一般的に「ワインの専門家」といえば、どんな人物像が思い浮かぶのでしょうか?葉巻を片手に赤ワインを味わう老紳士?
しかし現実のワイン業界をよく見てみると、そうした人物ばかりではありません。アルコールとワインの世界は依然として男性主体の傾向にありますが、近年はスペシャリストとしての役割を担う女性の存在感が増しており、業界における女性の活躍の場だけでなく、業界そのものも再構築されています。
ワインを飲み、ワインについて学び、ワインを飲みながら人々と親交を深める、ワインに深く情熱を注ぐ女性である私にとって、ワインは自分を魅了し、驚かせ続けてくれる存在です。もちろんその陰には、年間を通してワイン造りに貢献している女性たちがいるわけですが、今回は3月8日の「国際女性デー」を記念し、イスラエルのワイン産業における注目すべき女性たちにスポットライトを当てたいと思います。
連載第1回目となる本記事では、ワイン、料理、蒸留酒業界の女性の仕事を拡大し、専門的なツールを提供し、ワインの世界における女性の存在感を高めることを目的として設立された「ハシズラ(HaShizra、ヘブライ語で「茎」の意)」のイベントで出会った、同団体代表兼創設者のタル・タウバー氏にお話を伺いました。
タル・タウバー氏インタビュー
ーーーハシズラを設立した経緯ときっかけを教えてください。
私はハシズラ代表兼創設者であり、2人の娘の母親でもあります。同団体の設立前は、ワイン&スピリッツ・エデュケーション・トラスト(Wine & Spirit Education Trust school、WSET)の学校を経営し、教鞭を執っていました。設立のきっかけは、業界における女性の認知度の低さを目の当たりにして、女性だけのプロフェッショナル・コミュニティを作ろうと思ったことです。学校では、生徒数は明確に男女同数でしたが、業界自体はといえば「プロフェッショナル」として認知されている女性はわずか数人です。さらに驚いたのは、そのプロフェッショナルである女性たちがお互いを知らなかったことでした。
こうした状況から、私は2つの目標を持つようになりました。1つ目は、女性たちがワインを味わい、ワインについて語り合える快適な空間と、女性が自信を持って一人でイベントに参加できる場所を提供すること。もうひとつは、この分野でのキャリアのためのプラットフォームを育てること。以前、公共団体で働いていた経験から、この分野の求職者にキャリアの機会を提供するソースが不足していることを知ったのです。
ーーー成功をおさめたエピソードや実績を教えてください。
ワインの世界におけるキャリアのあらゆる段階にある女性に、指導とサポートを提供する “メンター ” プログラムは、特に成功した試みです。プロとしてのキャリアをスタートさせたばかりの女性は、何か道標となるものや、カウンセリングを必要としているかもしれません。そのため当コミュニティは、新規参入者に情報を提供し、知識と経験を共有することで安全なソフトランディングのための場所を構築しています。
私は、このプロセスにおいて形成されるつながりをとても誇りに思っています。成功した女性がどれだけ多く存在し、自分たちがどれだけお互いのために協力できるかをはっきりと実感させてくれるからです。プログラムは1回1時間のセッションで構成されており、ブドウの栽培など様々なトピックについてディスカッションすることができます。
ーーーこのメンター・プログラムによる「サクセス・ストーリー」の例を挙げていただけますか?
自分のスタジオを持って長年プライベートシェフとして活躍するこの相談者は、郷土料理とイスラエル料理にとても重点を置いていましたが、ワインメニューだけはどう追加していいか分かりませんでした。しかし、彼女は当コミュニティでメンターと出会い、”課題 “を与えられた後、わずか2ヶ月でワインメニューを完成させ、ワインがまったくない店から個性的で完成度の高いワインメニューを紹介する店へと変貌を遂げたのです。成功は支援そのものだけでなく、業界全体への貢献でもあります。メンターが与えてくれる情報はユニークかつ具体的で、ここハシズラでしか得られないものだと感じています。
ーーー「女性の力」というコンセプトをどのように取り入れていますか?
あえて「女性の力」という言葉は使わず、実際の活動における包括性とプロフェッショナリズムを大切にし、同時にエンターテインメント性と心地よさも追求しています。以前は「成功した」個人にスポットを当てることが重要だと考えていました。しかし実際には、”女性的な側面” とは私たちが行う経営上の選択に、価値観と実行力として自然と反映されるものなのです。
ーーー同じ地域にあるワイナリーの女性同士が知り合いでなかったことに驚いたと話していましたね。最近、フラムワイナリーとツォラワイナリーのオーナーが一緒にボルドーのブドウ畑を取得したという記事を読みましたが、それまでその2人の女性がお互いを知らなかったと知り、とても驚きました。
2人は予備軍で出会いましたので、兵役のおかげですね。男性には兵役のようなネットワークが自然に存在しますが、女性にはそれがありません。だからこそ、ハシズラは女性にとって重要な役割を担っているのです。
ーーー将来の計画や目標はありますか?
たくさんの計画がありますし、常に変化もしています。例えば現在、ハシズラは料理にも関わっていますし、地域の人たちと一緒に情報を発信したり、旅行したり、ワークショップや代表団を作ったりと様々なアクティビティを計画しています。まだ始まったばかりですが、これからどんどんそうした活動を公開していく予定です。
もちろん、最も重要なのは地域の女性の雇用を支援することであり、ソーシャル・ビジネスはこうして特別なものとして投影されます。このような考え方は、海外ではすでに存在していることを知っていましたが、いずれも非営利団体によるものです。つまり専門性が低いため、私たちにはあまり向いていないモデルだと思い、どのような組織にしたいかと考えました。
ーーー「私たち」とは?
イスラエルの女性のことです。NPOにはどこか、「困窮」だとか「誰かに助けを求めるもの」というイメージがつきまといます。しかし私は、自分たちのプロフェッショナリズムを強化し、財政的なモデルで女性を促進することでバランスを保ち、そうしたイメージを払拭したかったのです。助けを施すのではなく、共に何かを成し遂げたいと考えています。ですから、お金を寄付するのではなく、情報や専門的な価値を提供し続けているのです。
※ 本記事は、在イスラエル日本大使館経済顧問であるSapir Ben-Noun氏が執筆した英語記事を翻訳したものです。