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CULTURE

【連載】映画で巡るイスラエル Vol.14|「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」

by 福島洋子 |2022年08月24日

映画で巡るイスラエルバナー
出典:オフィシャルウェブサイト

この映画のタイトルにもなっている669人という数字が、いったい何を表していると思いますか。669人とは、第二次世界大戦勃発直前にニコラス・ウィントンという英国のビジネスマンによって、迫り来るチェコスロヴァキアでナチスドイツの脅威から、救い出された子どもの数を表しています。


ユダヤ人を救った映画として有名なのは、スティーヴン・スピルバーグ監督によって1993年に映画化された『シンドラーのリスト』がありますが、ニコラス・ウィントンは英国のシンドラーと呼ばれています。



映画紹介とあらすじ

英国で株式仲買の仕事をしていたウィントンは、友人の誘いでチェコスロヴァキアの難民キャンプを訪れました。そこで悲惨な現実を見たのが「キンダートランスポート」を始めるきっかけとなったのです。ウィントンは、里親になってくれるイギリスの家庭に働きかけ、政府から旅券とパスポートを発行してもらい、669人のチェコとスロバキアの子どもたちを英国のホストファミリーへと安全に送り届け、救出しました。


このような素晴らしい行為をしたのにも関わらず、50年後の1988年にウィントンの妻が屋根裏のトランクからこの作戦の詳細を記した書類を発見するまで、彼の偉業は世間には知られていませんでした。主人公が半世紀以上にわたって、何も語らなかったからです。


その資料を入手したイギリスのテレビ局BBCは子どもたちの行方を追い、生放送の番組内でニコラスと再会させるサプライズを計画します。そして、人々を涙と感動で包む奇跡の瞬間が訪れました。観客席からありったけの愛と感謝をウィントンに送る生存者の方々と、それを精一杯受け止めるようとするウィントンの姿は、観ている人の涙を誘わずにはいられません。



映画の見どころ

この映画はアーカイブ映像や写真、生存者や子どもや孫へのインタビュー、重要な瞬間の再現を通して、ウィントンの人生を振り返るドキュメンタリーとなっています。


ウィントンが救った669人の子どもたちは、過酷な時代を生き延び、大人になり世界中でさまざまな職に就き、多くの子孫を生み育てました。その数はいまや約6,000人におよびます。それは、まさにウィントンビッグ・ファミリーです。


生存者が語る「あなたがいなければ、私たちはここにいませんでした」。この言葉を聞くと感動で胸がいっぱいになり、あらためてウィントンが行ったことの偉大さを深く感じます。そして、彼に救われた人やその子や孫は、彼に恩返しをしようと慈善活動に従事し、さらの多くの人を救っているのです。ウィントンの愛が世界中に受け継がれて、広がっています。


ホロコースト・ドキュメンタリーとしては見終わった後、明るく前向きになれる作品です。そして、どんな小さなことでもいいから、自分にできる人助けをしてみたくなります。


<作品情報>
タイトル:「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」

原題:NICKY’S FAMILY
製作:2011年/スロバキア・チェコ・イギリス・イスラエル・カンボジア・アメリカ
監督:マテイ・ミナーチュ
脚本:マテイ・ミナーチュ、パトリック・パス
出演:ニコラス・ウィントン、ベン・アベレス


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