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FOOD

砂漠のワイナリーツアー『テイスト・オブ・ネゲブ』

by ISRAERU 編集部 |2022年09月20日

前回ご紹介したユダのワイナリーに引き続き、今回はイスラエルの南部、ネゲブ砂漠にあるワイナリーを皆さんにご紹介したいと思います。


ネゲブ地方はイスラエルの南部に位置していて、イスラエル全体の50%近くもの土地を占めているもっとも大きな地域です。ほとんどが砂漠であるこの地域は同時に、もっとも人口の少ない地域でもあります。ネゲブで見られる景色は黄色、黄土色、茶色ばかりで、見渡す限りの平原です。けれどイスラエル人はここでも持ち前の創意工夫の力を発揮し、砂漠の中心で農業をおこない、生命を維持し、生活を営む方法をあみ出したのでした。見渡す限り荒れ地の岩石砂漠で車を何キロも走らせていると、照り付ける灼熱の太陽の下にあってどういうわけか緑豊かに成長している雄大なブドウ畑に出くわして驚かされるのです。



多くの人にとって「ワイン」と「砂漠」という概念は相容れないものですが、ネゲブ砂漠にあるワインメーカーたちはその常識を覆すためにさまざまな努力を惜しみませんでした。ネゲブ砂漠ではここ数年で25を超えるワイナリーが新設されました。ワイナリー同士が協力し合うことで、ネゲブ砂漠はワイナリーにとってもそしてワインツーリズムにやってくる観光客にとっても、より良いものへと変化していったのです。


今回もVinspirationの協力の元、「フレンドリー・ネゲブ」のツアーに参加し、 バスで1日に3つのワイナリーを訪れました。私たちはネゲブのワイナリーの歓待を受け、新鮮で美味しいワインを心ゆくまで味わい、それぞれのワイナリーの哲学を聞き、普段は訪れることのないイスラエルの特別な一面を、新たに発見することになりました。


テルアビブ中央駅からバスに乗り込み、南へ出発

ツアー参加者に配られた地図やパンフレット。砂漠にあるファランという町で作られている、ラクダミルク石鹸の試供品も入っていました。

朝8:30、テルアビブ中央駅からバスに乗り込み南へ出発です。この時間はまだ太陽も低い位置にあり多少涼しいのですが、日中は日差しが強くなることを見越して、準備は万端です。


南へ向かうにつれて海岸都市テルアビブの喧騒と湿った空気が遠ざかり、そのかわりに砂漠の静寂と乾燥した熱風が私たちを覆い始めます。


ツアー参加者全員に、ネゲブ砂漠にあるワイナリーのリストと地図、ネゲブの解説と、厳しい自然環境で孤高に生き抜く動物たちの美しい写真が印刷されたパンフレットが配られました。


「フレンドリー・ネゲブ」のツアーは、ガイドのアヤさん(イスラエルでもアヤは比較的ポピュラーな女性の名前です)を含めて8人。少人数なので、初対面の人たちも仲間意識が芽生えてとても温かい雰囲気でした。ガイドのアヤさんは活発なエネルギーに満ちた方で、ネゲブのワインについて次のように説明して下さいました。


「ネゲブは砂漠性気候に属していますので、昼と夜の気温差が激しく空気が乾燥しています。そのような気候はワインに特徴的な個性を与えます。もちろん課題もありますが、その個性的な生い立ちから、ネゲブのワインはブラインド・テイスティングでも簡単に見つけることができるのです」


良くも悪くも常識の枠に収まらない個性的なワイン。イスラエルらしさを彷彿とさせます。今日は楽しみがたくさんあるようで、砂漠のワインを試す気持ちに満ち満ちています!


