でもあるのです。


だから、もっと試合に出られる環境に身を置きたかった。選手として活躍できる残された短い期間のうち、選手層がとても厚いFC東京で、僕が選手として試合に出られるチャンスはどれくらいあるのか。僕は本当にバレーボールが大好きなんです。だから選手として活躍できるうちはもっといろいろな試合に出たい、様々な環境に自分を置いて成長したい、そう思って海外への道を探しました。


ドイツやフランスのチームからの話もありましたが、コロナの影響でビザの問題などもあり、過去にも日本人選手がいたこのイスラエルリーグ1位のハポエル・クファル・サバで、1年プレイをすることが決まったのです。


ハポエル・クファル・サバのチームメイトと。

イスラエルで

このようにイスラエルでのプレイをはじめた野瀬選手ですが、イスラエルのバレーボールについての印象を伺ったところ、こんな答えをいただきました。


イスラエル人プレイヤーって、気分の浮き沈みが激しいというか、良くも悪くも自分の気持ちに忠実で、常に自分が主人公なんです。調子がいい時は、日本人の僕ならちょっと恥ずかしいというか、うらやましいくらい、まるで子供の様にうれしそう。逆に、うまくいかない時は気分が沈んで、試合中でもあきらめてボールに背を向けてしまったりします。初めてそれを見たとき、僕は選手がボールを追わないなんて想像もできなくて、怪我でもしたのかと驚きました。


チームプレーが決まり、得点を共に喜ぶ選手たち。

日本のバレーボールではプレイヤーがそこまで気分に左右されるとは考えも及ばないことだそうで、野瀬選手も最初はチームメイトの沈んだ気持ちを盛り上げようとか、励まそうとしてみたとのこと。けれど、こちらのチームではそんな態度についてコーチが怒るでもなく、自分の気持ちをストレートに表すことは至極当然の様子。さらに、「僕が励ますよりも、良いプレイが出ればそれだけですっかり気分を良くして上がり調子になる」、「一点入れば打って変わってパーティー状態」なんだそうで、それがわかってからは、野瀬選手も無理にチームメイトの気持ちを盛り上げることに気を遣うよりも、自分のバレーボールプレイヤーとしての役割に集中することを心がけたそうです。


すると、「相手プレイヤーの状態や試合全体の動きなど、今まで見えにくかったことが見えてきました」と言う野瀬選手。「そこから、自分の持つ力を試合の中でどのように配分するのかということも考えるようになりました。そして、プロのバレーボールプレイヤーとして、自分が何を求められているのかということも。これは自分にとってとても大きな気づきでした。


それでも、チームの守備の要であるリベロとしては「本気を出して、足をすりむいてやっとつないだボールを、気分がのらないなんて理由で拾わないなんて、納得がいかない時もあります」という野瀬選手。そんな時は試合中でもチームメイトに本気で食ってかかってしまうことも。


「なにがあってもボールを落とさない!」リベロはチームの守護神です!

本当に腹が立つんです。頑張れば何だってうまくいくとは言いませんが、最後まであきらめなければ繋がる1点があるのも事実です。彼らはその世界があることを知らないので、僕はそれを今のチームメイトにも伝えたい、教えたいと思っています。


と常に上を目指す、第一リベロの貫禄で答えてくださいました。


そして、野瀬選手にとってイスラエル人は「とにかく暖かくて明るくて親切な人たち」。


現在、チームが借り上げたアパートにチームメイトと共に暮らしている野瀬選手ですが、「僕は今まで、知らない人との共同生活なんてしたことがなかったから、最初は絶対うまくいかない、これは嫌だって思ったんです。でも、まだ慣れないイスラエルでの生活に関することを助けてもらったり、食事は僕が作ったり。ルームメイトは僕のことも尊重してくれるけれど、自分自身も好きなことをやっているという感じで。思ったより良いもので、何とかやっていけています。」という野瀬選手。


選手と言えども、コートの外ではとってもお茶目なイケメンたち。

ルームメイトとともに死海へ旅行に行って感動したことや、日常のちょっとした出来事を、本当に楽しそうにイキイキと語って下さいました。


「死海、本当に浮くんです!あの感覚は感動でした!絶対におすすめの場所!」と野瀬選手。

お互いが、「イスラエル人だから」「日本人だから」と構えることもなく、同じルームメイトとして、チームメイトとして、そしてバレーボール選手として、互いを尊重しあっている、そんな野瀬選手の生活の様子が良く伝わってきました。


未来に向かって

さらに野瀬選手はスポーツ振興のNPO(特定非営利活動法人)で、日本におけるバレーボールの普及にも一役買う活動を行っています。


日本では、現役選手でありながらも子供たちと一緒にバレーボールをプレイするなど、日本のバレーボール人口のすそ野を広げる活動にも挑戦。今でもオフの時はリモートで可能な活動のための準備を続け、ここイスラエルでも、在留邦人の子供のためのアクティビティ”Kids Club”に参加し、日本人の子供たちに本物のバレーボールに触れる機会を提供してくれました。


将来も、選手でなくなっても、ずーっと大好きなバレーボールに関わり続けたいという野瀬選手。そのためには、少子化で減少していく子供のバレーボール人口を増やさなければならないという危機感を抱いたと言います。子供たちが楽しく安全にスポーツで体を鍛え、また、プロ選手たちがもっと良い環境で安心してプレイできるように、日本のスポーツ界にある課題を少しでも解決し、より良いものにしたいと、将来を見据え実践しているのです。


最後に

そんな野瀬選手の今シーズンの目標は、ハポエル・クファル・サバのリーグ優勝と個人賞獲得。


現在イスラエルではバレーボールの試合は無観客試合となっていますが、イスラエルのロックダウンが収束したら私もぜひ野瀬選手を応援しに、試合会場まで足を運びたいです。


2メートル級がザラにいるバレーボール選手としては小柄な野瀬選手。身体能力と技術、ボールを扱うセンスには定評があり、チームメイトにも信頼されています。

そして、近い将来、野瀬選手が日本に戻られる時には、きっと日本のバレーボール界に大旋風を巻き起こすだろうと思っています。


どうぞ、これからも大好きなバレーボールとともに、頑張ってください!応援しています!


野瀬将平

https://note.com/shohey0720