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CULTURE

【連載】映画で巡るイスラエル Vol.10|「ハッピーエンドの選び方」

by 福島洋子 |2022年06月22日

映画で巡るイスラエルバナー
イスラエル映画ハッピーエンドの選び方

誰しもがいずれは直面する老後、病気、死などをテーマにした映画はシリアスになりすぎたり、暗くなりすぎたりする傾向があります。しかし今回紹介するイスラエル映画「ハッピーエンドの選び方」は、重いテーマでありながらも、ユーモアや笑いを上手に取り入れて、重さと軽さの間の絶妙なラインをうまく行き来しながら、ストーリーが進みます。


映画紹介とあらすじ

エルサレムの老人ホームに暮らす、発明好きのヨヘスケルは、望まぬ延命治療に苦しむ親友マックスから、安らかに死ねる装置の発明を依頼されます。そして、妻レバ―ナの反対にも関わらず、友人を助けたい一心で、安楽死の装置を発明し、マックスの望みを叶えます。その装置の発明の評判は瞬く間に広がり、彼のもとに依頼が殺到してしまいました。そんな中、妻に認知症の兆候が表れはじめ、ヨヘスケルは妻のレバ―ナの最期に向き合うことになります。果たして彼は愛する妻にどのような選択をするのでしょうか。



映画の見どころ

人の命や老後、延命措置、決まった答えがないからこそ、いろいろ考えさせられる映画です。そして、医学の発達によって、より選択肢が多くなり、その分悩みも多くなったりすることでしょう。自分が同じ立場にいたら、あるいは家族がそのような状況ならどうするか、考えざるを得なくなります。家族が苦しみもがいている姿を見ても、延命措置をしてあげることが愛なのか。それとも本人の意思を尊重し、尊厳死へ近い形に導くことなのが良いのかなど、愛する人の苦しみにどう対応すればいいのか、ということを否応なしに考えさせられます。


シリアスなテーマだからこそ、ユーモアのあるセリフや、視覚的にもクスッと思わず笑ってしまうシーンもたっぷりと取り入れています。特に、やんちゃな老人が子どものように楽しそうに悪ふざけしているシーンは微笑ましく感じました。そしてただ悪さをしているだけではなく、認知症になったレバーナを一生懸命笑わせ、元気づけるために裸になって集まるなど、彼らなりの優しさが溢れるシーンが多くみられました。老後の生活を楽しく、生き生きと過ごすためには、楽しい友達を持つことは欠かせないとあらためて実感しました。



現在、イスラエルの高齢化率(65才以上人口の割合)は12.2%。一方、日本は28%。世界で類のないくらい高齢化が進んでいる日本は、認知症、施設、延命治療など、この映画のような問題にこれから多くの人が直面していくことでしょう。安楽死に関しては、国の法律や人それぞれの倫理観などいろいろ複雑な要素がありますので言及しませんが、もし自分の最期を選べるとしたら、ヨヘスケルが発明したようなスイッチを押すだけで苦しみから解放される装置があるなら、それも悪くはないと考えてしまいます。


一見、映画の内容の割には軽く感じられる邦題ですが、自分で納得し、自分の意志で最期を選んだレバ―ナはハッピーエンドだったのではないかと思わされます。そして、レバ―ナがそれまで大切な人と幸せな人生を送ってきたからこそ、最期に迷うことなくハッピーエンドを選べたのではないでしょうか。


エンディングだけではなく、エンディングに向かうまでの生き方を考える上でも、「ハッピーエンドの選び方」はお勧めの映画です。


<作品情報>
タイトル:「ハッピーエンドの選び方」

原題:The Farewell Party/Mita Tova
製作:2014年/イスラエル・ドイツ合作
監督:シャロン・マイモン、タル・グラニット
脚本:シャロン・マイモン、タル・グラニット
出演:ゼーヴ・リヴァシュ、レヴァーナ・フィンケルシュタイン、アリサ・ローゼン


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