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急成長中!イスラエルのベジ&ヴィーガン事情

by Miyuki Shimose |2022年01月10日

海外のサイトで、世界で一番ヴィーガンフレンドリーな町にテルアビブが認定されました。実は、イスラエルは世界が注目するヴィーガン大国。地中海に面する小さな中東国家、イスラエルがヴィーガン大国となった理由についてご紹介します。


青いテーブルクロスの上に置かれたイスラエルのヴィーガン料理の写真です。

イスラエルの有力な新聞社、ハアレツによるとイスラエルの人口の5%はヴィーガンとのこと。世界と比較しても、メキシコ、英国、ポーランドに次いで、ヴィーガンの割合が高い国の一つなんです。
イスラエルでヴィーガニズムが一般的になると、イスラエル国防軍にも変化をもたらしました(全国民に兵役義務があるため)。制服をヴィーガンに配慮した物(革製のブーツから、人工革製のブーツ等)に変更できるようなり、基地での食事もヴィーガン料理が提供されています。



なぜイスラエルでヴィーガンが浸透したのでしょうか?その背景にはイスラエルの社会に秘密がありました。


多様性を受け入れる文化

イスラエルは建国から73年ほどの新しい国家です。また、さまざまな国や地域のから来た人や文化が混ざる、多文化社会なのです。さらに平均年齢が30.5歳と若く (ちなみに2019年の日本の平均年齢は47.4歳) 、国際社会の変化に対して敏感に反応できる柔軟さを併せ持つ先進国家となりました。この若さと柔軟さがイスラエルの発展のパワーの根源となっています。


若者の間では、ヴィーガニズムだけでなく、環境問題やLGBTQ+についてのリベラルな考えが広く受け入れられています。毎年テルアビブではプライドパレードが盛大に開催されていることも、イスラエルの若い世代の活気と文化を象徴しています。


虹色のキッパを被ったお爺さんの後ろ姿を写した写真です。
写真提供: Aviv Dolev

ユダヤ教の教え : カシュルート

ユダヤ教には、食べ物に関する厳しい規律があります。それがカシュルートです。この基準を満たした食べ物をコーシャ(カシェル:כּשר)といいます。


今話題のコーシャフードって?その秘密に迫ってみよう。
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今話題のコーシャフードって?その秘密に迫ってみよう。 今話題のコーシャフードって?その秘密に迫ってみよ...

木村 リヒ / 2021年08月12日


カシュルートには「母の乳で子を煮込んではならない」とあり、具体的には肉類と乳製品を同時に食べてはいけないという規律があります。したがって、乳製品を食べた後に肉製品を食べるためには2時間、その逆は6時間、時間をあけないとそれぞれの食品を食べてはいけません。


このカシュルートの考えのもとに、イスラエルで販売される食品は厳しく3つに分類されています。肉を含むもの(べサリ : בשרי)、乳製品を含むもの(ハラヴィ: חלבי)、どちらも含まないもの(パルヴェ: פרווה)です。そのため、イスラエル社会で間食やランチとして食べられている、ファラフェルやフムス、タヒナ(ねりごまソース)は、肉も乳製品も含みません。近年これらは、ヴィーガンフードとして世界的に認知されるようになりました。(注:パルヴェには魚や蜂蜜が含まれるため、パルヴェ≠ヴィーガン)


宗教的にも文化的にも、食品に何が含まれているかを気にするイスラエル人は非常に多いです。コーシャかヴィーガンかに関わらず、口に入れる食品に対して、詳細に確認する風習があります。レストランで食事をする時にも、料理に何が含まれているかメニューを見て確認し、レストランも真摯に対応します。また、反対にヴィーガン食品であるということはパルヴェであるということ。カシュルートを守る人も、守らない人も一緒に食事を楽しめるため、ヴィーガン食品は広く受け入れられました。ヴィーガンは宗教や思想を超えて、さまざまな人に寄り添うことができる食事なのです。


ボウルに入った中東のコロッケのような食べ物、ファラフェルの写真です。

ヴィーガンを支える社会のしくみ

レストラン経営においても、コーシャの考えから、肉類と乳製品を同時に提供することが厳しく制限されています。肉類と乳製品が同じ冷蔵庫、同じ調理具、同じお皿、同じテーブルに乗ることも禁止されているからです。肉用の設備と乳製品用の設備を完全に分ける必要があります。そのため、レストランも肉類提供の店、乳製品提供の店、どちらも扱わない店と明確に分けられています。これを管轄するのが、ラバノット局(Chief Rabbinate of Israel)という、宗教的な行政局です。しかし、ヴィーガンのレストランであれば、肉も乳製品も扱わないため、宗教的な規律が少なく、開業が比較的簡単に行えるため、初期投資が少なく済みます。


この仕組みが後押しとなり、イスラエル中にはたくさんのヴィーガンレストランがあります。伝統的なファラフェル屋さんを含め、テルアビブだけでも36以上の完全ヴィーガンレストランがあり、その数は増え続けています。また、ヴィーガンレストランではなくても、多くのレストランでヴィーガンオプションが採用されており、アレルギーや食べられない食品に対してもレストランが柔軟に対応します。多文化社会のイスラエルでは、レストランも顧客獲得のために柔軟性が必要不可欠だった為です。イスラエルでは、わざわざ特別なレストランを探す必要がありません、気に入ったレストランに気軽に足を運んでみてください。必ずあなたに合った、美味しい料理が見つかるでしょう!



またイスラエルは、非常に高い食料自給率を誇る農業大国。新鮮な国産野菜やオーガニック野菜がどこでも手軽に購入できます。地中海の太陽をたくさん浴びた新鮮な野菜はあまみとうまみがたっぷり。パプリカやトマトなど、そのままでも十分おやつになるほどです。国土の90%が砂漠地帯という厳しい条件のもとでも、アグリテックの発展と、点滴灌漑と言われる水のロスが少ない効率的な方法で農業に成功しています。


色とりどりのトマトやキュウリ、パプリカが入ったサラダボウルの写真です。

ヴィーガンNPOの活動も盛んに行われています。その中でも特にVegan Friendly の影響は、イスラエルのヴィーガンにとって欠かせないものでしょう。ヴィーガン対応の食品に対して認定マークを提供することで、ヴィーガン食品が簡単に安心して選択できるようになりました。このようなNPOの積極的な活動により、旅行者や移民の方でも快適にイスラエルでヴィーガン生活を送れるようになっています。


ハートの形をしたカブにヴィーガン・フレンドリーと描かれたイラストです。

イスラエルのヴィーガン事情から見えてくること

イスラエルのヴィーガン&ベジタリアンを支える、さまざまな背景をご紹介しました。イスラエルには3つの宗教の聖地があり、宗教的な一面がある一方で、実は先進的な一面もあります。さらに面白いのは、イスラエルでは宗教的な基盤がヴィーガニズムの浸透を促進させたと言えることです。時として、保守的な社会はヴィーガニズムのようなリベラルな考え方を受け入れにくいとされますが、イスラエルにおいては絶妙なバランスで両方の側面が成り立っていると肌で感じます。ダイバーシティが注目されている現在、イスラエルのような多文化共生社会から学べることが沢山ありそうです。食を通して、さまざまな人が繋がれることを願います。