ピント・ワイナリー(イェルハム)

砂漠の真ん中で、南へ向かう道はどこまでも伸びているように見えます。ネゲブ最大の都市ベエル・シェバを通り過ぎた後も、私たちのバスはさらに南下して行きました。


道の分岐点でバスが方向転換したところに標識がありました。「イェルハム ・ブドウ畑」。ツアーの最初の目的地です。


こんな厳しい雄大な自然の中に立っている、イェルハム・ブドウ畑の小さな看板。大きなブドウの房の絵がかわいらしいです。

イェルハムはネゲブ砂漠のほぼ中央に位置する小さな町です。私たちはバスから降りると、長らく窓から眺めていた岩だらけの岩石砂漠の景色とは対照的な、ブドウの木に彩られた美しい緑に導かれて歩みを進めました。


ピント・ワイナリーの社長、デビッド・ピントさんが私たちを歓待してくださいました。ピント家が何年にも渡ってイェルハムで慈善活動を行い、また観光開発に力を注いだ話は大変興味深く、その後ピント家が農業を開発することを決定した物語は感動的でした。デビッドさんの話によると、16年間ワインの専門家およびソムリエとして働いてきた彼は、さまざまな葛藤の後に、最終的にこの地でブドウを栽培することを提案したのでした。そして今年、ついに初の収穫を迎え自社のブドウを使ったワインを造る準備が整ったのです。


さらに来年までには、ぶどう園のそばに独自のビジターセンターを開設する予定です。


お話を伺ううちに、テイスティングしているワインの良さをよりいっそう感じられるような気持ちになりました。砂漠というこんな過酷な環境の中で、美味しいワインをつくる。まるで奇跡のようだと思いました。1本のワインボトルのなかに、どんな困難にもあきらめずに立ち向かっていくイスラエルの不屈の精神が詰まっている、そう感じました。


畑のブドウについて説明してくれるデビッドさん。乾いた空気の砂漠の真ん中、強い日差しに負けないよう、ブドウも人間も一生懸命に命を紡いでいるのです。

ぶどう畑を歩いていくと、人の頭ほど(!)の大きさのブドウの房がたくさんありました。これはスペイン北部原産のグルナッシュという品種だそうで、デビットさんの説明によると、すでにロゼに使用される小さなブドウは収穫済み。グルナッシュはまもなく収穫されて赤ワインになるとのことでした。 そして、私たちはこのブドウを少し味見させてもらいました。ジューシーで甘味が口いっぱいに広がります。愛情込めて育てられたこんなブドウからつくられるワイン、とっても良いワインになるに違いありません!


入り口の看板の絵とまったく同じ大きなブドウの房! 甘味たっぷりのグルナッシュ。乾燥や暑さに強い品種なのだそうです。

砂漠気候の空気はとても乾燥していて、それは直に肌で感じるほどです。デビッドさんは言います。

「この乾燥している気候を私たちは良い点としてとらえたいと思います。乾燥しているということは、農薬を使用する理由がほとんどないということです。 可能ならば農薬散布は完全に廃止する方向でいきたいと思っています」


そして、ヘブライ語にはブドウの木のそれぞれの部分を表現する単語が一つ一つ存在するということを、皆さんはご存知ですか? 私は知らなかったのですが、デビッドさんはブドウのそれぞれの部位を見せながらそれを説明してくれました。それで、ワインがイスラエルのユダヤ文化にどれほど深く関係しているのかの理解がさらに深まったと思います。この砂漠においてさえ、多くの苦労を背負いこみながらも、ワインとの繋がりを持ち続けようとする彼らの精神性の奥深さが少し理解できた気持ちにもなりました。


ピントワイナリーの、美しくシンプルなロゴ。プレゼントにも最適です。

こうやって、たくさんの知識と感動的なお話を聞いた私たちは、この豊かな緑に囲まれた場所を離れ、次なる目的地に向かってまた砂漠の道へと戻ります。



スデ・ボケル・ワイナリー

次なる目的地はスデ・ボケルです。


スデ・ボケルは、イスラエルの初代首相ダビッド・ベングリオンが政治家としての職を退いた後、「イスラエル人は砂漠を開拓しその土地を利用して住まなければならない」との理想から移り住んだことで有名なキブツです。イスラエルの初代ファースト・レディーであるベングリオンの妻、ポーラさんの名前が冠されたカフェ、「ポーラ・カフェ」がこのキブツの歴史を表しています。


