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CULTURE

日イ外交70周年記念イベント「鹿子(シシ)と一緒の金曜日(Shishi im Shishi)」

by 中島 直美 |2022年10月17日

ポスター:三陸沿岸部の切紙文化キリコを元に南三陸町上山八幡宮の禰宜、工藤真弓さんがデザインしたもの

2022年の今年は、日本とイスラエルが外交関係を樹立して70周年という節目の年。嬉しいことに近年は観光、経済、人々の交流など、日本とイスラエルの関係がますます強まってきており、両国の各地で開催されている70周年記念のイベントもさらなる盛り上がりをみせています。

今回は9月23日(金)に行われました、在イスラエル日本大使館+文化イベント施設テデルが主催のイベント「鹿子(シシ)と一緒の金曜日(ヘブライ語でShishi im Shishi)」の様子をお知らせいたします。


南テルアビブの会場テデル

このイベントは南テルアビブにあるテデルという、個性あふれるオシャレな場所で開催されました。このテデル、通りから見ると一見普通の建物なのですが、内側はパサージュのような中庭になっていて、一歩足を踏み入れると独特の異世界感が漂います。ここにあるレストラン・ロマノはテルアビブの若者達の話題の的で、週末の夕食時などは予約もなかなか入れられないという、今注目度ナンバー1の場所なのです。


そんなテデルが一夜にして日本の祭り会場に大変身!軒を並べる屋台、大きなステージには鹿子の絵があしらわれた巨大なアート、会場につるされたたくさんの紅白の提灯、そして色とりどりの大漁旗がお祭り気分をかきたてます。

会場には真っ赤なハッピ姿の日本人がちらほらと。実はこの方たちは大使館や復興庁の関係者の皆さんで、このイベントの立役者たち。連日連夜、このイベントの準備に大忙しだったのでした。


日本祭りの内容

この日イ外交70周年イベントは復興庁、日本国際交流基金、在イスラエル日本大使館、日本政府観光局(JNTO)、そして日本人交流会がそれぞれ協力して行われました。


日本入国に関するコロナ規制が緩和され始め、さらにエル・アル航空の日本イスラエル間の直通就航を目前に控えたイスラエル。イスラエル人はただでえ親日派が多いのですが、このイベントでさらに日本に行きたい熱が高まったことは間違いないでしょう。


会場は身動きをとるのも一苦労するほどの盛況ぶりで、会場は2,500人もの入場者でにぎわいました。


会場となったテデルの中庭。青空に紅白の提灯が美しいです。

舞台では、在イスラエル日本大使館の水嶋光一特命全権大使のご挨拶があり、ヘブライ語を駆使したスピーチと東日本大震災におけるイスラエルの支援に感謝を伝え、会場は拍手とラブコールの嵐。「イスラエルの皆さんに感謝を込めたこの祭りを、心より楽しんでいってください」との締めくくりの後は、酒樽の鏡板を割る鏡開きも行われ、会場では東北名産のお酒が振舞われました。イスラエル人のハートは日本にがっちりとらえられて離れなくなってしまったと言っても過言ではありません。


鏡開きに続くイスラエルの和太鼓パフォーマンスチームTAIKO LIFE Israelの力強い演奏が、大使のご挨拶とお酒にしびれた心に、心地よく響きます。日本交流会ボランティアチーム出展の射的の屋台が、お祭り気分を盛り立てます。


イスラエルで和太鼓をたたく「Taiko Life Israel」のパフォーマンス

福島・岩手・宮城東北三県の復興に焦点をあてて

そしてもう一点、このイベントで重要だったのは、このイベントが福島・岩手・宮城の、東北三県が11年前の東日本大震災から復興し、さらなる創生を象徴したものであったことです。


