AIは、未来を「予測する」だけでなく、自然界を支配する「法則」そのものを見つけられるのでしょうか。イスラエルの研究チームが開発したAIシステム「MEDA」が、科学研究におけるAIの新たな可能性を示しています。

「予測するAI」から「理解するAI」へ
近年、人工知能(AI)は目覚ましい進化を遂げています。株価の動きからタンパク質の構造まで、膨大なデータを分析し、複雑な現象を高い精度で予測できるようになりました。
しかし科学の世界では、「予測できること」と「理解すること」は同じではありません。
たとえば、リンゴが木から落ちる様子をAIに学習させれば、地面に到達するまでの時間や速度を高い精度で予測することはできます。しかし、そこから「なぜリンゴは落ちるのか」を考え、ニュートンの万有引力の法則のような普遍的な法則を導き出すことは、これまでのAIが苦手としてきた領域でした。
そんな壁を越えようとしているのが、イスラエルのハイファ大学とワイツマン科学研究所の研究者らが開発した「MEDA」です。

科学論文を読み、「数式」に変える
MEDAは、テディ・ラゼブニク博士を中心に、デビッド・クロングアウズ、アラド・ズルティ、エラン・セガル教授らによって開発されました。
特徴的なのは、大規模言語モデル(LLM)と数学的な探索技術を組み合わせ、複数のAIエージェントが連携して科学的なモデルを構築していく点です。
MEDAは科学論文などから背景知識を集め、そこに書かれている情報から重要な変数や条件を抽出。それらをもとに、現象の仕組みを説明する「常微分方程式(ODE)」の候補をつくり、評価していきます。つまり、人間が言葉で蓄積してきた科学知識を、検証可能な数学的モデルへと変換しようとしているのです。
一般的なAIには、答えを出せても「なぜその答えになったのか」が見えにくい、いわゆる「ブラックボックス」の問題があります。一方、MEDAが目指すのは、科学者が中身を検証し、必要なら修正し、実験によって確かめられる「ホワイトボックス」型のアプローチです。

12種類の複雑な現象で能力を検証
研究チームはMEDAを、複雑さの異なる12種類の動的システムで検証しました。
対象となったのは、捕食者と被食者の関係、人口増加、感染症の拡大、神経活動、フェイクニュースの拡散、慢性創傷の進行など。生物学だけでなく、医療や社会現象まで幅広いテーマが含まれています。MEDAはこれらの課題で、モデル化に必要となる状態変数を特定する能力を示しました。
さらに興味深いのは、「データが多ければ、より正しい科学モデルができる」とは限らなかったことです。
博士号を持つ5人の数学者による評価では、科学的な背景知識や制約を組み込んだMEDAの完全版に比べ、データだけに依存したモデルでは、生物学的な妥当性の評価が平均約0.97から約0.60へ低下しました。
慢性創傷のモデルでは、データを追加することで観測値にはきれいに一致したものの、導き出された方程式が実際の医学的メカニズムを正しく表していないケースも確認されたといいます。研究論文でも、数値へのフィッティングだけでは、データには合っていても生物学的には誤った方程式が残り得ることが示されています。

AIは科学者に代わるのか?
MEDAが目指しているのは、AIがニュートンやアインシュタインに代わって科学を行う未来ではありません。
研究者たちが期待するのは、膨大な科学知識の中から可能性の高い仮説を絞り込み、「次に何を検証すべきか」を科学者がより早く見つけられるようにすることです。候補となるモデルをAIが提示できれば、より焦点を絞った実験を設計でき、研究に必要な時間やコストの削減にもつながる可能性があります。
AIが得意としてきた「予測」から、現象の背後にある「なぜ」を探る段階へ。
ニュートンが自然現象を数式によって説明したように、AIが人間とともに新しい法則を探す――。イスラエル発のMEDAは、そんな科学研究の新しい姿を垣間見せています。
*本記事はイスラエルメディアynetの報道をもとに構成しています。