イスラエルの初代首相、ダビッド・ベングリオン夫人のポーラさんの名を冠したカフェ。スデ・ボケル・ワイナリーのワインはここで販売されています。

そしてここではなんと、コーヒーとチョコレートの香り、そして壁に並んだボトルという光景が私たちを迎えてくれたのです。予想と大きく違うのでちょっと驚きましたが、この キブツ・スデ・ボケルではワイナリーのワインがカフェで直接販売されているとのことで、ワインのテイスティングに独特な雰囲気をもたらしていました。


私たちを迎え入れてくれたホストは、ツビ・レマックさん。彼は 数十年前、サンフランシスコからイスラエルへと移住し (ヘブライ語で”アリヤー”といいます*)、乾燥した気候におけるワイン造りの知識はそこからもたらされたものであると自己紹介をしてくれました。


*アリヤー:ディアスポラ(民族離散)により土地を追われ世界に離散したユダヤ人が、イスラエルの土地に帰ることを”アリヤー”といいます。


ツビさんはもう自分自身でブドウを栽培することはしていないと言います。彼の事業は小規模で、1年間に製造するワインは厳選された約5,000本のみなのだそうです。ツビさんの哲学を聞いて、試飲したワインの高級感がさらに増しました。


「ブドウは、ブドウ自身が出来得る限りの最高の状態を私たちに与えてくれているということを私は学んだ。人間がどんな手を加えようと、ブドウそのものの品質に敵うものなどない、ということだ」

そうツビさんはおっしゃいました。


ツビさんのお話から、人生には挑戦と忍耐が必要であるということを学びました。



ツビさんはスデ・ボケルに引越した後、農業で非常に苦労を重ねたと言います。実は彼には壮大な計画がありました。それは塩水を使ってブドウを育てるということです。塩分を含まない真水を入手すること、これは砂漠における生命活動の一大命題です。もし塩水でブドウを育てることができるなら、それは人類の大きな革命ともいえるでしょう。けれど、残念なことにその計画は失敗に終わりました。それでもツビさんは進歩の過程には実験は不可欠だと言います。


「それが人生における芸術だとは思わないか?」ツビさんは問いかけます。


「人生を歩むための成功レシピなどは存在しない。ワイン造りで成功する一つの回答などもありはしない。ワインのボトルがそれぞれに異なるように、人生だって一つとして同じものなどないのだ」


ツビさんの哲学によって、ワインを試飲する私たちの間には親密度がさらに増し、なんだか特別な空間が提供された気持ちになりました。


スデ・ボケルの近くを通ることがあったら、ここに立ち寄ることを強くお勧めします。カフェに漂うコーヒーの香りは素晴らしく、ここでの時間をより充実したものにしてくれました。


この心地よい空間にもっと座っていたい気持ちで後ろ髪をひかれるようでしたが、残念なことに移動の時間がせまってきていました。


私たちは次なる目的地へと向かいます!



デザート・シェード  ナバト・ワイナリー (ミツペ・ラモン)

「砂漠の日陰」という名のエコ・キャンプ場。廃材を再利用した建物も目につきます。

壮大なラモン・クレーターを見下ろす位置にバスが止まり、乾いた空気へと足を踏み出しました。真昼の太陽は高く、強く、まぶしかったのですが、なぜか前回の2度の降車時よりも涼しく感じました。 ここが、独自のワイナリーを備えたエコ・キャンプ場、デザート・シェード(砂漠の日陰)の入り口です。灼熱の砂漠の風を寄せつけない、環境に優しい独自の構造が特徴的です。


自然の資材を利用して作られたアーチ。日陰と風が一段と涼しく感じられます。

ミツペ・ラモンの驚異的なクレーターを見下ろすことができる素敵な建物に案内されました。この絶景を眺めながら飲むワインはまた格別の味です。目に映る景色は、真っ青な空と、太陽の光を跳ね返して白く光る茶色い大地。これを地平の彼方まで遮るものはなにもなく、窓の外はまさに砂漠です。


