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As Promised Magazine

人間の本質に迫るアパレル

KES NYCからのメッセージ ー 無重力に逆らう重力の受け入れ方

by As Promised Magazine |2021年01月20日


イスラエル、ガリラヤ南部にあるキブツ”アフィキム”で育ったリア・ケスにとって、衣服に対する考え方はいつの時代も変わらないと考えています。彼女がその青春時代に裁縫を学んだのは、”matpera”と呼ばれるキブツの中にある裁縫作業所で、全ての年代にわたる1400人ものキブツの住人のために、完全にオートクチュールで衣服を作る女性の下でした。「そこでは、日常の作業着から、休日用の服、そしてハレの日のための服まで、全ての服は、ちゃんと一人ひとりのサイズが一から採寸されるの。仮設のアトリエには、テキスタイル&パターンで有名なドイツのファッション誌である”ブルダ”がそこら中に散らばっていたわ。キブツの住人たちは、その中から自分の気に入ったものを選んで、完全に自分の為だけの服を作ってもらっていたのよ。」


サステナブルなラグジュアリー婦人服ブランドを表明するKES NYCの創業者である彼女は、このキブツの生活で得たインスピレーションは、もしかすると今のファッション業界の常識とは正反対の考え方かもしれない、と話します。しかし実際には、ファストファッションにあるような「単純な均一化」というプロセスからでさえ、ここで得たインスピレーションにつながっていくのです。「生地の工場がすぐ近くにあるっていう事は、そのコミュニティにとって大きな力になる事なの。物質主義とか、ファストファッションなどという考え方からちょっとだけ身を置いて考えれば、やはり品質こそ最も大切な要素だっていう事は自明の理だと思うわ。」ケスは、カリフォルニア、シアトル、そしてブルックリンに自分のブランド専用の自然染料の職人を置いています。


KES NYCの全ての服に一貫する思想は、最新のファッションやトレンドに添って練りこまれたシンプルなデザインを踏襲しながらも、キブツで学んだ美点を生かすかのように、最終的な段階で、各個人へのカスタマイズができる余地を残したものになっています。「キブツの衣服は確かにとても質素なものだったけれど、それでも、毎日の作業着にさえ、着る人一人ひとりの個性が反映されていたのよ。」



キブツでの物事の進め方として、全てのメンバーが何らかの役割と仕事を分担していく、という考え方があります。実際、ケスの母親は美容師であり、自然の原料から作るクリームと軟膏で、キブツメンバーのお肌をケアする役割を担っていました。ケスが、女性としての自覚を学んだのも、この母親からでした。やや皮肉めいたことに、KES NYCの魅力は、女性にとって衣服は第二の肌である、という考え方から生まれています。ディナーパーティーのドレスの下、仕事用のブレザーの下、そして夜、家で寛ぐときの肌の上に重ねられるウェーブがかったシルクのスリップドレスは、着る者にとって、自身のファッションのために作られた一種のキャンバスとなるのです。そのままの意味でも、また物の喩えとしても、着る人自身の役割を衣服が作り上げられる余地を残していく事、それが彼女の確固たる信念です。ケスのコレクションは、着る者の個性自体を主役にさせ、その場の注目を集めさせてくれるのです。


ややカルトっぽい話でもありますが、リア・ケスは、マンハッタンのアッパーウエストサイドに、自分自身のキブツを作り上げてしまいました。そこが18年間にわたって彼女の自宅となっています。「無論私の役割は、この私のコミュニティに住む人たちに着せる服を作ること。17歳から80歳まで、様々な年齢の様々な人たち(もちろん、女性だけではないわ)の服を作っていく事は、本当にスリリングな経験ね。」


彼女のブランドは、年齢や体型を問いません。生地感そのものを重視することで知られる彼女の作品は、着る者の気分や個性に合わせ、周囲から目立たせることも、逆に周囲に溶け込ませてしまうことも可能です。このように様々なお客様を持つ彼女にとって、単なるブランドとしての評価は、彼女の目指すことではありません。着る者一人ひとりの個性を衣服に反映させていくことで、それは彼女が作る衣服そのものへの評価となってほしいと考えています。「KES NYCは、一生に一度きりの舞台で着るような特別な衣装ではないの。普段の一日の生活の中でも、そして長い人生の中でも、みんな、時と場所によって、様々に変わっていくものでしょ?私は、そのそれぞれの『異なる自分』全てに似合う服を目指しているの。」


生涯を通じて、リア・ケスは常に女性のことを考え、理解しようと努めてきました。「これは私が人生をかけて行うリサーチになるわね。このリサーチを通じて、女性が今必要としているものは何なのか、そして私がそれに対してできる事は何なのかを自身に問いかけていくことになるわ。私のお客様たちからの意見やお付き合いから学んだことなんだけど、私の作る洋服のパワーって、何を着ても決して気が散らされることがない、ってことみたいね。だからこそ、私の服は女性たちにパワーを与え、エネルギーを充填してくれるのよ。」


彼女の服のちょっとした特性は、着る者に神秘的な力を与えてくれる事のようです。「私にとって、セクシーであるという事は、あなたが去った後に、残された人々の間に残る、あなたが残したあなたの不在、という概念なの。残された人々の想像の中に残るあなたは、実際のあなたよりも、もっともっとセクシーな存在になっているのよ。」



KES NYC

https://kesnyc.com/