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CULTURE

国際共同制作「OUTSIDE」を終えて思う、コロナ禍の舞台芸術とは

田中 伸子|2020年10月12日

独占インタビュー|森山未來(俳優、ダンサー)


2013年10月から1年間文化庁の文化交流使としてイスラエル、テルアビブに滞在しダンスに打ち込む日々を過ごしたダンサー、俳優の森山未來さん。イスラエルと日本の国際共同制作フィルムとして公開されたエトガル・ケレット作、監督「OUTSIDE」では留学時から交流を続けてきた振付家・演出家、今作で初の映像作品共同監督を務めたインバル・ピントの呼びかけのもと、パフォーマーとして作品に参加している。コロナ禍の中、リモートで撮影された「OUTSIDE」について、さらに今秋スタートするソロツアー「見えない/見えることについての考察」について話を聞いた。


―――国際共同制作へ至った経緯と撮影現場の様子を教えてもらえますか?


7月22日に映像が公開される2週間ぐらい前だったと思うのですが、日本とイスラエルの合同の企画でリモートで映像作品を作るので参加してもらえないか、というオファーがあったと記憶しています。時差もありますし、とにかく製作の時間が限られていたので、現実的に目の前のことをこなしていくという日々でした。主にテキストの読み方やキャラクターについてエトガルと話し、動きに関しては、すごく抽象的なものなのですが、インバルから彼女のイメージを描いたスケッチを事前に渡されていたので、それをもとにインプロで、ほぼぶっつけ本番で撮影に臨みました。


撮影現場では、オンラインでイスラエルとコミュニケーションを取りながら撮影が進められた(Photo by Noam Levinger)

―――最近、2度目のロックダウンが実施され、イスラエルでのコロナ禍の状況は日本とはまた違ったもののようですが。


まさに「OUTSIDE」の中にも描かれていますが、両国のコロナの状況の違いというのはニュースで見ていましたし、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリのコロナ直後に出された「新型コロナウィルス後の世界」という文章も読んでいたので認識していました。二国間のコラボレーションで、テキストも読み、身体も動かすということで声をかけてもらえたのは嬉しいし、僕のこれまでのインバルと関わってきた活動から、クリエーションのために一からコミュニケーションを取る必要はないという判断か、チームからの信頼はあったと思いますね。それは音楽を担当した阿部海太郎さんもそうだと思います。(インバル・ピントの作品に多く参加している)


―――森山さんが思う「OUTSIDE」のテキストの魅力は?


テキストはかなりシニカルと言うか、今のイスラエルの現状みたいなものをアイロニカルに伝えているのは間違いないのですが、エトガルの原作の素晴らしいところはそこにユーモアが混ざってくる点だと思います。彼の短編集を読んだ際にも感じたことですが、それってイスラエルという場所に生まれた人が背負う宿命でもあるなと思っています。国の状況がかなりハードなので、その中でどういう感性を麻痺させずに生きていくのか。例えば戦争が起こってもテルアビブの日常はそれを感じさせないくらい穏やかな一面があったり、街中を女性がマシンガンを肩に歩いていたり、そういうものと向き合っていく時に彼らは彼らなりのユーモアの使い方というのがあるのだろうなと思います。それはイスラエル人の多くが持っている感覚で、彼らのエネルギーでもあったりするのかな、と。作品で言うと、僕が演じた政府高官らしき男性であろうと日常に生きる女性(ダンサー、モラン・ミラーが演じた)であろうと、ある種同じ世界空間の中に並ばされてしまうというようなことですかね。


テキストの後半で、数ヶ月間家に籠っていた人が外に出た際に物乞いを見た瞬間に身体が反応して素早く無視して通り過ぎる、家の中で世界と関わらないことで培ってきた柔らかい心が外に出た途端に硬く戻っていく、というような記述があって。それをポジティブともネガティブともつかない同列に言葉を並べて表しているところがやっぱり素敵です。本質的なところをついているようでもあり、同時にすごくブラックなユーモアなんです。


「OUTSIDE」より(Photo by Noam Levinger)

―――他にイスラエルについて、実際に生活をした中で感じたこと、日本との違いなどはありますか?


