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人間の要素を排除する型破りの新進気鋭アーティスト、リオール・タミム氏

by 長谷川 雅彬 |2022年02月02日

アーティストになれるのは、生まれながらにして特別な才能を持っていたり、幼少期からアートに携わってきた人たちだけだと多くの人が思いがちですが、本当にそうなのでしょうか?私たちの創造性は生まれ持って才能で、創造性を発揮できるのはたまたま運が良かった人たちだけなのでしょうか?今回は、今イスラエルで最も注目を集めている新進気鋭のアーティストの一人で、その独創的なアプローチで知られるリオール・タミム氏に、彼のユニークな人生経験と創造性の極意について迫っていきたいと思います。


リオール・タミム(Lior Tamim)

リオール・タミム(Lior Tamim)

イスラエル出身のアーティスト。パフォーマンス、サウンド、空間などを中心にプロジェクトベースで作品を発表している。写真家として芸術的な訓練を受けたタミムは、早くから自分の主要な道具として身体を発見、彼の作品では、しばしば異なる人物に変身し、その生き方を完全に取り入れる。近年では、狩人、兵士、遊牧民、ボディビルダーとして生活している。彼のプロジェクトは、多くの場合、異なる専門家のコラボレーションによって生み出れ、過去には、科学者、エンジニア、音響専門家、プログラマー、栄養士、振付師ともプロジェクトをしている。彼の作品は従来の自己構築の限界を超え、芸術と生活の区別を曖昧にすることで知られている。

https://www.lior-tamim.com/


―――まず、リオールさんについて教えてください。アーティストとしてのご自身をどのように捉えていますか?


私はプロジェクトベースのアーティストで、主にサウンド、テクノロジー、パフォーマティブ・インスタレーションを制作しています。様々な素材や環境、制作方法を用いて作品を作り、頻繁に変化させています。そうすることで、「自動操縦」にならずに済むからです。なので、いわゆる典型的なスタジオのルーティンを持っていません。むしろ、自分自身をスタートアップ企業のように考えています。プロジェクトごとに、サウンドエンジニア、コードライター、ダンサーなど、適切なチームを自分の周りに集めています。サウンドとアルゴリズムによって、人間の要素を排除したパフォーマティブな作品を作ることができるのです。


新進気鋭アーティスト、リオール・タミム氏の作品

―――人間の要素を排除するというのは斬新な考え方です。小さい頃からアーティストになりたかったのでしょうか、それとも違う夢を持っていたのでしょうか?


若い頃はプロのバスケットボール選手になりたいと思っていました。アートに囲まれて育ったわけでもなく、アートが何たるかを知っていたわけでもありません。20代前半にアフリカで3年間過ごし、救命救急士になってNGOで働くつもりでしたが、残念ながら応募の締め切りに間に合わず、代わりに美大に進学しました。


新進気鋭アーティスト、リオール・タミム氏の作品

―――救急隊員になるつもりがアーティスト?!とてもユニークな物語ですね。アーティストとしてのキャリアはどのようにスタートしたのですか?


芸術の分野で正式な教育を終えるまでに、12年近くかかりました。その間に、イスラエルからニューヨークへ行き、またテルアビブに戻ってきました。若いアーティストとして、さまざまな場所に滞在したことは、アートの世界に対する確かな視点を身につけるのに役立ったと思います。 2019年の夏、私はBezalel Art AcademyのMFAを取得し、卒業しました。卒論展のとき、Givon Galleryのオーナーでイスラエル美術界の権威であるNoemi Givonが私の作品を見て、ほとんどすぐに一緒に仕事をするようになったんです。


新進気鋭アーティスト、リオール・タミム氏の作品

―――長く時間をかけて卒業したことで個性が研ぎ澄まされたのかもしれませんね。キャリアの中で写真から現代美術への移行は、どのように行われたのでしょうか?


私は、ベツァレル大学、そしてパーソンズ・ニューヨークの写真学科で芸術の道を歩み始めました。そこでは、私は常にアウトサイダーとして、他とは違う仕事をしようと考えていました。長期的なパフォーマンス・プロジェクトを行い、写真をドキュメンテーションとして使用していました。ベツァレルでは、1年間ホームレスになり、ホームレスの人たちと共同生活を送りながら、一緒に作品を作りました。パーソンズでは、ペンシルベニア州の猟師のコミュニティと密接に協力し、オルタナティブ・プロセスの写真やインスタレーションを制作しました。私のプロセスには常に他の要素がありましたが、写真という概念をやめ、メディアとしての身体に焦点を当てたのは、学士号を取得した後でした。


新進気鋭アーティスト、リオール・タミム氏の作品

―――ホームレスや猟師など他のアーティストが体験したことないよう経験を沢山しているんですね。リオールさんのアーティストとしての目的、使命は何ですか?


混乱させること、妨害すること、干渉することです。私の興味は、自分が働く場所と常に関わることにあります。作品がその環境とコミュニケートし、反応できるように、私は外界とのコミュニケーションを必要としているのです。私はしばしば、自分自身を、物事の本来の秩序を破壊しようとするエージェントと見なします。より高い視点から、異なる視点を得ることが重要なのです。それには時間と労力とスキルが必要で、観客に1つのものを提示する方法はたくさんあります。私は断然、乱す方が好きです。それが私の使命のようなものです。他者との摩擦を受け入れる必要があるのです。それは、私の芸術的なプロセスにおいても、展示空間においても、あるいはその両方においてもあり得ることなのです。


新進気鋭アーティスト、リオール・タミム氏の作品

―――乱すことで普段私たちが経験しないような体験を生み出しているのですね。創作におけるインスピレーションはどこから来るのですか?


私が住んでいる場所と、私が属しているコミュニティとの関係から来ています。それは、「RE-ACT」という言葉に集約されます。私は観察し、そして初めて反応するのです。人は私にとって魅力的な存在です。話す人、歩く人、動く人など、ただ見ているだけで何日も経ってしまいます。写真を撮るのが好きだったこともあり、「観る」ことを学びました。見るだけで、どんなことがわかるのか、データを分析することができるのか。その過程で、自分の聴覚を同じレベルにするための努力もしました。音楽会にも足を運ぶので、心の支えになります。観ているものと聴いているものの相関が面白いですね。


リオールさんの生き方は私たちが一般的に考え得る人生とは全く違ったストーリーを持っています。まさに彼の人生そのものが一つのアート作品であり、その体験一つ一つが私たちにインスピレーションを与えてくれます。後編ではそんなリオールさんの創造的な人生と創作活動の秘密について迫っていきたいと思います。