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Art

空間によって活性化され、空間を創造する。スペースアーティストの哲学に迫る

by 長谷川 雅彬 |2022年04月05日

『Solar Mountains & Broken Heart』プロジェクトが行われた建物の外観の写真です。
『Solar Mountains & Broken Heart』

日本でいう美術や芸術は、絵を上手くことや精密な彫刻を作るといった職人的なスキルとして捉えられがちです。しかし、欧米のアートで最も重要視されているのは作品の背後にある思考プロセスです。今日はイスラエル出身のアーティストで、思考プロセス、直感的なジェスチャー、素材、イメージの間の対話を通して作品を作り上げるアーティスト、マヤ・アトゥーンさんに、創造するとは一体どういうことなのか?についてロング・インタビューを敢行したいと思います。


マヤ・アトゥーン写真

マヤ・アトゥーン

1974年、エルサレム生まれ。1997年にBezalel Academy of Arts and Designを卒業し、2006年に修士号を取得。2012年にCreative Encouragement Award、2010年にOscar Handler Award、2009年にYoung Artist Award、2007年にOded Messer Awardを受賞している。Attounは、思考プロセス、直感的なジェスチャー、素材、イメージの間の対話に取り組む、多分野アーティスト。彼女の作品は、現代性、そして神話、物語、科学の交差点について考察していることで知られている。

https://www.mayaattoun.com/


――― まず、最初にマヤさんについてもっと教えてください。アーティストとしてのご自分をどのように定義していますか?


私は彫刻家として活動を始めましたが、長年にわたり、ドローイングが私のアートにおける主要な言語となっています。ドローイングは、私が求める二次元と三次元の関係や、作品そのものと展示される空間との関係を大きく規定します。作品と空間を紡ぐという行為は、私にとって非常に重要なことなのです。なぜなら、私は空間によって活性化され、空間を創造するからです。なので、私は自分自身をスペース・アーティストとみなしています。


私はアーティストとして、与えられた空間と時間の中で存在できるような世界を作ることに興味があります。しかし、安定した、静的な世界ではなく、むしろ残滓によって構築された世界に興味があるのです。鑑賞者は、空白を埋め、点をつなぎ、この体験の意味を作り出すように誘われる存在と言えます。また、私が興味を抱くのは、何かから何かに変わる移行状態にある空間を作り出すことです。ある瞬間、それは物理的、物質的に身体の中に今ここに存在し、次の瞬間にはどこか別の時間や球体にある世界を維持するのです。つまり、私のアートは、空間と、その世界を作動させる鑑賞者をつなぐヒントとして構築されているのです。


マヤのアート作品「Limits of Control」の写真です。手が描かれています。
『Limits of Control』, 2015

――― なるほど、とても哲学的なアプローチですね。作品は絵ですが、空間として動的な存在なのですね。なぜアーティストになったのですか?子供の頃から絵を描いていたのですか?


物心ついたときから絵を描いていました。小学校では、授業中も絵を描いて聞いていました。その後、美術系の高校に進み、Bezalel Academy of Art and Designで芸術の学士号を取得するのが自然な流れでした。しかし、学士号を取得した後、人生において私は大きな危機に陥ったことに気がつきました。もう芸術はやめると宣言し、修復の勉強をすることにしたのです。そのために、テルアビブ大学で美術史の修士号を取得するために勉強しました。すると、勉強が進むにつれ創作意欲が湧いてきたのです。特に思い出すのは、大学でのある授業で、他の学生が作品を見る立場であるのに対し、私は作者の立場であることに気づいたことです。これが、私がプロのアーティストになることを選んだ瞬間です。


『soundless systems』, 2014, from Half Full

――― 一度、作り手から離れていたというのは意外な経歴ですね。これまでのキャリアの中で、重要な節目となったプロジェクトをいくつか教えてください。


Half Full』(2015年、Givon Art Gallery、テルアビブ、キュレーター:Tali Ben Nun)と『Solar Mountains & Broken Hearts』(2021年、Magasin III Jaffa Museum for Contemporary Art、キュレーター:Karmit Galili)は、私にとって重要な展覧会となりました。


▲Photo by Mia Gourvitch


『Half Full』では、様々なメディアを使うことで、ギャラリー空間を家族の二世帯住宅に変身させました。2階建ての空間を様々な部屋に分け、カーテン、彫刻が施されたレコード台、ネオン作品、ドローイング、バスルームを作るドローイングのインスタレーションなど、家庭内の様々な場所を表現する作品を展示しました。私の目的は、見る人の記憶が部屋から部屋へと移動し、私たちの視覚的な記憶や文化的な記憶とリンクするような、一種の場所を作ることでした。


月の満ち欠けをバスケットボールのアニメーションで表現したアート作品の写真です。ソーラーパネルもうかがえま
『Solar Mountains & Broken Heart』
Photo by Noam Preisman


『Solar Mountains & Broken Heart』では、ソーラーパネルでできた山とバスケットボールの形をした天体がある、近未来的な風景に空間を変えました。今回の展示では、ドローイングのみを使用しましたが、ドローイングが彫刻的な要素やアニメーションに変化しています。未来や過去に起こるカタストロフィーのジオラマに空間を変化させたのです。観客は山の中心部まで入り込むことができ、その中で私は目と体のための垂直方向の動きを作り出しました。山の外側は円形の動きで、バスケットボールのアニメーションが月の満ち欠けを移動するように現れては消え、時間の流れが遅くなるような感覚を生み出します。さらに13枚のドローイングがタロットカードの形に棚に並べられています。 これはこの世界を支える神話を生み出すモチーフの繰り返しで構成されているのです。


▲Photo by Noam Preisman


――― 様々な作品を創造されてきたマヤさんのアーティストとしての使命は何でしょうか。


私は、アートが必ずしも使命であるとは思っていません。むしろ疑問が原動力であり、その疑問は時代とともに変化していると思います。


とても哲学的なアプローチを取っているマヤさんの話は、私たちの思い込みを一刀両断するような爽快ささえ感じられます。後半ではそんな彼女の創作活動の秘訣について迫りたいと思います!