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CULTURE

【連載】映画で巡るイスラエル Vol.11|「迷子の警察音楽隊」

by 福島洋子 |2022年07月06日

映画で巡るイスラエルバナー
YouTube「迷子の警察音楽隊」

心の奥にずっと封印してきた誰にも触れられたくない過去を、たまたま旅先で出会った人に、思わず話をしてしまった。そんな経験がある方もいるのはないでしょうか。今回ご紹介するイスラエル映画「迷子の警備音楽隊」では、旅先でお互いの心がふとしたことから触れ合う瞬間、そんな人生の不思議で素敵な瞬間を上手に描いています。


映画紹介とあらすじ

文化交流のため、イスラエル招かれたエジプトの警察音楽隊。しかし目的地を間違えた彼らは、砂漠の真ん中にある寂れた町で立ち往生してしまいます。そこに一軒だけポツンと建っている小さな食堂の美人女性オーナーの計らいで、音楽隊のメンバーは、一日だけ地元の方々の家に泊めてもらいます。

この映画は、そこで繰り広げられる地元の人々と、音楽隊の温かくユーモアのある交流を描いた人間ヒューマンドラマで、カンヌをはじめ世界各地の映画祭で絶賛されました。


はじめから不思議なインパクトを放っていたこの映画。肩に金のブレードを付けた水色のユニフォームを着て空港に降り立ち、生真面目な表情で並んでいる警察音楽隊の8人の存在がすでに周りから浮いていて、これからコメディーになりそうな予感をたっぷり感じさせてくれます。


映画の見どころ

たった一晩、何もない町で過ごすことになった気難しい雰囲気の団長をはじめとした音楽隊のメンバー。彼らは何組かに分かれ、それぞれの時間を過ごします。女性オーナーと食事に行ったり、スケート場に行ったり、ある団員はその家の奥さんの誕生日の席に居合わせて、居心地の悪さを感じたり・・・。はじめはぎこちなく戸惑っていた団員も、音楽を通して次第に町の人々と打ち解けていきます。独特の空気感とゆったりとしたテンポ感が癒しの雰囲気を醸し出しています。


この映画は、大きな事件が起こるわけでもなく、団員が一晩泊まるだけのシンプルなストーリー。しかし、そこでお互いの孤独感や悲しさを感じ、優しさに触れ、誰にも言えず心の中にずっとしまっておいた古傷をシェアする場面での優しさ、共感の示し方が、絶妙な距離感を保っていて圧巻のシーンでした。



国や政治、言葉、民族、宗教がいくら違っても、人間はどこの国でも同じ。誰もが人生における寂しさ、悲しさを持ち合わせており、人の優しさに変わりがないことを、シンプルにそして強烈に思い出させてくれます。この警察音楽隊は、文化交流イベントのためにイスラエルへ招待されましたが、皮肉なことにその交流イベントよりも、この一晩の出来事の方が余程より良い友好関係を築けたのではないでしょうか。


きっと彼らは再会することもないのだろうけれど、ずっと忘れることなく、ふとした時にこの出来事を思い出し、暖かい気持ちになることでしょう。旅に出て人の優しさに触れたくなる映画です。


<作品情報>
タイトル:「迷子の警察音楽隊

原題:THE BAND'S VISIT
製作:2007年/イスラエル・フランス合作
監督:エラン・コリリン
脚本:エラン・コリリン
出演:サッソン・ガーベイ、ロニ・エルカベッツ


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