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Orly Maibergの工房で発掘される宝石

by Art Source |2021年10月13日

Orly Maiberg


それは、暑い夏の金曜の昼、ヤッファにあるノガの近く。恋人たちはカフェでコーヒーを楽しみ、子供たちは公園を駆け回る。皆、夏服に身を包み、週末を楽しんでいる。


しかし、Orly Maibergの工房は、そんな外の喧騒からは無縁の静寂さに包まれている。そこは地域から切り離され、高級住宅街化の波もこの工房までは届かない。


白い金属の梁が渡された天井と壁に囲われているにも関わらず、その工房からは、楽しげな無限の拡がりを感じることが出来る。「私は、毎日ここに通っています。それは、研究のためであり、実験のためであり、そして絵を描くためです。絵を描く事は、私にとって終わることのない活動であり、まさに私の情熱そのももといっていいでしょう。」Orlyは、その工房の中でこう語り始めた。


彼女は通常、2年というサイクルで作品を仕上げていく。その中で、新たな表現手段が試みられ、各作品ごとの表現テーマを顕にしていくのだ。そうしてその作品は、展覧会で披露される事となる。「この制作過程はね、常に新たな発見との相関関係にあるのです。」テーマと表現手段、どちらが先なのかという質問に対し、彼女はこう答えてくれた。「最初から何かはっきりとした構想があるわけではないのです。絵を描いていくことででインスピレーションが刺激され、本当に自然に立ち現れてくれるのです。」


Orly Maiberg作品

画家としての長いキャリアを俯瞰して、彼女の様々な作品を見ていくと、そこに、詩的な進化とでも呼べるような変化がある事に気付くだろう。初期の作品では、彼女は実際の写真をベースにした超写実的な表現手法で、名も無き人々の姿を描くことで、人間と自然との関係性を表現しようと試みていた。どの人間の表情も全てぼやけて描かれるが、体ははっきりと描かれており、その事がまさにこれらの作品の焦点を成しているのだ。


それに対して、後期の縦長の作品は、ヨガの姿勢を取る人物のシルエットを、先ずインクと水彩絵具で描き、これをわざわざスキャンして取り込み、インクジェットプリンターを使って紙に印刷している。ここでも過去作品同様に、人物像が未だに(そして唯一の)表現主体ではあるものの、その人物像は具体的な形を失い、より抽象的な手法で描かれている。もともと彼女のオリジナルノートブックに描かれた水彩画は、この新たな手法のランダムな流れを強調するための印刷工程のために保存されたのだ。


最後に、「Pending View / 保留中の風景」と題された最も最近のシリーズ作品では、既存の白いキャンバスの境界を越えた表現を実現させるために、キャンバスを木枠から取り外し、様々な色のインクに浸した上で独自の素材感を作り上げ、あたかも日本画のような印象を生み出している。彼女は、このシリーズを工房の天井から吊り下げる事で、絵画の二次元的な限界を超越させ、空間の中に浮いた作品として、独自の味わいを作り出した。見るものは、作品群に囲まれ、さまざまなアングルから作品を鑑賞することで、作品との交流を果たすことが出来るのだ。


人物像というモチーフは、彼女にとって普遍的なもの。しかしこの作品では、それまでの作品とは異なり、その表現もまた一筋縄ではいかないようだ。ある日、たまたま彼女が作品を乾かすために上から吊るしている時、工房の外で作業をしていたパイプ修理工が工房内に入ってきた。彼は、その作品を数分間見つめた後、こんな感想を漏らしたそうだ。「どの絵も、まるでダイアモンドが放り投げられているみたいだね。」この修理工は、ここに来るまで、彼女の作品を一度も見たことはなかっただろう。しかし、その感想はまさに的を得たものだった。このシリーズの中で人物を見つけることは、ちょっとした甘美な経験に他ならない。人物は、絵画の色と素材の中に巧妙に隠されて配置され、一目見ただけではどこにいるのか全く分からない。しかし偶然にその姿を見つけた時には、まるで貴重な宝石を発掘した時のような高揚感を得ることが出来るのだ。


彼女がもう一つ繰り返し表現するモチーフに、水がある。それは、テーマとして、表現手段として、そして素材として、彼女の作品に常に登場する。「それはね、海、を表現しているの。」と彼女は言う。「海は、いつも私の生活の中にあったわ。私は、常に海に向かい合ってきたんです。そう、ほぼ毎日。どんなことをする時にも。」そして私が、Orlyに短い別れを告げ、彼女の工房を去る時に感じたのは、まさに近くに広がる地中海の、静かで穏やかな流れであった。


テキスト:Inbal Sinai


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