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BUSINESS

新型コロナウイルスが与えた食の未来への影響

フードテック特集 Vol.3

by The ACT Hub |2021年05月20日

パンデミックによる食品業界への世界的な影響について

新型コロナウイルスは、日々の習慣や食生活、食品に関する知識など私たちの今までの常識を全て覆しました。私たちが健康でかつ安全でいるために個人的なレベルで劇的な変化を求められ、このパンデミックにより多くのビジネスが影響を受け、特に食品業界は自粛やロックダウンの期間に生き残るために大幅な施策転換を強いられました。昨年から続く状況が、どのように食品の未来に影響を与えたのか見ていきましょう。


このパンデミックにより急激に発展した主なエリアは5つあり、Eコマース、食品宅配・出前サービス、ゴーストキッチン(ゴーストレストラン)、キッチン&レストラン技術、代替肉やインダストリー4.0が挙げられます。


食品宅配・デリバリー / Eコマース

今回のパンデミックは、食品宅配・出前サービスとeコマースに大きな成長をもたらしました。2020年6月の時点で、アメリカ合衆国内のオンラインによる食料品の売り上げは、72億ドル(約7,200億円)の規模にまで達したのです。パンデミックの前でも、食品宅配・出前サービス業態は4年間で23%の成長があったのですが、2020年6月に発表されたUber Eatsの152%もの成長には及ぶべくもありません。出前サービスの分野は、将来的にも大きなビジネスチャンスを生む場となるでしょうし、様々な企業がその利益を求め、パンデミックが去った後の状況も含めて、参入をしてくるに違いありません。


食事デリバリーをする男性

新型コロナの影響で外出禁止を人々が強いられたことを背景に、北米で出前サービスを営むトップ4社の2020年第2四半期、第3四半期を通じた累積の収入増は、30億ドル(約3,000億円)に達しました。


ロックダウンの中、家の中でしか食事ができない状況では、消費者は完全に出前サービスに頼らざるを得なかったのです。また今回のパンデミックで、人と接触をしないで届ける出前サービスや、「カーブサイドピックアップ」、いわゆる事前注文して品物だけお店に取りに行くサービス形態、そしてそれを自分ではなく、他の人に取りに行ってもらうサービスなど、様々な方法が取られるようになりました。こういった状況の中で、自分自身でちゃんと買い物や出前のオーダーができるよう、時間のロスを無くし、消費者の利便性を高めるためにも、今後も様々な技術開発が求められていくのではないでしょうか。


キャッシャーの写真

セルフレジのシステムは、スーパーの決済方法としては、本当に当たり前の決済システムなってきましたね。しかし、今後はよりシームレスな支払い方法や買い物のシステムで、消費者が買い物で時間を無駄にしていると思わせないような、よりスマートなシステムが登場してくるだろうと思います。スーパーの品揃えを見直すなどの単純な改革であっても、それによって買い物時間が半分に減るだろうという予測さえあるくらいです。こういった変化は、パンデミックが去った後、例えば大手のスーパーがオンラインのスーパーを買収するなど、特にeコマースの分野で顕著に現れてくるだろうと考えています。オランダの大手スーパーであるアホールド・デレーズは、20年の歴史を持つオンライン専業食品スーパー、フレッシュダイレクト発行株の80%の取得に合意しました。


ゴーストキッチン

ゴーストキッチンと呼ばれるデリバリー専門のレストランの市場規模は、2030年には1兆ドル(約100兆円)に達すると言われています。このようなリアルな店舗を持たず、従って人件費もかからないビジネス業態は、UberやDoordashといったデリバリー専門業社と組み合わさることで、ますます繁栄していくことでしょう。例えば、クラウドキッチン社は、何億ドルもの投資ファンドを集めることに成功し、その厨房の建設用地取得に1.3億ドル(約130億円)以上の資金を注ぎ込んでいます。オーダーマーク社は、オンライン・レストランの経営と、そのための仮想ブランドを管理するソフトウェアを供給する会社ですが、最近、1.2億ドル(約120億円)の資金調達に成功しました。


成功の鍵はスピードにあるようです。こういったゴーストキッチンには、その商品パッケージングやデリバリー手法、そして料理そのものにおいても、ミシュランの星を持つようなシェフは全く必要ありません。


IoTを説明する写真

台所とレストラン技術

もう一つの成長エリアは、台所で使われる様々なガジェット、そしてそれがもたらす革新技術でしょう。パンデミック後に現れるであろう一つの例が、台所裏で行われる作業の自動化を目指した、台所貯蔵品のデジタルリスト化ではないでしょうか。スクエア社やエクストラシェフ社といった、今まで台所の表で行われる作業とその作業道具に特化してきた企業も、レストラン技術を提供する他の会社と手を組むことで、台所の作業効率化を目指した商品開発に目を向けるのではないかと思われます。


植物性代替肉と培養肉

近年、そのサステナブルで環境志向の特徴から、代替タンパクの分野が急速に浮上してきています。今日、このパンデミックが明確に示したのは、私たちの食物サプライチェーンは、病気やバクテリアによって簡単に脅かされてしまうことから、今後、何らかの代替が絶対に必要であるということです。普通の肉と味も形も食感も変わらない、革新的な代替肉の技術が、ビヨンドバーガー社やインポシブルフード社などの努力により、まさにこのパンデミックを推進力にして生まれてきているのです。


