グラフィックノベルを制作しているバヴアが、イスラエルのささやかな日常の物語を綴っていく連載「グラフィック・ノベルで綴るイスラエル」。
三回目となる今回は、ウルパンのクラスメートとの「ר(レッシュ)」の発音に関する物語をお届けします。
解説
今回の作品は、バヴアのメンバーである戸澤のヘブライ語学校ウルパンでの一コマを綴りました。私が通うウルパンはテルアビブ唯一の公立ウルパンのせいか、政府から補助金をもらい授業を受けているユダヤ系移民が多くいます。そして現在、移民の数では、ロシア系、ウクライナ系に次いでアメリカ系、フランス系となっているからでしょうか。ウルパンのブルテンボードにはロシア語の広告がたくさん貼られ、休憩時間にはロシア語を耳にすることが多くあります。
私のクラスにも、ロシア出身、ウクライナ出身、旧ソビエト連邦諸国のアゼルバイジャン、モルドバからの移民がいる一方、南アフリカ、イギリス、トルコ、ナイジェリア、ブラジル、アルゼンチン、アメリカ、フランス、スペインなど世界中の移民がいます。出身地は違っていても、みんなに共通するのは、休憩時間のおしゃべりが好きなこと。休憩時間には、お菓子やお茶、インスタントコーヒーを持ってきてくれる友人にあやかり、みんなで愉しいひと時を過ごしています。一方、クラスメート全員が仕事を持っているので、授業が終わるとみな家路に急ぎます。
授業時間は、笑いに溢れています。このクラスは、アビラン(担任)が何か質問をすると、あちらこちらから手があがるか、誰かが大きな声で答えを発することが多いので、発言しようとする生徒の交通整理にアビランは忙しいです。これは日本とは全く違う雰囲気です。その一因としてアビランの授業の工夫が大きいかもしれません。仕事で疲れている生徒が飽きないよう、演劇を活用したり、動詞の活用を歌で覚えさせたりと様々な手法を用いています。生徒は大人ですが、授業のどこかに遊びがあることで救われている部分も大きいです。
今回描いた喉の奥で発音する「ר」レッシュは、日本人だけでなく、ロシア人も、アメリカ人も、みんなが苦労している発音です。難しい発音だからこそ母語の発音に引きずられがちで、ネイティブスピーカーのアビランに比べると、彼らの発音も癖のある発音です。
それでもロシア系やイギリス系、アメリカ系の友人たちは、「ר」レッシュの発音から一番遠い日本語を母語に持つ私に、アドバイスをしてくれます。彼らのアドバイスを有り難く感じる一方、時折うるさいな・・と思うこともありました。時には「あなたの発音もロシア語調でネイティブスピーカーの発音とも違う」と伝えたこともあります。それでも怯まずに教えようとしてくれるクラスメート。
彼らの教えようとしてくれる熱意がどこからくるのかは分かりませんが、ヘブライ語は、発音が違うと単語の意味が変わってしまうことがあります。例えば、ヘブライ語で「アナシーム」は「人々」という意味ですが、「アナスィーム」は「レイピスト」の意味になってしまうのです。クラスメートのほとんどが仕事を持っており、日々の生活の中で、彼らは発音の違いが意味の違いを生むことを、私より敏感に感じているのかもしれません。
今回イラストをお願いしたアーティストのアミット・リモンは、クラスの中で耳にするさまざまな発音の「ר」レッシュをカラフルなイラストで効果的に見せてくれています。読者のみなさまには、「ר」レッシュの発音の学びを通して、イスラエルの多様な移民が学ぶウルパンの雰囲気を味わって頂けたらと願っています。
最後に、ウルパンのクラスメートや担任アビランはこの作品制作に快く協力してくれました。
彼らに心から感謝を伝えたいです。
!תודה רבה לכֶם
*バヴアは、日本人とイスラエル人のハーフでイスラエルで英語教師をしている井川アティアス翔と日本人で博士課程後期の社会人学生である戸澤典子が組むグラフィックノベル制作ユニットです。昨年12月に、『だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』を花伝社から出版しました。
【アーティスト情報】
アミット・リモン
アミット・リモンはイラストレーター兼グラフィックデザイナーで、イスラエルのシェンカー・カレッジ・エンジニア・デザイン・アート・カレッジでアートを学んだ。現在、テルアビブで広告関係のデザインの仕事をしている。
アミットの作品はこちらのリンクから→https://amitrimon.com/
https://www.instagram.com/amit_rimon/