日本人の平均寿命は世界でも常にトップを争うほどですが、実は、イスラエル人の平均寿命もかなり長いのを皆さんはご存知ですか?
参考までに2023年のOECD比較では、1位 スイス(84.3歳)2位日本(84.1歳)、3位スペイン(84.0歳)、4位イスラエル(83.8歳)というデータもあります。子だくさんで若い国というイメージの強いイスラエルですが、実は世界有数の長寿国でもあるのです。

高齢化とは?
今回Israeruでは、そんな長寿国イスラエルで、高齢者住宅コミュニティを推進するNPO、ケデム(Kedem)のCEOナヒ・カッツさんにお話を伺う機会を頂きました。
実は私はインタビュー前、「高齢者住宅コミュニティ」と聞いて、まずは高齢者社会にある問題から話に入っていくのが自然だろうと安易に考えていました。
介護、人手不足、医療費、孤独――。きっとイスラエルでも高齢化社会に関する話題はそうした課題が中心で、今回の取材も問題と解決策について聞くことになるのだろうと思っていたのです。
しかし、ナヒさんのお話は私の予想とは少し違っていました。
「高齢者というと社会や国にとって”負担”であるとか”問題”であると思われがちです。でも実際はそれだけではない。仕事をリタイアし、子育ても終わり、人生の中で一番自由を謳歌できる、人生の最高の時でもあるのです」。
そしてナヒさんはこうも言います。
「老いや加齢というと、多くの人はその現実を直視することを避ける傾向にあります。けれど本来はその現実をしっかりと見据えて、人生の最も豊かな時間を作り出す準備をするべきなのです」
目を開かされた思いでした。ここから私は、高齢者住宅に限った話でなく、高齢者社会そのものをどう設計するかについて、ナヒさんとケデムが描く思想と実践についての非常に興味深いお話を聞くことになったのです。

高齢社会の縦割りを超える
「人生の最も自由で豊かな時期を過ごせるのが高齢期」と話すナヒさんですが、現実には高齢者を取り巻く社会には課題もあります。
「日本では高齢者に関する問題は行政も横の連携が非常に取れていると感じました。イスラエルではそれがまだまだ整えられていない。国民健康保険や自治体、病院や高齢者住宅など、それぞれがバラバラに動いているのです」。

ケデムでは高齢者社会の仕組みについて学ぶために、外国に研修旅行にも行くそうなのですが、2025年の旅行先が日本だったそうです。その時の体験を踏まえて、日本からは学ぶことがたくさんあり、その中の一つが行政の連携だったとおっしゃるナヒさん。
実はナヒさんは、前職では政府の科学技術分野で政策立案や助言に携わった経歴を持ち、現在も政府機関や国会との幅広いネットワークを持っています。 そのため高齢社会についても、施設運営だけでなく、行政、医療、福祉、産業界を含む幅広い視線で課題に取り組んでいるのです。
そして、人材不足。「高齢者が増えていく現実にあって介護のすべてを人の手に頼ること、これには限界があるし、採算が取れません」。

ケデムのネットワーク
このように、ナヒさんは高齢者が人生の豊かな時間を過ごせる社会を実現するためには、行政、医療、福祉、住宅、そしてテクノロジーが連携する新しい仕組みが必要だと考えています。そして、その仕組みづくりの中心にあるのがケデムなのです。
ケデムは高齢者住宅コミュニティ推進協会であり、その役割は施設の質とサービスを向上させ、高齢者により良い住宅環境、コミュニティを提供することですが、ナヒさんの目指すところはそれだけにとどまりません。ナヒさんが目指しているのは、高齢者を取り巻く医療、福祉、行政、そしてテクノロジーをつなぎ、より良い高齢者社会の仕組みを作ることです。
その意味でケデムは、高齢者住宅のネットワークであると同時に、高齢者社会の未来を実験し、形にしていくプラットフォームでもあるのです。
ナヒさんは、さらにケデムがどのようにその課題に取り組んでいるのかを実際の例を挙げて話してくれました。
「老人の介護に関係するイノベーティブな新しい商品を開発している会社があります。アイディアや商品が素晴らしくても、開発や運用試験には時間もお金もかかります。それに、開発した会社が常に高齢者住宅や介護施設に適切なコネクションがあるとも限らない。せっかくの良いアイディアも必要な人の手に届かなければ使われようがありません」。

そんな時こそ全国にある介護付き住宅、高齢者向け住宅、介護施設など、230以上の施設を代表しているケデムのネットワークが役に立つとナヒさんは言います。
「そのような商品なら○○という住宅にいる専門家に相談すると良い」「そういう技術は××の施設に運用試験ができる住居者が多い」などと、即座に適切なマッチングが可能だと言います。
また、加盟施設にはそれぞれ専門スタッフがいるため、実地経験に基づいた助言を受けることもできる。ここでお墨付きをもらえれば実地での使用に耐える商品であることが実証される、そんな仕組みを目指しているのだそうです。
ケデムはAge Techに特化したイノベーションハブを持ち、技術進化を促進するだけでなく市場にも入りやすくする役割をも視野に入れています。
高齢者本人の豊かな人生、高齢者施設の人手不足解消やサービス向上、商品を開発する会社、これら3つのWinが社会全体のWinを作り出す、そんなイノベーションハブを目指しているのです。

最後に
他にもナヒさんは、自らの経験に基づいた興味深い話を数多く聞かせてくれました。
前述の日本への研修旅行でも、高齢社会への取り組みについて、様々なことを学んだそうです。また今後は高齢者向け技術の分野でも、日本との協力の可能性を探っていきたいと話してくれました。「日本は高齢者を敬う社会だと思いました。これもイスラエルが日本から学ぶべきことの一つです」ナヒさんはそう語ります。
イスラエルと日本では高齢社会の状況は異なります。しかし、それぞれが持つ経験や技術から学び合えることは多いでしょう。

「実際に仕事をリタイアした”高齢者”になってからの人生というのは決して短くありません。僕は妻と一緒に将来高齢者住宅に住むための貯金をしています」そう言って明るく笑うナヒさん。
取材前は、私も高齢化社会を「避けられない問題」として考えていました。けれど、高齢者住宅協会の運営にとどまらず高齢者社会全体、コミュニティ全体を設計しているナヒさんの話を聞いているうちに、コミュニティ全体が連携して課題に取り組み、コミュニティを作り出す多層の分野が支え合えるシステムをつくることができれば、高齢期は社会にとっても個人にとっても、人生の最も豊かな時間になり得るのだと気づかされました。

取材前は、私も高齢化社会を「避けられない問題」として考えていました。けれど、高齢者住宅協会の運営にとどまらず高齢者社会全体、コミュニティ全体を設計しているナヒさんの話を聞いているうちに、コミュニティ全体が連携して課題に取り組み、コミュニティを作り出す多層の分野が支え合えるシステムをつくることができれば、高齢期は社会にとっても個人にとっても、人生の最も豊かな時間になり得るのだと気づかされました。
Kedem イスラエル高齢者住宅コミュニティ推進協会
https://kedem-israel.org/kedem-association-for-promoting-senior-housing-communities-in-israel-npo/