海抜 840メートルのこの場所では、風がさわやかにほてりを冷やし、建物の土壁は照りつける太陽の熱から私たちをひんやりと守ってくれているのです。


日差しがあまりにも強く、くすんだ茶色い土が真っ白に光を照り返すのです。土壁の建物の涼しさは驚くほどでした。

外がどんなに暑くとも、土壁で作られた建物の中に入ればどれほど涼しいか。それを体験したことのない人にはどんな言葉を尽くしても理解してもらえないのではないか。そう思わせるほど、土壁の建物は驚くほどの涼しさでした。


ここではナバト・ワイナリーのワイン生産者、イランさんにお話を伺いました。 彼は、人生とは常に予測不可能であること、そして人生の課題に対しては柔軟に対応しなければならないことを私たちに教えてくれました。


「特にこの地域は年間の降水量すら一貫していないのです。毎回同じことだけを繰り返していたい、とは言えないのです。ブレンドに毎年まったく同じ味を強制することは、不可能なのです」


チーズ、クラッカー、生野菜にオリーブ…。ワインを引き立てるおつまみも、とてもおいしかったです。

さらにここでは、観光哲学についても大きな気づきを得ることができました。イランさんは言います。


「ホテルに滞在するだけでは、この砂漠を真に体験したとは言えません。本当の砂漠体験、これこそが私たちデザート・シェードが提供するものです。私たちは砂漠のある厳しくも奥深い自然環境そのものを体験し自然に感謝すると同時に、偉大なる砂漠を楽しむ機会もたくさん準備しています」


ネゲブ砂漠の自然の空気を楽しみたいと思われた方は、ホテルから離れてこのデザート・シェードで 1~2泊することをおすすめします。その名の通り、ここは灼熱の太陽が照りつける砂漠にあって、日陰でリラックスすることができる場所なのです。宿泊施設は土壁で作られていてひんやりと涼しく、人工照明のない夜はきらめく星たちが恐ろしいほどにはっきりと見えるのです。


暗闇にちりばめられた星たちが輝く紫の空の下で、壮大なクレーターのパノラマビューを眺めながらいただく一杯のワインは、間違いなく魂の奥深くまで染み入ることでしょう。


(注意:言葉で皆さんにご説明しなければならない「記事」を書きながら言い切ってしまうのは大変心苦しいのですが、実際のところ、砂漠の自然の美しさは言葉には尽くせません。そして一度砂漠のとりこになると街にはなかなか戻れなくなると言います。どうか皆さん、砂漠に魂を盗まれないよう、お気をつけください)


宿泊施設。この雄大な砂漠に囲まれて眠り起きることを想像してみてください。できることならここに泊まっていきたかったです。

ツフ・ワイナリー

単にワインを飲んで楽しみ、次の目的地へ移動……そんな心構えでスタートしたこのツアーは、予想をはるかに超えて内容が濃く、どのワイナリーにも魂を揺さぶるような哲学がありました。おかげでスケジュールは完全に予定の時間をオーバーしてしまい、残念ながら本日訪問する予定だった最後のワイナリー、ツフ・ワイナリーへの移動が間に合わなくなってしまったのです。けれど、幸いにもワイナリーのホストがわざわざ私たちに会いに来てくれました。訪問先が私たちの方まで出向いてきてくれた、出張ツアーです。


私たちは引き続きミツペ・ラモンに滞在したままでしたが、ツフ・ワイナリーのエリエゼルさんが私たちに合流してくれました。彼のワイナリーを訪問できなかったのは心残りなのですが、それでも私たちは彼に会って話をし、ワインを試飲することができたのです。彼の声はかすれていましたが、それでも私たちがいるミツペ・ラモンまで出向いて彼の知恵を分かち合ってくれました。


エリエゼルさんは本当のワインの楽しみ方について、驚くほどたくさんのアイディアを持っていました。ワイングラスを回してワインが渦巻くように揺らすことで、より複雑なアロマとフレーバーを解き放つ、そんな小さなことですら、ワインの楽しみを倍増してくれるのです。皆さんが、もしツフを訪れる機会があって、運よくエリエゼルさんをつかまえられた場合は、訪問の時間設定を予定より大幅に延長することをおすすめします。


