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Art

書道を極めて約30年。イスラエル人アーティスト、ティルザ・パイタン・セラ氏


海外では『Shodo』としても知られる日本の「書道」の技術は、何世代にもわたって受け継がれ、代表的な日本文化の一つとなっています。 日本人にとっては昔から広く実践され、馴染みのある「書道」ですが、その技術は国境を越え、現在では海外でも評価、理解されるようになってきました。


Tirza Paytan Sela(ティルザ・パイタン・セラ 以下、ティルザ氏)は30年前、日本へ旅行した際に書道と出会いました。 現在、ティルザ氏は世界中の展覧会で自身の書道を展示するなど、精力的に活動する書道アーティストです。 今回ISRAERUは、ティルザ氏と日本の伝統美術に精通するまでの道のり、書道家および書道講師としての経験、そして書道のより深い価値について話すことができました。


イスラエル美術学生から書道講師へ

書道を教えるティルザ氏

今から30年程前にティルザ氏が日本で書道に出会うまで、彼女自身、書道についての予備知識は全くありませんでした。特にティルザ氏が育ったイスラエルの西側の世界にとって、書道はほぼ無縁の文化だったそうです。


「私が当時通っていたイスラエルの芸術大学でも誰も書道を教えていませんでしたし、周囲の人々も書道の技術について何も知りませんでした。」


ティルザ氏は、日本の文化とミニマリストの美学に興味を持ち、最初に日本を訪れました。 日本の様々な美術形態を研究している間、彼女は他都は一線を画すような書道の伝統的な団体を紹介されました。


「書道は生き物だということを私自身、身をもって感じました。 書道は水のように、そして生命のように流れます。 それはいつも今ここで起きるもので、 訂正も繰り返しも許されません。書道は私たちの内なる自己の反映であり、まるで気持ちをそのまま冷凍させた絵のようです。 始めた瞬間に完成し、常に新鮮で、本物で、だからこそ常に初心の気持ちで臨むのです。」



ティルザ氏は、書道が単なるスキルや技術以上のものであることを理解し、 書道の技術を学ぶには、日本の言語、文化、歴史についても学ぶ必要があると考えています。


「私にとって、書道は生き方です。 それはアートメディアであるだけでなく、私が行うすべてのことに通ずるライフスタイルです。」


「漢字が誕生してから、世界はそれほど変わっていません。 太陽は今も昇り、沈み、季節は巡り、自然はまだ存在しています。つまり、漢字を主体とした書道の教えの多くは、現在の私たちの生活に通じる部分が多くあるのです。」


書道の教えは文字そのものに反映されています。 ティルザ氏が挙げた例は、「楽しい」の意味を表す「楽」という漢字でした。


ティルザ氏による書「楽」

「この『楽』という漢字では、中央に太陽の文字、そしてその下に木の文字が表示されています。 木の隣には、私が木の実と呼んでいるスポットがあります。 これは、なぜアジアの古代の人々が、楽しいという感情を伴う幸福を、実を結ぶ木を持つ太陽として捉えたのかという疑問を投げかけています。」


「これを解釈する方法はたくさんあります。 一つは、私たちが木のようであるべきだということです。私たちの源にしっかりと根を下ろし、寛大で、親切であること、そして与えることです。 木も太陽につながっています。 日光の下にいることで、あなたは快適さと安らぎを感じることでしょう。」


このような知識を持って、ティルザ氏は、書道をライフスタイルとして捉えています。30年間にも及ぶ書道への献身的な鍛錬の結果、彼女は今、日本文化に造詣の深い熟練した書道家としてだけでなく、教師としても活躍しています。


書道の教えと価値観

日本の伝統文化に恋をしたイスラエル人として、ティルザ氏は現在、彼女の知識を利用して、日本の書道の技術をさまざまな文化圏のより多くの人々に広めています。 ティルザ氏は生徒に教えることで、書道は誰にでも教えることができることを多くの人に知ってもらいたいと考えています。そして、芸術的なスキルよりも知識とライフスタイルに重点を置いています。


ティルザ氏による書道ワークショップ
ティルザ氏による書道ワークショップ

「『書道は日本語を使った芸術ですが、外国人はどのように書道を実践することができますか?』という質問をよく受けます。これに対する私の答えは、私がイスラエル人としての私の人生に書道の教えを取り入れるということです。 書道は、私たちにシンプルさと過去から学ぶことの重要性を教えてくれます。 私の目標は、生徒たちが芸術と自分たちの創造性を組み合わせられるようになることです。」


また、教師としてティルザ氏は一度失われた創造性を再度呼び起こすことの重要性も強調しています。


「誰もが創造的に生まれています。子どもにとって、創造することはとても簡単で、私たちの周りの教師と大人が自分たちに適合するルールを与えた途端に難しくなります。 私たちは大人になるにつれて、心の中の創造性の自然な流れを抑制し、既存の枠組みにとらわれずに考える能力を失いました。」


ティルザ氏は、全ての生徒を書道の達人にすることは期待していません。代わりに、書道を通じて生徒が新しいライフスタイルに触れ、彼らが創造性と出会う後押しをしています。



「『書道を始めるには、日本語を知っているか、専門家である必要がある』という誤解を訂正したいと思います。 ヨガ、太極拳、瞑想と同じように、書道はマインドフルネスを促進する習慣で、 誰でもできます。 私たちは何か結果を出すためにここにいるのではなく、自分自身を見つめるためにここにいるのです。」


書道に魅入られ、30年以上もの間、その道を極め続けてきたティルザ氏ならではの書道に対する価値観を聞くことができた今回のインタビュー。精力的に活動を続けるイスラエル人書道アーティスト、ティルザ・パイタン・セラ氏の今後の活躍に注目です。


公式 ウェブサイト