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FASHION

死海で生まれ変わるホーリージーンズMASADA

by SHIYA AVNAT |2021年12月29日


ユダヤ人の歴史は2000 年以上前から続いていますが、ユダヤ教の約束の地であるイスラエルは建国から73年と真新しい国であると同時に移民から成り立っている国でもあります。


近年反ユダヤ主義(Anti-semitism)や国の経済状態の悪化から、ヨーロッパからの移民も年々増加傾向にあります。中でもフランスからの移民は群を抜いて多く、2012 年から20 万人以上の人々がフランスからイスラエルへ移住しており、90 年代のソビエト崩壊後から現在に至るまで、イスラエル人口の3割以上にも上るロシア系ユダヤ人が移住した以来の大々的な民族移住となっています。


バカンス後に日焼けの痕が無いと可哀そうな人になってしまうパリジェンヌにとって、テルアビブのビーチは格好の避暑地でもあります。


テルアビブビーチの夕暮れ時のビルを写した写真です。
テルアビブビーチの夕暮れ

またフランス系ユダヤ人の旅行客も多く、筆者が住んでいるテルアビブの大通りは、コロナ前は夏になるとフランス語が行き交い、ここがどこだか一瞬わからなくなってしまう程でした。コロナが萬栄した2020 年も、イスラエルに移住した20,000 人のうち11%はフランスからの移民でした。


フランス系ユダヤ人がテルアビブにもたらした恩恵と言えば何と言ってもベーカリー。フレンチが増えてから美味しいクロワッサンやブリオッシュが手に入るようになり、日本で人気のMAISON KAYSERも昨年上陸し、連日多くの人で賑わっています。


テルアビブポートにあるMAISON KAYSERの外装を写した写真です。
テルアビブポートにあるMAISON KAYSER

そんなフランス系ユダヤ人の一人であるデイビッドも、5 年前にパリからイスラエルへ移住した一人です。生粋のパリジャンである彼は、家業が布問屋であった関係で16 歳から29 年間ファッション業界一筋。18 歳の頃にKENZOで働きだしたのを皮切りにいくつかのブランドで働いた後、世界各地のホテルにインスパイアを受けたブランドホテルマニファクチャ を立ち上げます。


日本の雑誌にも取り上げられた際の記事の切り抜きの写真です。
当時日本の雑誌にも取り上げられていたようです。

音楽業界でも好評だったブランドを突然に切り上げたきっかけは、自身のルーツであるユダヤ人と言うアイデンティティが原点回帰となり、イスラエルにインスパイアを受け新たなプロジェクトを始める為でした。


店内にディスプレイされているジーンズや花瓶の写真です。
テルアビブの布屋街にある店内の様子


MASADAデザイナーデイビット・バヌーチ(David・Vannucci)に聞く
ブランドポリシーとは?

MASADA デザイナーデビットの白黒写真です。

―――まずブランドのコンセプトを教えてください。


エコロジカル、再生、アンティークモダンがコンセプトとなっており、イスラエルからインスパイアを受けて今回このブランドを思いつきました。
構想自体は2 年前からあったのですが、パンデミックが影響しているのか、その国の人々が国内の製品を改めて見直して進んで購入するようになり、また洋服に対してもメッセージ性と意味を求める傾向が強くなる中、ポップアップショップの反響が思いの他良かったのでそのままブランドを立ち上げる事にしました。


―――何故ジーンズのリメイクを主体としているのですか?


デビットがジーンズリメイクを行う過程の一部をとらえた写真です。
ジーンズリメイク過程の一部

100%のプロデュースよりも、元からある製品のリメイクを選んでいる理由の一つとして、デニム市場は製造過程で自然環境へのポリューションが多いのが問題点の一つに挙げられており、それをサステナブルデザインできるのも理由の一つです。
またユーズドジーンズは、以前の使用者によって全く違う風合いになるのもユニークな点です。同じ商品でも全く見た目が異なる面白い素材です。


―――なぜ数あるジーンズの中からLevi’sにこだわるのですか?


Levi’sはクオリティが安定している上に、世界各地で手に入ります。

イギリス、アメリカ、ドイツ等世界各地から元となるユーズドジーンズを仕入れ、まずMASADA独自デザインのシェイプにカスタマイズした後、死海に浸して特殊な太陽光で乾燥させ、更に死海の塩でダメージ加工を行います。


―――死海でアート作品を作る芸術家のSigalit Landauさんがいますが、なぜ死海でデニムを加工しようと思いついたのですか?


デビットがジーンズを水につけ、作業を行なっている様子を写した写真です。

まず何かを水につけるという事は宗教にとってとても重要な事であり、ユダヤ教にとってもそれは同じです。水につけると言う行為をスペシャルな場所で行えるのは特別だと思い、死海でのジーンズ加工を思いつきましたが、きっかけは昔、日本人がジーンズを海でダメージ加工をする話を聞いたのを思い出した瞬間でした。
死海の塩はマグネシウムやカリウムを豊富に含んでおり、普通の塩とは異なります。この塩でダメージ加工をする事により、他にはない独特の風味を出す事に成功しています。


マサダの名前を選んだのは、自身のルーツであるユダヤ人のマサダ要塞の話に感銘を受けたのと死海を見下ろせる場所にある事が理由ですね。


―――イスラエルでお勧めの場所を教えてください。


月並みですが、歴史的な場所があるエルサレムを是非ガイドをつけて回る事をお勧めします。
あとマニラホテルのレストランもオススメです。


―――日本には行ったことがありますか?


日本には行った事がありませんが、パリで日本文化とファッションには多く触れています。日本の素晴らしい所は元々あるものをアップブレードする技術であると思います。また、どう効率的に物事を行うかなど、例えばスイカの切り方一つでも色々なテクニックがあって驚きました。

日本のデザイナーでは今、サカイが興味深いです。


ユダヤ人の歴史を色々と説明しながらブランドコンセプトを教えてくれたデイビッドさんは、イスラエルにいながらも今も生粋のパリジャンでした。日本人の私達からするとパリのテイストとユダヤ教の風味が絶妙に交じり合った不思議なエッセンスの話を、ジーンズの藍色に囲まれながら聞いているとどこか聖書のおとぎ話を彷彿とさせ、自分が何の取材に来たのか一瞬忘れてしまう程でした。


フランス系ユダヤ人が抜群のセンスで死海で仕上げるここでしか手に入らないMASADAジーンズ。
イスラエル土産のラインナップ入りする日もそう遠くはないのかもしれません。


MASADA Jean's
Nahalat Binyamin 34 – Tel Aviv

https://masadajeans.com/