ブドウの育成について、エリエゼルさんは「ブドウの木は、ほんの少しだけ苦しめるべきです」と言います。


「ブドウの木に十分な水をやらないと房の数は減りますが、その木はすべての力を注いでブドウを産み出そうとします。子育てと同じで、たくさんあげるすぎと甘やかされてしまうのです。けれど必要なものだけをしっかり与え、生きていく上での課題を解決できるようにそばにいてやれば、どんなことに直面しても力を発揮して生き抜いていく準備ができて、力強く成長するのです」


エリエゼルさんが持ってきてくれた地域のワインたち。どれも個性豊で、甲乙つけがたいワインたちでした。

エリエゼルさんはツフ・ワイナリーという自分のワイナリーのワインだけでなく、ラマット・ネゲブ・ワイナリーミドゥバル・ワイナリーという2つのワイナリーからもワインを持ってきて、さまざまな味を試飲させてくれました。 たった1 種類のワインを作るのにどれほどの方法があるのか。どれだけ聞いても驚きは尽きません。エリエゼルさんのワイナリーだけで3つもあるシャルドネは、一つ一つが異なった独自のフレーバーとフィーリングを持っているものでした。


ワインを専門に学ぼうとするととても難しいことのように感じますが、エリエゼルさんは、偉大なワインの専門家ならみんな抑えているというツボを紹介してくれました。一つ目は、ワインに含まれているどんなフレーバーを自分が認識しているのかということ。そして、口に含んだワインに隠されている果実のアロマを意識するということ。これが彼から与えられたヒントでした。


私たちはエリエゼルさんととても楽しく素晴らしい時間を過ごしました。思いもよらぬアクシデントで、ツフ・ワイナリーは訪問できませんでしたが、読者の皆さんがぜひ私の代わりに彼のワイナリーを訪れてみてほしいと思います。とても魅力的な時間を過ごせるだろうと確信しています。



ツフ・ワイナリーのワイン。ツフ・ワイナリーは手摘みで厳選したブドウを収穫し、少量で高品質のワインを生産しています。写真は2021年のゲヴァルツトラミネール。ノンフィルター、硫黄不使用。

ツアーの終わりに

時間オーバーという想定外の出来事もありましたが、予定の行程を(一応)すべて終えて私たちがバスに戻ったのはすでに17時過ぎ。心地よく疲れ、そしてちょっとハイな気持ちになった私たちは、バスの中で改めて、今日試飲したワインについて、そしてたくさんの感動的な話を聞いた今日という日について、考えました。


今日私たちは本当にたくさんの、さまざまな異なる美味しいワインを試飲したけれど、今日のツアーではそれ以上に、想像を絶する状況でワインを育てる苦労や哲学について学びました。今後ワインを飲むときにはきっと、「フランスの緑の畑の風景」にとどまらない奥深い哲学にまで思いをめぐらせるようになったと、私は思うのです。人々は何千年もの間、ネゲブ砂漠でそれらを育ててきましたが、その伝統は今でも続いています。


厳しい自然環境で生き抜く動植物には人智を超えた進化の跡があるように、砂漠のワイナリーには私たちが知らなかった哲学がたくさん詰まっているのです。


「ブドウ栽培とワイン造りの古代の伝統は、現代の革新とこの見事な砂漠の景色とあいまって、今日私たちが試飲したワインを単なる「良いワイン」以上のものにしています。これは、大きな課題に直面しても挫けることなく立ち向かっていくイスラエルの創意工夫の物語なのです」

ガイドのアヤさんがこのツアーを締めくくりました。


私は少し酔いのまわった頭で、今日の体験をぼんやりと考え続けながら、なぜかほっとした気持ちに包まれました。太陽が傾きはじめました。何千年も日は昇りまた沈んでいったなかで、古代ユダヤ人が砂漠の中でワインを作っていた様子を想像し、それが今日の私につながっていることに喜びを感じながら私は無事に家に到着しました。


大変素晴らしいツアーでした。


読者の皆さんにも、ぜひ、ネゲブ砂漠のワイナリーを一度体験してみて欲しいです。日常のすべてから逃れ、砂漠の風に心を落ち着かせていただくワインは、特別な思い出となるでしょう。


(文責:Sean Goldfeder / 翻訳:中島 直美)