イスラエルは日本と比べると建国された時間で比べると非常に若い国ですよね。極端に言うと宗教的な繋がりを持つ以外は考え方や生活習慣がバラバラな人たちが集まって立ち上がった国。それが今やテクノロジーやダンス、様々な方面で躍進しています。彼らの表現というのは荒っぽいところもあるけれど、とてもエネルギーに満ちている。日本のように何かを変化させるのにとても労力が必要となるのとは全然違う柔軟さも感じます。それを体感する事が出来たのは僕にとってよかったと思っています。


―――今月始まるリーディングパフォーマンス「見えない/見えることについての考察」のツアーについてどのようなものになるのか教えてもらえますか。


2017年初演の作品で、誰もコロナというものを考えていなかった時期に作った作品です。現在の状況から、人数が多いものよりはソロの作品が良いだろうということで、再演することにしました。


「見えない/見ることについての考察」より(©Shintaro SUMITOMO)

作品の中で朗読する作品が2つあって、1つはジョゼ・サラマーゴが書いた「白の闇」という、ある日突然世界中の人間がパンデミックの中、盲目になってしまうというフィクションです。作品では状況が変わる中、それまでなかった新しい秩序、人間関係、社会生活、日常みたいなものが生まれます。


そこで僕は当時、見えているものが全てではない世界観みたいなものをどう共有するか、それが言葉なのか何なのか、そのズレみたいなものを共有することができるのか、と考えながら創作しました。みんながみんな同じ感想を持たなくて良いから、今見えているものとか、今聞こえているものの情報の解釈の仕方をもうちょっと緩やかにしたいなと思い作った作品です。


「見えない/見ることについての考察」より(©Shintaro SUMITOMO)

舞台と観客席との距離をとらなければならないとガイドラインで決められているので、必然的に変えなければいけないところはあるかもしれませんが、基本的には初演版からそれほど変える予定はないです。


「見えない/見ることについての考察」より(©Shintaro SUMITOMO)

―――まさに今、コロナの蔓延により様々な場面で新しいやり方、日常が始まっていますが、今回のイスラエルとの国際共同制作を含め、昨今のオンライン演劇をどう捉えていますか?


コロナだからというよりもその前からYouTubeなどで、映像世界の中での表現というのはどんどん進化していたと思います。それがコロナで映画館、舞台、ライブに行けないとなって、それまでにも起こっていたものが一挙に加速したのではないでしょうか。それによって新しい表現が生まれてくることもあるだろうと思いますが、僕の中ではまだ具体的にそれが何なのかというのは無いですね。それよりも、逆にどんどん浮き彫りになってくる感覚がありました。それは、舞台芸術に関わってきた人間としては、やはり「生」で何かを共有するということはどういうことなのか、ということです。何かしらの表現を劇場という密室、あるいはある場所で共有するという行為が当たり前だったのが、そうでなくなった。だからこそ逆に、その場に集うことの力強さとか意味とかそういうものを考える時間に今はなっています。


<森山 未來(もりやま みらい) プロフィール>
1984年、兵庫県出身。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013 年には文化庁文化交流使として、イスラエルのテルアビブに1年間滞在、インバル・ピント&アヴシャロム・ポラック ダンスカンパニーを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。 ダンス、演劇、映像など、カテゴライズに縛られない表現者として活躍。
近作として、初監督作品ショートフィルム「Delivery Health」(9 月 20 日公開)、武正晴監督作品映画「UNDERDOG」(11 月 27 日公開)などがある。
miraimoriyama.com <http://miraimoriyama.com/>


OUTSIDE


原作/監督:エトガル・ケレット 『OUTSIDE』(和訳版『外』)
振付/監督:インバル・ピント
ナレーター/俳優/ダンサー:森⼭未來
ダンサー:モラン・ミラー
⾳楽:阿部海太郎
翻訳:秋元孝⽂
主催:イスラエル⼤使館
後援:河出書房新社
協⼒:彩の国さいたま芸術劇場
会場協⼒:株式会社ワコールアートセンター
協賛:Factory 54
In collaboration with: Mishkenot Sha’ananim, Dalia Prashker, ZAZ10TS, Herzliya Museum, Israeli Opera


「見えない/見える」ことについての考察


公演:2020年10月14日(水)~11月6日(金)
 神奈川:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール 10月14日(水)~10月18日(日)
 長野:サントミューゼ上田 大スタジオ 10月21日(水)~22日(木)
 愛知:愛知県芸術劇場 小ホール 10月23日(金)~10月25日(日)
 兵庫:あましんアルカイック・オクト 10月27日(火)~10月29日(木)
 大阪:フェニーチェ堺 大スタジオ 10月30日(金)~11月1日(日)
 福岡:スカラエスパシオ 11月3日(火)
 長崎:長崎市チトセピアホール 11月5日(木)~11月6日(金)


演出・振付・出演:森山未來
テキスト:ジョゼ・サラマーゴ「白の闇」(翻訳:雨沢泰、河出書房新社刊)
モーリス・ブランショ「白日の狂気」(翻訳:田中淳一 ほか、朝日出版社刊)
共同振付:大宮大奨
照明:藤本隆行(Kinsei R&D) 
音響:中原楽(ルフトツーク) 
映像:粟津一郎
舞台監督:尾崎聡
キュレーション:長谷川裕子
協力:藤井さゆり
製作:伊藤寿
企画・制作・主催:サンライズプロモーション東京
ウェブサイト:https://mienai-mieru.srptokyo.com/