グラフィックノベルを制作しているバヴアが、イスラエルのささやかな日常の物語を綴っていく連載「グラフィック・ノベルで綴るイスラエル」。
二回目となる今回は、インド系ユダヤ人の友人に関する物語をお届けします。
解説
今回の作品は、インド北東部からイスラエルに移住した友人を応援する気持ちを描きました。場所は「ツファット(Tsfat)」というイスラエルでも独特な町です。ユダヤ教の神秘主義「カバラ」が誕生した地として有名で、世界中のユダヤ教徒がここを訪れます。ツファットは丘の斜面に位置するので、街にはたくさんの坂があります。この坂を登ったり降ったりしながら、周りの山々の景色を楽しみ、ユダヤ教の聖典にふれ、人によってはお浄めにツファットの水に浸ったりしています。また素敵なギャラリーの回廊もあり、そこを訪れ、アーティストたちの作品を楽しんだり、買い求めたりする人々もいます。
今回の作品の主人公アヴィエラは、ツファットの観光客や巡礼者向けにAirbnbを営んでいます。バヴアのメンバーは、ツファットを観光した際、彼女のAirbnbに泊まり仲良くなりました。
アヴィエラはミャンマーに近いインドの地域からイスラエルに移住しました。彼女の一族は、「ブネイ・メナシェ」と呼ばれるアジア的な風貌を持つ人々の集団です。彼らは、アッシリア帝国によって古代イスラエルから追放された「失われた十支族」の末裔と言われています。中東から遠く離れたアジアで流浪し、とてつもなく長い歴史の歳月の中、アジアの人々との混血が進み、イスラエル支族の子孫であることさえ忘れられていたそうです。
近現代、国の交流などが始まり、彼らとユダヤ教徒がつながるようになりました。お互いの伝統の親和性に気づいたことをきっかけに、ユダヤ教への関心が高まり、最終的には「ブネイ・メナシェ」のユダヤ教への回宗が始まりました。
このように、彼らが「ブネイ・メナシェ」になるまでには複雑な歴史があります。そして、このような問題は彼らの問題にとどまらず、イスラエル社会では「誰がユダヤ人?」という問いが激しく議論されることがしばしばあるのも事実です。
しかし移民の一人一人を見てみると、アヴィエラのように頑張って生きている人々の姿が映ってきます。アヴィエラは、インドと東南アジアのテイストが融合したような美味しい料理を作り、Airbnbビジネスの傍らでケータリング業を営むようになりました。将来、ツファットでレストランを開きたい彼女を、すごい!と思っています。この神秘的な町を訪れる機会がある方には、ぜひアヴィエラの料理を試していただきたいです。
*バヴアは、日本人とイスラエル人のハーフでイスラエルで英語教師をしている井川アティアス翔と日本人で博士課程後期の社会人学生である戸澤典子が組むグラフィックノベル制作ユニットです。昨年12月に、『だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』を花伝社から出版しました。
【アーティスト情報】
ジョナサン・カッツ
ジョナサン・カッツはシェンカー・カレッジ・エンジニアリング・デザインのビジュアルコミュニケーション学部(イラストレーション)卒業後、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートのビジュアル・コミュニケーションの修士課程を修了しました。2017-2018年まで京都に滞在した経験があります。現在、テルアビブでイラストレーター、ヴィジュアル・ストーリーテラーとして活躍をしています。
彼のウェブサイトはこちら→linktr.ee/mr.katse/