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CULTURE

【連載】グラフィック・ノベルで綴るイスラエル Vol.09|風にまかせて、どこまで

by バヴア |2022年10月14日

 

グラフィックノベルを制作しているバヴアが、イスラエルのささやかな日常の物語を綴っていく連載「グラフィック・ノベルで綴るイスラエル」。


9回目となる今回は、日本とアメリカにルーツを持ち、後にイスラエルに移住したバヴアの井川さんが、移民として抱く複雑な思いをグラフィック・ノベルで綴ります。


【連載】グラフィック・ノベルで綴るイスラエル Vol.08|ハイファの御鮮度様
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バヴア / 2022年09月16日


グラフィック・ノベルで綴るイスラエル vol.09

解説

バヴアの井川です。今回の物語では、イスラエルとアメリカのそれぞれに住むアジア系の人々とのつながりを想い、なかなか言葉にできない自分の感情を描いてみました。何かをきっかけに親友との距離が変わってしまうことは誰もが経験したことがあることかと思います。それもどちらかが海外や国内など違う場所へ移動してしまった場合、新しい場所へ移動した人は、新たな生活の基盤をつくることに精一杯になってしまう。そうすると、移動前に親しかった人たちとの人間関係が薄れてしまうことは仕方ないのか?このような疑問が、浮かぶようになりました。


私は、日本で生まれアメリカで育ち、大学卒業後、日本で就職し、大学院で学ぶため一旦アメリカに戻ったものの、その後イスラエルへ移住しました。それから5年半の月日が経ち、アメリカの実家を離れてから、十年になります。今回、その「時の流れ」に折り合いをつけようとしています。


まず、イスラエルという場所の特殊な文脈について、お話ししたいと思います。イスラエルでは、ヨーロッパ出身のユダヤ人と中東諸国出身のユダヤ人が人口のほとんどを占めているので、アジア出身の人々はその風貌から目立っています。アジア出身の人々のほとんどが労働を目的とした移民ですが、フィリピン人であれば介護職に、中国人であれば建設業に、タイ人やベトナム人であれば農業に就業している場合が多く、そのせいか、一般のイスラエル人が持つアジア人に対するイメージも限られているのが実情です。


例えば、私は一度、イスラエルで入院をしたことがあります。鼻の手術後に自宅で大量出血になってしまい、慌てて病院へ駆け込みました。その時は、バヴアの戸澤と私の妹も一緒でした。入り口の警備員は強面で、付き添いは親族一人のみと列の前の人たちに話していました。でも、警備員は私の横にいた戸澤を家族に付き添ってきたフィリピン人介護士だと思い込み、妹と共にあっさりと戸澤を通してくれたのです。その後、私は数日入院していましたが、病室で一緒になった若い男性と世間話をする機会がありました。会話から、彼がイスラエル南部の海岸沿いの都市に住んでいることが分かったのですが、すると突然、彼は私に「あなたは港で働いていますか?」と尋ねてきたのです。一瞬、なぜ彼が自分にこのような質問をしてきたのかと戸惑いましたが、英語の教師をしているのだと話しました。多分、彼が暮らしている都市の港では、中国人が建設業(または港湾に関わる別の業種)の現場で働いているのではないかと想像しました。


おそらくこのような事例は、イスラエルに暮らす多くの日本人が経験していることだと思うのですが、日本人やアジア人たちは、イスラエルの人々が持つアジア人に対する「イメージ」の上に置かれてしまうということです。人々に対するある種のイメージはその人々の生き方の可能性を狭めるだけでなく、そのイメージによって、彼らが「よそ者」として扱われることも少なくありません。このようなことはイスラエルだけでなく、日本でも起こりうることで、嘆くことでもない、ある意味自然なことなのだと思います。


このような移民のイメージの問題だけでなく、移民として故郷を離れ何年も暮らしていると、物語で描いたような友人との状況に陥ることがあります。同じ場所、もしくは国にいたら変わることのなかった人間関係でも、大海原で隔てられた状況では以前のような関係を続けることが難しくなってしまう……。この個人的な経験は、移民が避けては通れない道かもしれません。例えば、移民として移住先で居心地が悪い日や、故郷との繋がりが揺らいだと感じた時は、心をしなやかに強くすることが大事なのではないでしょうか。


今回、グラフィックノベル制作を通して悩んでいた気持ちと向き合えたのは貴重な経験でした。これからも移民として様々な問題を通り抜けていくのだと思うのですが、今回、この作品制作を共にしてくれた戸澤とノア・ベレドさんに心から感謝を伝えたいです。そして、ひとりの移民の打ち明け話にここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございます。


【アーティスト情報】
ノア・ペレド
ノア・ペレドはフリーランスのイラストレーター兼コミックアーティストで、ベッツァレール・アート・デザイン・アカデミーでビジュアル・コミュニケーションを学びました。ペレドは、彼女が育ったイスラエル北部の小さな村での経験が触発するイスラエルの自然や都会のエレメントや、日常の中で垣間見れる人々の感情を描こうとするため、インク、ウォーターカラー、色鉛筆、またデジタルフォーマットなど、様々な手法を用いています。現在、ペレドは「ジンジャー」と名付けた犬と一緒に南テルアビブのバルコニー付きの小さなアパートで暮らしています。

ペレドの作品はこちらから→ インスタグラム: @noapeled_art  ウェブサイト: noapeled.co.il