以前、こちらの記事でもご紹介させていただきましたが、イスラエルは2011年の東日本大震災の時にどの国よりも早く、日本に支援の手を差し伸べてくれた国です。野戦病院の設置、医療機器の寄付、震災で傷ついた子供の心のケア、災害地の農業支援などなど…。官民問わず、そして日本在住のユダヤ教のラビまでもが、様々な方法で日本を支援してくれました。早く東北が復興できるように、そしてその先へと進んでいけるように。イスラエルの支援は、素早く、息が長く、そして日本のニーズに沿ったものであり、復興支援から生まれた関係は10年以上たった今でも続いているという方々が多くいるのも事実です。


宮城県南三陸町に伝わる民俗芸能である行山流水戸辺鹿子躍(ぎょうざんみとべ・ししおどり)の様子

イベントの舞台では、宮城県南三陸町に伝わる民俗芸能である行山流水戸辺鹿子躍(ぎょうざんみとべ・ししおどり)の踊り手小野寺翔さんと小岩秀太朗さん、東北出身のミュージシャン白崎映美さん(上々颱風)、宮城県在住の音楽家四倉由公彦さんが率いるバンドThe spirit of Tohokuと、イスラエルを代表するサーフ・ロックバンドBoom Pam が共演。Boom PamとThe spirit of Tohokuは東日本大震災10年の節目に、在京イスラエル大使館のプロジェクト「イスラエル・日本・パートナーシップ・東北イニシアティブ2021」に参加してリモート共演をおこなっていたのですが、この舞台で初の対面共演が実現。


東北出身のミュージシャン白崎映見さん。力強いソウルフルな歌声が会場中に響き渡りました

このバンドの息の合った演奏と鹿子の踊りは、テデルにいた全ての人々を圧倒しました。会場の人々の魂が鹿子と共に踊り、白崎さんの歌声にのせられて天高く上り、テデルの中庭から見える青空から東北まで飛んで行く。そんな芸術の力を強く感じる、超越したパフォーマンスでした。


日本体験として無料で配布されたお酒や飲料、お菓子は、全て東北三県の特産品。ワークショップでは福島県の伝統工芸品である起き上がり小法師の絵付けが行われ、何度倒れても起き上がるかわいらしい小法師の人形に思い思いの絵を描きながら、多くのイスラエル人が東北の復興に思いを馳せました。


福島の伝統工芸品、起き上がり小法師に絵をつける子供たち

さらに、東北三県VRの屋台では、東北の素晴らしい観光地の様子を360度全方向から体験できるVRを楽しむことができました。2分の短い映像ではありますがその美しい景色に息をのみ、ここが南テルアビブの喧騒の中であることをしばし忘れるお客さんも続出。


2回に渡って行われた「酒勉強会」では日本酒専門家のボアズさんをお迎えして、日本酒の成り立ちや歴史、ワインとの違いや麹の役割などについての講演を聞き、東北の有名どころのお酒を使った利き酒に挑戦。


会場の人たちに一口ずつ東北三県のお酒が振る舞われました

テデルは完全に日本色に染まり、ここを訪れたイスラエル人はテルアビブの南端でひと時の日本体験に身を委ねました。


終わりに

日本とイスラエルの外交70周年を記念して行われたこのイベント。
このイベントの名前「鹿子と一緒の金曜日」のヘブライ語読み「Shishi im Shishi(シシ・イム・シシ)」は、イスラエルの公用語であるヘブライ語で金曜日のことを「ヨム・シシ」というところと、宮城県の郷土芸能である鹿子踊りをかけたところから来ています。その名の通り、日本の宮城県の独特な鹿子の踊りと、イスラエルの人々の心が一体になった金曜の午後でした。


筆者は30年近くにイスラエルに暮らしているのですが、こんなに日本とイスラエルが近く感じられることは今までにありませんでした。イスラエル人はいつでも日本のことが大好きで日本を贔屓してくれる人々です。これからは日本の皆さんにももっとイスラエルのことを知ってイスラエルのことを好きになってもらいたいと思っています。


日本とイスラエルの関係がさらに良いものに、さらに強いものになりますように。そう願ってやみません。