アヴィ・マザルト氏は、22年もの間に渡って、格闘技の訓練と教育にその身を捧げてきました。彼の日本文化に対する理解、そして敬意の念は、イスラエル独自の格闘技である「クラヴ・マガ」を日本人に対して教える、という彼の非常にユニークな人生を生み出しました。
「クラヴ・マガ」とは、イスラエルで生まれた独自の武闘術で、素早く、かつ効果的な方法で闘う護身術がその根本にある考え方です。もともとは、イスラエル国防軍によって考案され、軍隊における戦闘と護身の技として発展してきました。
日暮里に道場を構え、千葉にあるペイント弾戦(訳注:「ペイント弾」という模擬弾を使って銃を撃ち合う、一種のサバイバルゲーム)用の広場でその技を教えています。無論、新たな入門者は常に拒みませんが、入門者には、どんなスポーツであろうと、心身ともにしっかりと打ち込むことが大切であると教えています。
クラヴ・マガのエキスパート、というだけではなく、アヴィ氏は松濤館流空手三段の黒帯保持者でもあります。またイスラエル代表チームの一員でもあり、 イスラエル国内で2度の優勝経験を持ちます。
「クラヴ・マガ」の日本での普及活動
アヴィ氏は、長い間日本文化に魅了されてきました。その倫理観、几帳面さ、社会的規範、そしてその歴史こそが、日本という国を、格闘技を学ぶ理想の地としてきたからです。初めての来日後、アヴィ氏は2005年に東京への移住を決意します。
日本で最初にクラヴ・マガを教えたのは、現金輸送に携わるガードマンたちでした。この経験ののち、彼は一般の人々のためにクラヴ・マガを教える決心をし、自身の道場を開きます。
「クラヴ・マガは、とても短時間で効率良く身に付けられる、非常に実用的な護身術です。一生を掛けてその技術を学ぶ日本の伝統的な格闘技とは、少し性格が異なっているのです。」
ただ彼も最初は、数年かけて、その訓練方法を変えていかなければなりませんでした。「私がやってきた訓練は、軍隊のためのものでしたからね。やはり、軍隊経験など持たない日本の方々に教えるためには、そのやり方を相当変える必要がありました。」
イスラエルにおいては、軍隊での訓練が義務化されています。人々は皆、軍隊の中で格闘技を学びます。そしてそれはとても一般的なことなのです。
「クラヴ・マガを身に付ける上で、何もプロのようなタフな体力を必要とする訳ではありません。また、日本の人たちは、基本を大事にし、技の細部、一つ一つにとても拘りますよね。なので、ここでの教え方は、今までやってきた方法よりもっと時間をかけ、一つ一つの技を丁寧に教えていく事にしたのです。」
「生徒の皆さんはとても満足されていますし、トレーニングを重ねる度に強くなっていますよ。」
アヴィ氏のもう一つの顔は、「マカビア」と呼ばれる競技会の選手としての顔でしょう。「マカビア」とは、様々な鍛錬のためのスポーツ競技会で、4年に一度、イスラエル国内で開催され、世界中のユダヤ系アスリートが集まります。
アヴィ氏は、1997年大会に初めて出場、その後2001年大会を経て、2017年大会にも出場を果たしました。
「私は、日本のユダヤ人コミュニティを代表して、空手チームの一員を務めたのですよ。」自身の国の代表として、また久々の帰国ということもあり、それは彼にとって、とても胸の高鳴る体験でもありました。
「WAR ZONE」でのペイント弾による模擬戦とクラヴ・マガ講習
クラヴ・マガは、単に至近距離で闘う一対一の武闘技術ではありません。遠距離から武器による攻撃を受けたときの護身術でもあるのです。アヴィ氏は生徒に対して、銃で撃たれた時の護身法を伝授するため、アメリカ軍所有のペイント弾戦用競技場を練習場所として借りる事にしました。
「銃で撃たれた時の護身法を学ぶためには、実際に銃器の使える場所が必要です。しかし日本では、銃器所持はそれだけで犯罪になり、皆さんその扱いには全く慣れていません。そこで、アメリカ軍所有のペイント弾による模擬戦用の競技場を、銃器による攻撃に最も近い形が体験できる場所として、借りる事にしたのです。」
それはとても成功しました。その経験をもとに、アヴィ氏は、彼が「WAR ZONE」と呼ぶ、新たなペイント弾戦用競技場を開くことを決心するのです。
「私は、皆さんに、武器はどのように扱うべきなのか、そして一対一の闘いはどのように行うべきなのかをしっかり教えることのできる場所を作りたかったのです。それがその場所に「WAR ZONE」という名前をつけた理由です。イスラエル国防軍時代の経験からインスピレーションを得た訳です。」
その「WAR ZONE」は千葉にあり、毎月のイベントには多くの人々が集まると同時に、誕生会のイベントや、企業のチームビルディングの講習会などにも使用されるようになりました。新型コロナの流行で、現在、彼の活動はスローダウンを余儀なくされていますが、これからもクラヴ・マガとペイント弾による模擬戦ゲームの魅力を多くの日本の人々に伝えていきたいと思っているのです。
WAR ZONE