Share

Art

西洋×東洋で独自の世界観を表現。その本質をイスラエル人アーティストに問う

by 長谷川 雅彬 |2022年01月07日

昨今のテクノロジーやスタートアップの成長と成功もあって、イスラエルはイノベーティブでクリエイティブな国として世界的に認知されるようになりました。その背景にはユダヤ人の持つ本質的な思考法があり、それはアーティストも同様です。今日は西洋と東洋の文化を繋ぎ独特の世界観を創ることで有名なヌリット・デイヴィッドさんにインタビューを通して、その本質的な思考方法のエッセンスについて皆さんと共有したいと思います。


ヌリット・デイヴィッド

テルアビブ在住のイスラエル人アーティストで、幻想的な幾何学的な作品を創作している。彼女の作品は、オリエンタルアートやポップアートのようなタッチで描かれ、ファンキーで幾何学的な作風は、どこか憎めない魅力がある。現在、テルアビブのGivon Galleryに勤務。イスラエル国内での個展のほか、ブラジル、ドイツ、日本、米国でグループ展を開催。彼女の絵画は、エルサレムのイスラエル博物館からニューヨークのユダヤ博物館まで、世界中のパブリック・コレクションで見ることができる。


―――ヌリットさんについてもっと教えてください。あなたのアートとは何ですか?またアーティストとしてどのように自分を定義しますか?


私は画家です。1978年、ハミドラーシャ美術学校3年の時に、作品を発表し始めました。それ以来、私の作品は、題材や素材が何度も変わりました。私の作品を特徴づけているのは、常にスタイルが変化していることだと思います。プラスチックシートにテキストを描いたグレーのモノクローム作品「The Chinese Works」から、「ABA」(ヘブライ語で父)と題したシリーズの大規模なカラーレリーフ、「家族」をテーマにした長年の油彩による具象絵画、デジタルスケッチに基づく作品、デジタルプリントを3次元の台に乗せた作品、そして現在の建築と衣服を扱った作品まで、私の作品には様々なものがあります。


ヌリット・デイヴィッドの作品

―――常に変化し続けるというのはまるで自然のようですね。作品を創る最大の動機は何ですか?なぜアートを始め、それを仕事に選んだのですか?


単純に考えると、アートというのは、少なくとも精神的に他のことができない人が作るものだと思うんです。ですから、選択という問題ではなく、そこに向かって引き寄せられるようなプロセスなのだと思います。現実や実生活から引き離されるような要素があるのです。それでもおそらく、「生活」に対する才能がない以上、「芸術」に対する才能はあるはずで、それを定義するのは難しいのですが。ただ言えることは、私の周囲を広く見渡しても、芸術ほど価値のあるもの、やる価値のあるもの、消費する価値のあるものは見当たらないということです。もちろん、ここでは「自由」と「想像力」がキーワードです。


ヌリット・デイヴィッドの作品

―――選択ではなく引き寄せられるというのは、私もアーティストなのでとても共感出来ます。作品を創る上でのインスピレーションの源は何ですか?新しいアイディアが生まれる瞬間はありますか?


日本や古代エジプトの文化、ヨーロッパの伝統や西洋のモダニズム、そして絵画、文学、音楽、建築、ファッションなど、あらゆる時代や場所のあらゆるメディアにおける他人の作品。また、過去の自分の作品に立ち戻って修正したり、新たに考えたりすることも、強力なソースとなっています。

読書は、考える気分になるのに適していますが、そこから生まれるアイデアは、通常、読んだ内容と直接結びついているわけではありません。他の芸術家、詩人、作家の思考は、私自身の思考のメカニズムを動かし、アイデアを生み出します。絵を描き始めたころは、何時間も何日もじっとアイデアを待っていたこともあります。今は、長年の制作で頭が鍛えられているのか、アイデアが次々と出てきます。すでに描いたことがあるからこそ、描けるのです。


ヌリット・デイヴィッドの作品

―――常に描いたことがあるから描けるというのは印象的な言葉です。ヌリットさんにとって、文章で表現することと絵画で表現することの違いは何ですか?


当初は、言葉が好きなこともあり、書くほうに気持ちが傾いていました。しかし、結果的に絵を描くことが私の本業となり、絵に対して文学的すぎるアプローチをしていると非難されることもあります。私は、言葉からイメージを、イメージから言葉を生み出すことが好きなのです。長い間、私は絵の中に文字を書いていましたが(中国や日本の伝統的な絵画に遡る習慣)、15年ほど前に短編小説を書き始めてから、この二つを分離しました。それを可能にしたのは、その頃、日本文学(英訳)の熱心な読者になっていたことです。平安時代から第二次世界大戦まで、英語で読めるものはすべて読みました。


ヌリット・デイヴィッドの作品

日本では欧米のアート、デザイン、ファッションに憧れを持つ傾向がありますが、ヌリットさんとの会話を通して日本や東洋の文化の魅力を再発見することが出来ます。また、他の文化を知り理解することで、自身の文化に対する見え方や捉え方も変わり、そこから斬新でイノベーティブなアイディアが生まれてくる予感が持てそうです。後編では、ヌリットさんの持つビジョンやアイディアについて迫りたいと思います。