植物由来の代替肉市場は、その需要の高まりから急速な拡大を見せており、米国最大手の食肉会社でさえ、その市場への参入を果たしています。タイソンフード社、JBS、カーギル社、ナショナルビーフ社など、米国内の牛肉畜産業の2/3を占める会社でも、パンデミックの進行につれ、2020年度全体で、200億ドル(約2兆円)規模の損失が見込まれてしまっているのが現状だからでしょう。


この先30年間で70%の成長が予想される代替タンパク質への需要を取り込んでいくためにも、こういった伝統的な食肉業社も、未来のタンパク質ソリューションに巨額の資金を注ぎ込んでいるのです。タイソン社ではこの度、タイソンベンチャーと名付けた新たな子会社を設立、ここから、ビヨンドバーガー社やメンフィスミート社などといった代替肉製造業社に投資を行っています。カーギル社では、KFC中国と組んで、代替肉フライドチキンの販売を始めました。


健康志向、そして安全志向の高まりから、植物由来の代替肉の改良も進んでおり、より美味しく、栄養豊富な代替肉が生まれてきており、パンデミック後の代替タンパク質分野のさらなる成長が期待されます。そして更に培養肉の分野では、生きた動物から幹細胞を取り出し、それを実験室内で培養する研究も行われており、代替肉分野は様々な未来を持ち始めているのです。


すでに植物性代替肉のブランドが確立され始めている今、次代の消費者の選択肢は、こういった培養肉消費に向かうことでしょう。動物たちを殺さない、という倫理的、そしてサステナブルな価値観から、家畜の屠殺というプロセスを含まない培養肉への期待が高まってきており、様々なイスラエルの新興企業も、この分野の先端を走っています。


食品インダストリー 4.0

食品インダストリー 4.0とは、食品価値連鎖全体の数量化のことです。人工知能(A.I.)やスマートデータ、仮想通貨、ロボット化、そして精密農業といった新たな技術を統合し、より資源を大事にした、そしてコスト的にも優れた食品生産過程を生み出そうという試みです。


インダストリー 4.0は、以下のような事象を伴います。

  • サプライチェーンのすべての過程で、リアルタイムにデータを抽出することを可能にします。
  • オートメーションにより、生産計画、在庫管理、保守計画、受注処理、装置作動、機械学習、ロボット化を促進します。
  • ビジネス決定の判断はより複雑になり、経営者とその従業員には、より高いレベルのスキルセットが要求されるようになります。

まとめると、今回のパンデミックは、自給自足を目指す健康志向の高い消費者を生み出し、彼らの嗜好に適合するための新たな需要を生み出したと言えるでしょう。食品の未来には、時代へのより機敏な対応力と、消費者の満足度を高めるための時間の効率化と利便性の向上が求められているのです。食品、という分野に限って話をするならば、今回のパンデミックは、自身の健康、社会的倫理、そして環境のサスティナビリティという面において、消費者により大きな力を与えたと言えるのではないでしょうか。


スーパーミート社の工場内でパッキングされた鶏肉。提供元: ガーディアン紙
: スーパーミート社の工場内でパッキングされた鶏肉。提供元: ガーディアン紙

イスラエルスタートアップ企業へのスポットライト

イスラエルの食品産業では、植物由来の代替肉そして培養肉の両方の分野で、特にこのパンデミックの中、すでに大きな成果を上げています。2018年、Racheli Wizmanは、セイバーイート社という、3D技術の利用で植物性代替肉を生産する会社を立ち上げました。そして2020年の終わり、この会社は植物性代替肉製造会社として初めて、テルアビブ株式市場に上場を果たしたのです。その際の株式総額は、1,300万ドル(約13億円)にも上りました。セイバーイート社では、消費者の様々な嗜好に対応しながらも、自社の商品ラインナップを最小限に留めることでムダをなくし、普通の家庭での常備食品としての地位を築き上げようとしているのです。


アレフファーム社は、2017年に創業された培養肉の会社であり、まさにこの業界の歴史を、今この時に形作っている存在とも言えるでしょう。イスラエルグッドフード協会とのパートナーシップを組むことで、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を、彼らの培養肉を食した初めての国家元首とすることに成功させることで、イスラエルを、世界の代替肉分野のリーダーとしてイメージ付けたのです。このアレフファーム以外にも、ミートテック社、フューチャーミートテクノロジー社、リデファインミート社、スーパーミート社など、未来の市場に向けて、様々な企業がイスラエル国内で凌ぎを削っているのです。


培養肉の未来は、まさに私たちの目の前で起こっている現実です。それは最先端の技術に支えられた新たな産業であり、イスラエル政府はこの新興市場の重要性を深く理解しているのです。去年、シンガポールにおける主要食品認可団体であるシンガポール・フード・エージェンシー (SFA)は、培養肉のシンガポール国内での販売を許可しました。


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