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CULTURE

とあるイスラエル人による、2011年、東北大震災の記録

by ISRAERU 編集部 |2021年03月08日

まもなく東北大震災からまる10年。遠く離れたイスラエルでもニュースで大きく取り上げられ、先日紹介したイスラエイドをはじめ、多くの人が支援に取り組みました。そしてここにも一人、震災のことをニュースで知り、行動を起こしたイスラエル人女性がいます。


日本を愛するカトリン・ナカシ・コズィエルさん。彼女の日本文化への愛は、とある一つの、わたしたちの目に見える、はっきりした結果を残してくれました。彼女はテルアビブ大学で東アジア文化を学び、その中で日本とその文化に対する造詣を深めてきました。


カトリン・ナカシ・コズィエルさん

そして2011年3月。巨大地震が東北を襲い、未曾有の危機が訪れます。その惨状をニュースで目の当たりにした彼女は、何か行動を起こさなければ、という思いに捉われました。すぐに始めたのは、東北の人々を助けるために、募金活動を通じて、食物や避難所を用意することでした。しかしそういった努力にもかかわらず、彼女は、まだ何か自分に出来ることがあるのではないのか、という強い思いに捉われ続けていました。そしてNHKの放送で、行方不明になった犬が救助された話を聞いた途端、この奇跡の物語を書くのは自分を置いて他に無い、と感じたのです。


カトリンさんは、すぐに執筆を始めます。そして、自費であろうとなんだろうと、この本を必ず出版する事を決心するのです。彼女は、様々な編集作業、すなわち、ヘブライ語表現における句読点、レイアウト、グラフィックデザイン、そして印刷過程に至るまで、すべての作業を自らで管理しました。そしてその努力の結果、遂に2018年、その本は出版されることになります。イラストレーターのアサフ・ハソン氏が、そこに素晴らしい挿し絵を提供してくれました。ヘブライ語で出版されたその物語は、日本という文化へのさらに深い理解へと、イスラエルの人々を導いてくれました。この本の中で彼女は、日本特有の言い回しを様々に使い、この国の文化をイスラエルの人々に伝えようと試みたのです。そして、彼女自身のゴールを見失うことなく、翌年には、この本の日本語翻訳を、土田エリヤ氏の協力のもと、日本で出版するまでに漕ぎ着けました。


バンの秘密:津波に乗った犬/カトリン ナカシ・コズィエル/ヘブライ語から翻訳: 土田エリヤ/製図: アサフ・ハソン

テルアビブの日本大使館からは、大使館の図書館蔵書にしたい、という申し出があり、実際、大使館に招かれたんですよ。



この本が日本で出版されるや、彼女は、日本の人々にこの本を読んでもらう為の活動を開始します。


日本の方々は、最初は、私のような外国人がこの本を書いたことに本当に驚いていたと同時に、ちょっと懐疑的でもあったんですよね。でも、この本をお届けするために実際にお会いして、お話するうちに、みなさん、私のことを信頼し、そして感謝していただけるようにまでなってきたんです。特に、気仙沼図書館がこの本を蔵書として決めてくださった事、そして、津波の被災地の亘理でのボランティア活動を通じて、亘理の孤児の子たちがこの本をとても好きになってくれた事は、私にとって本当に大事な事でした。



国際的に評価される作家となる事は、本当に難しい事です。彼女がその地位を得ることができたのは、何よりも、自身の目的意識を見失わず、それを最後までしっかり持ち続けたことにあるでしょう。イスラエルという遠い地から日本を想う人間として、この本の出版が、この災害で被害を受けた人々への救いとなって欲しいと、彼女は強く願い続けたのです。


もう一つのメッセージは、この本の主人公である1匹の犬、バンの物語として語られます。人生の困難に立ち向かうバンのガッツと決断こそ、彼女が世界中の子供達に伝えたかったことだったのです。


「この本が持つメッセージと、それが子供たちに与えるインパクト、それを私は信じています(1匹の犬にだってできることなら、私にだって絶対できる!)。さらに、この本が「読書療法」というカテゴリーに寄与できる本であることもです。私は、読書という行為が人の心を癒す力を信じて疑いません。」